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メディアアート界の寵児、真鍋大度が演出~新しい世代の挑戦~

 オペラの演奏会形式は、ここ近年世界的に上演が増えているが、普段オペラ座のオーケストラピットに入らないオーケストラがオペラ上演に取り組むことでレアな響きが聞けることが魅力の一つだ。ベルリン・フィルによる『トリスタン』などはその筆頭例だろう。さらに、通常のオペラプロダクションにはない、音楽優先のコアなドラマトゥルギーがディープに経験できるという新たな表現への期待もある。

 オーチャードホールと指揮者アンドレア・バッティストーニ&東京フィルは、ここ数年、定期的にオペラの演奏会形式に取り組んできているが、今年の作品は、ある意味究極のイタリア・オペラともいうべきヴェルディ『オテロ』である。しかも、ついにというべきか、このビジュアル演出に、メディアアートの寵児的な存在である、ライゾマティクスリサーチが登場することになった。これは事件である。ライゾマティクスといえば、リアルタイム・インタラクションの最先端表現の代表的な存在だからだ。今回の演奏会形式上演がむしろ、世界的な最前衛の実験的舞台となる可能性が出てきたと言ってもいい。しかも、この流れは、マエストロのたっての要望から来ているという。オペラの領域でも新しい世代の挑戦が始まったのである。

 ライゾマティクスリサーチのリーダーである真鍋大度とバッティストーニは、『オテロ』を聴く任意の観客の心理状態を解析するなど様々な実験を試みつつ、この舞台を製作していると聞くが、彼らのコンセプトは、実際に指揮中の指揮者の身体データをセンシングして、舞台美術表現に反映させるというアプローチである。しかもある一つのデータに依存するのではなく、音楽のホール音自体もセンシングし、今ここで変容していく指揮者のテンション、演奏者全体のエネルギーによって大きく左右されていく生の音楽が、複合的にリアルタイムでデータ解析され、視覚表現に導入されていくという。データビジュアリゼーションによる心理劇が映像で表現されるわけだ。晩年のヴェルディの渾身の作品であり、序曲もなく、幕を通じて音楽が常に持続するという特別な作曲形式に昇華された『オテロ』こそ、生成的な音楽的エモーションが映像にも直結されていく、この新しい実験的試みに相応しい。『オテロ』の流動性に充ちた水の深層流を思わせる音楽美に対して、全く斬新な表現方法から取り組む今回の上演に大いに期待が膨らむのだ。

 バッティストーニ×ライゾマティクスの『オテロ』は、これまでに経験したことのない、音楽に潜む心理状態がデータからも抉り出されるという点で、AI解析時代の最新のクリエーションとなるに違いない。

 


LIVE INFORMATION

ヴェルディ:オペラ『オテロ』(演奏会形式)全4幕(原語上演・字幕付)
○9/8(金)19:00開演 9/10(日)15:00開演
会場:Bunkamuraオーチャードホール
[指揮・演出]アンドレア・バッティストーニ(東京フィル首席指揮者)
[映像演出]ライゾマティクスリサーチ
[オテロ]フランチェスコ・アニーレ/[デズデーモナ]エレーナ・モシュク/[イアーゴ]イヴァン・インヴェラルディ/[ロドヴィーコ]ジョン  ハオ/[カッシオ]高橋達也/[エミーリア]清水華澄/[ロデリーゴ]与儀巧/[モンターノ]斉木健詞[合唱]新国立劇場合唱団/[合唱指揮]冨平恭平/[児童合唱]世田谷ジュニア合唱団/[児童合唱指揮]掛江みどり/[管弦楽]東京フィルハーモニー交響楽団

10代のためのプレミアム・コンサート
「はじめての演奏会オペラ~イタリア・オペラ編~」

○9/9(土)15:30開演 会場:Bunkamuraオーチャードホール

www.bunkamura.co.jp/orchard/lineup/17_otello/