インタビュー

アンドレア・バッティストーニ(Andrea Battistoni)に気鋭の指揮者・坂入健司郎が尋ねる

〈BEYOND THE STANDARD〉から指揮哲学、今後の展望まで

オーケストラ音楽に初めて触れてみたいと思っている若い人に聴いてほしい、クラシック・スタンダード曲と邦人作曲家作品を組み合わせた〈BEYOND THE STANDARD〉シリーズが完結!

 アンドレア・バッティストーニと東京フィルハーモニー交響楽団が2018年から取り組んできた、クラシックのスタンダードな名曲と邦人作曲家作品を組み合わせたセッション・レコーディング・プロジェクト〈BEYOND THE STANDARD〉。ついにプロジェクトのフィナーレを飾る第5弾が10月21日にリリースされた。今回のアルバムのタイトルは『オーケストラ名曲集』と銘打ち、世界中から珠玉の名曲たちを選曲。邦人作曲家作品に加えて、バッティストーニ本人が作曲した作品も収録されている。

ANDREA BATTISTONI,東京フィルハーモニー交響楽団 『オーケストラ名曲集』 Columbia(2020)

 そこで、今回のアルバムについてはもちろんのこと、3年間にわたる本レコーディング・プロジェクト、指揮に取り組むときの視点や今後の活動についてなど、マエストロ・バッティストーニに10の質問を用意、大いに語っていただいた。

1. 今回のアルバムでは、普段マエストロが取り上げないような珍しいレパートリーもたくさん入っているように思えますが、選曲の経緯を教えてください。

 「これまでのシリーズでは自分の定番のレパートリーを録音してきたので、このアルバムでアンコール・ピースをまとめてお届けして、このシリーズを軽やかな気持ちで締めくくろうというものです。これらの曲は、日本では頻繁に演奏していないかもしれませんが、実際は何度か演奏している作品です。今回の選曲は、スペインからイタリア、日本を含む新世界まで、様々な〈音楽の国〉や〈各国の楽派〉へのオマージュのようなものです。それぞれの国の特徴的な音と音楽的感性が、音楽への愛で繋がっているのを楽しめると思います」

2. 最近は、オムニバス形式の名曲アルバムが少なくなってきているように思えます。このアルバムを製作するときには、曲順のバランスなど〈起承転結〉のようなストーリー性を意識していましたか?

 「子供の頃にトスカニーニ、ストコフスキー、バーンスタインなどの名曲集を聴いて、オーケストラの名曲をたくさん知ったので、実はこの手のアルバムが大好きなのです! こうした刺激的でエネルギッシュな音楽をリラックスして楽しむのは、聴き手にとってとても楽しいことです。曲順の進行として唯一言えるのは、最初はより複雑で豊かな交響詩から、最後は短く軽快な作品へと向かうことでしょうか。まるでレストランにいて、ディナーの最後にワインやアイスクリーム、シャーベットと一緒に素晴らしいチーズのセレクションを楽しむような感覚です」

3. クラシックを初めて聴く人でも、のめり込んでしまうような魅力的なアルバムだと感じました。クラシック音楽を聴いた経験が無い方々へクラシック音楽に触れてもらうためのアプローチで普段心がけていることやアイデアを教えてください。

 「このアルバムは、交響曲にあまり馴染みのない方にも、交響曲の世界への入口として最適だと思います。特に、オーケストラ音楽に初めて触れてみたいと思っている若い人にお勧めしたい。このアルバムに収録されているすべての作品は、音で物語を語り、音符の背後にあるイメージや幻想を呼び起こしていて、作品の形式がわかりやすくなっています。華麗な音楽の花火のような選曲を、ヴィルトゥオーゾ・オーケストラが楽しみながら最高の演奏で聴かせるのだから、これこそクラシック音楽への退屈さの打開策そのものです!」

4. 例えば、シベリウス“フィンランディア”では各パートの発音がくっきりとしていて、鬱屈とした部分が皆無で驚きました。収録曲に関してのこだわりを教えてください。

 「このシベリウス作品では、愛国的な内容や、戦争と自由を含むその思想のドラマチックな状況にあまりこだわることなく、エキサイティングなコンサートピースとしてアプローチしています。闇から解放へ、絶望から栄光への旅の感覚を、純粋に音楽的な言葉で伝えようと試みたに過ぎません」

5. また、このアルバムではご自身で作曲された“エラン・ヴィタール”が収録されています。作曲家としての自分と指揮者の自分で作品の見え方は変わってくるものですか?

 「私は、作曲したとき、その曲はすでに自分のものではない、と深く信じています。自分が作曲した作品には、非常に厳しい演奏家として、常に自分を批判しながら臨んでいます。作曲する時には創造性が自由に湧き出るようにさせていますが、その作品が演奏した際に息づくように、これまでの演奏経験を活かして細心の注意を払っています。私は今でも自分自身を〈作曲もする指揮者〉だと思っており、その反対ではありません。マーラーやバーンスタインのようなフラストレーション(※彼らは〈指揮もする作曲家〉を貫いた芸術家だ)は感じません。ただ、オーケストラの音で自分を表現し、音楽家や聴衆にできるだけ楽しんでもらうために〈指揮者の音楽〉を書いているだけなのです」

6. ライブとセッション録音では、取り組み方(指揮の仕方など)は変わりますか?

 「この〈BEYOND THE STANDARD〉シリーズでの経験は、セッション録音中もライブと同様にエネルギー・レヴェルを極めて高く保てることを教えてくれました。最初のうちは観客がいないと大変でしたが、自ら自分の演奏の観客となり、批判的になって、思い通りにならなかった部分を修正していくことを学べたと思っています」

7. このシリーズで日本人作曲家をたくさん取り上げていらっしゃいます。取り上げて見えた日本人作曲家について思うイメージを教えてください。

 「今回のシリーズは、様々な日本の作品をより身近に感じられる良い機会となり、今後もこうした機会があることを願っています。日本には才能ある作曲家がたくさんいます! 伊福部の音楽で物語を語る力、武満の音の質感、吉松のエネルギッシュでノスタルジックな書法、外山の日本の民俗的要素の使い方、などなど、私はとても評価しています。とりわけ、黛の音楽にはすっかり惚れ込んでしまいました」

8. このアルバムで〈BEYOND THE STANDARD〉シリーズが完結します。このシリーズを振り返っての感想を教えてください。

 「このような貴重で素晴らしい機会を与えてくださった日本コロムビアさんに感謝しなければなりません! 現代において、セッション録音を行う過程を学ぶことは難しくなっており、この経験は一生の宝物にします。オーケストラは相変わらず素晴らしく、最初から最後まで持てる全てのエネルギーを与えてくれました」

9. 今後、世に送り出したいレコーディング・プランはありますか?

 「ラフマニノフ交響曲第2番など、録音したいレパートリーがまだまだたくさんあります。ザンドナーイの管弦楽曲集や、自分が作曲した2つの交響曲を録音することも私の夢です」

10. 東京フィルハーモニー交響楽団とのこれからの展望を教えてください。

 「今回のパンデミックで音楽界が震撼し、日本への渡航が難しくなっていますが、一刻も早く東京フィルと一緒に演奏したいと強く願っています。忘れ去られたイタリアの名作を紹介するなど、交響曲とオペラの両方の分野で多くのエキサイティングなプロジェクトがあり、再開出来ることを毎日祈っています!」

 ライブと同様な高いエネルギーで収録された『BEYOND THE STANDARD』シリーズがこれからも聴き続けられる音盤となることを、そして、いち早くマエストロ・バッティストーニの再来日が叶うことを願うばかりだ。

 


アンドレア・バッティストーニ(Andrea Battistoni)
87年ヴェローナ生まれ。東京フィルハーモニー交響楽団 首席指揮者。国際的に頭角を現している同世代の最も重要な指揮者の一人と評される。東京フィルとのコンサート形式オペラ『トゥーランドット』(2015年)、『メフィストーフェレ』(2018年)等で批評家・聴衆の双方から音楽界を牽引するスターとしての評価を確立。スカラ座、ヴェニス・フェニーチェ劇場、ベルリン・ドイツ・オペラ、イスラエル・フィル等世界の主要歌劇場・オーケストラと共演を重ね、2017年には初の著書「マエストロ・バッティストーニの ぼくたちのクラシック音楽」(原題「Non è musica per vecchi」の日本語版 )を音楽之友社より刊行。

 


寄稿者プロフィール
坂入健司郎 (さかいり・けんしろう)

指揮者。88年生まれ、神奈川県川崎市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。これまで指揮法を井上道義、小林研一郎、三河正典、山本七雄各氏に、チェロを望月直哉氏に師事。13歳ではじめて指揮台に立ち、2008年より東京ユヴェントス・フィルハーモニーを結成。これまで、J.デームス氏、G.プーレ氏、舘野泉氏など世界的なソリストと共演。2016年、川崎室内管弦楽団の音楽監督に就任。2018年には東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団に初客演しオルフ『カルミナ・ブラーナ』を指揮、成功を収めた。その他にもマレーシア国立芸術文化遺産大学に客演するなど海外での指揮活動も行なっている。

 


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