古典的たたずまいの《幻想》とゴージャスな《舞楽》~バッティストーニ新境地

 イタリアの俊英アンドレア・バッティストーニ(1987-)が首席指揮者を務める東京フィルハーモニー交響楽団とともに日本コロムビアで2018年春から2020年秋にかけて年2タイトル、計5点のリリース予定で続けている「BEYOND THE STANDARD」。シリーズ第4作ではベルリオーズの《幻想交響曲》(1830)と黛敏郎のバレエ音楽《舞楽》(1962/1966)を組み合わせた。

ANDREA BATTISTONI ベルリオーズ:幻想交響曲、黛敏郎:舞楽 Columbia(2020)

 熱狂的な音楽を期待すると、肩透かしを食らうかもしれない。バッティストーニは今や完全に掌握した東フィルの隅々まで磨きをかけ、木管楽器の巧みなソロとアンサンブル、金管楽器のパワー、絶えず透明感を漂わせながら美麗に歌う弦それぞれの良さを最大限に引き出しつつ、ベルリオーズのスコアの極限まで克明な再現を目指す。もちろん、一瞬のルバートで管を印象的に浮上させる(第1楽章)、ワルツが終わる寸前にオシャレなリタルダンドをかける(第2楽章)……などなど、随所に若い指揮者ならではの新鮮な感覚が記されている。

 だが、それにも増して際立つのはシャルル・ミュンシュから小澤征爾にかけての〈ロマン精神大爆発〉路線ではなく、ジョン=エリオット・ガーディナーやフランソワ=グザヴィエ・ロトらによって再考を促されベルリオーズの古典志向をしっかりと押さえた知性である。最終楽章の鐘が〈人生に絶望した孤独な芸術家への弔鐘〉として響き、金管楽器の強奏する〈死の舞踏〉の主題が一段と深い意味を帯びるあたりに、バッティストーニの〈読み〉の深さを感じる。

 雅楽を下敷きにした黛の《舞楽》は管弦楽版の日本初演者、岩城宏之指揮NHK交響楽団のセッション録音(1967年)と、比較試聴してみた。元の音楽の古典美を踏まえ、一直線に進む〈活火山指揮者〉の岩城に対し、バッティストーニはニューヨーク・シティバレエ委嘱の舞踊音楽としての躍動感を優先、よりゴージャスで明るい音響により、SFX映画のサウンドトラックのような輝きを与えることに成功した。

 


LIVE INFORMATION

ザンドナーイ/歌劇「フランチェスカ・ダ・リミニ」(全4幕)
○9/25(金)19:00開演 サントリーホール大ホール
○9/27(日)15:00開演 Bunkamuraオーチャードホール
○9/29(火)19:00開演 東京オペラシティ コンサートホール
【出演】アンドレア・バッティストーニ(指揮)東京フィルハーモニー交響楽団 マリア・テレーザ・レーヴァ(S)ルチアーノ・ガンチ(T)フランコ・ヴァッサロ(Br)新国立劇場合唱団他
www.tpo.or.jp/