バッティストーニ&東京フィルが目指す「定番の向こう側」
日本コロムビアはイタリアの指揮者アンドレア・バッティストーニ、2016年から首席指揮者を務める東京フィルハーモニー交響楽団とのセッション録音を開始した。東京オペラシティコンサートホールを使い、2018~20年の3年間に5点をリリースする予定。シリーズは「BEYOND THE STANDARD」(勝手に訳せば「定番の向こう側」か?)と銘打たれ、ヨーロッパのクラシック音楽の定番に日本の作曲家の傑作を組み合わせていく。
第1作は17年6月1~2日に収録、18年4月にリリースされた。曲目はドヴォルザーク《交響曲第9番〈新世界より〉》に伊福部昭の《シンフォニア・タプカーラ》《ゴジラ~交響ファンタジー》の組み合わせ。配信限定ではバッティストーニの自作管弦楽曲、《エラン・ヴィタル~管弦楽のための狂詩曲》が加わる。以後、チャイコフスキー 《悲愴》と武満徹《系図》、ベルリオーズ《幻想》と黛敏郎《舞楽》、ベートーヴェン《運命》と吉松隆《サイバーバード協奏曲》と続き、最後は《スタンダード名曲集》の予定。
《新世界より》は首席に就く前の14年1月、妊娠で来日できなくなった女性指揮者の代役で急きょ、東京フィルの指揮台へ8ヶ月ぶりに招かれ、指揮をした思い出の曲だ。同じく代役ソロを務めたピアニストの清水和音はバッティストーニの才能に惚れ込み、東京フィル幹部に「絶対、常任指揮者にしなよ」といい、それを私から伝えられた本人も「実現したら、すごくラヴリー!」と漏らしたが、夢はたった2年で実現した。
実演だとバッティストーニの高い燃焼度、必死に食らいつく東京フィル楽員の気迫に圧倒されがちだが、よく耳を凝らせば知的で深い楽譜の読み、入念なリハーサルの結果の密度濃い音楽が聴こえてくる。満を持してのセッション録音では、緩急の自在な変化や豊かな旋律の歌わせ方が一段と緻密に設計され、味わいが増した。伊福部では土俗性を過度に強調せず、昭和モダンの作曲家としての近代的知性を鮮やかに引き出す。ゴジラが品川に上陸する場面の主題とか、ものすごくいい。
LIVE INFORMATION
東京フィルハーモニー交響楽団 第76回休日の午後のコンサート
○6/3(日)14:00開演 東京オペラシティ コンサートホール
指揮とお話:アンドレア・バッティストーニ
グリンカ:歌劇『ルスランとリュドミラ』序曲/ムソルグスキー:交響詩『はげ山の一夜』/ベルリオーズ:劇的物語『ファウストの劫罰』より「ラコッツィ行進曲」/ドヴォルザーク:交響曲第9番『新世界より』