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心の片隅にずっと澤部さんがおる

――聴いたレコードや育ってきた環境からの影響を発展させていったという意味では、台風クラブは、京都っぽいというか、東京からは出てこないバンドという感じもあるんです。いまの時代に30代前後だと、こういうサウンドに固まる前にもっといろんな影響を受けてしまう傾向も強い。

澤部「そうですよね。初めて聴いたときは〈この人たち若いのか? 若くないのか?〉ということすらわからなかったですからね。それも痛快でした」

石塚「それを皮肉ってアルバム・タイトルを『初期の台風クラブ』にした面はあるかも。シーンとか、どこが地元かとか、そういう波がザーッと引いてしまった30歳手前の男どもが始めたバンドなので、属してるところもなかったし」

澤部「どこにも属していなかったというのはスカートも同じでした。出てきたときは、強いて言えば〈昆虫キッズ一派〉とか。いまは同じ87年生まれのミツメ、トリプルファイヤーと〈インディー三銃士〉と言われてますけど(笑)」

――お互いのバンドで好きな曲は?

石塚「やっぱり最初にブログで知った“ハル”ですね。そこからずっと意識してますし、心の片隅に澤部さんがおるという感じです。『エス・オー・エス』はアルバムを通してほんまにデカかった。めっちゃサクッと終わる曲もあって〈なんでこんなバチーンと最後を切るんや?〉と、その切なさに打ちひしがれて身悶えしてました。僕はほんまにあのアルバムに景色を広げてもらったんです」

スカートの2010年作『エス・オー・エス』収録曲“スウイッチ”
 

――本人的には、景色を広げるどころか、ひたすらに1人で作ったアルバムだったのにね。

澤部「そうですね。内へ内へと潜っていく作業だったから。いまそうやって言われると嬉しいな」

石塚「自分はめちゃ頑固やし、凝り固まってた20代を過ごしていたから、いきなり誰かからバッとCD渡されたとしたら、ちゃんと聴くかどうかはわからなかったです。でもココ吉を信頼して、ずっとブログを読んでたところに、ある日“ハル”が紹介されて、ちょうど『エス・オー・エス』が出たというタイミングが、僕には完璧だったんです。四方の壁がバーン!とドリフみたいに倒れた(笑)」

――澤部くんは台風クラブではどの曲が好きですか?

澤部「難しい~! “処暑”の4分の4拍子から4分の2拍子に展開する場所があるじゃないですか」

2015年のシングル“処暑”。『初期の台風クラブ』には新録ヴァージョンで収録
 

石塚「Bメロのとこですか?」

澤部「そう。あれにはやられました! 〈うわー!〉って思いましたね。あと“春は昔”がすごく好きです。そういえばアルバム・ヴァージョンの“42号線”は、YouTubeに上がっていたヴァージョンや、前にライヴで聴いたときとアレンジがぜんぜん違いますよね」

『初期の台風クラブ』収録曲“春は昔”
 

石塚「あの映像は、かなり初期のやつで、アレンジもテンポもかなり変わってますね。でも根っこは一緒です。元ネタになった曲は16歳くらいで作ってたんですけど、無理矢理でもいいから絶対ファーストには入れたいと思ってました。自分の根っこにあるのがこの曲やし、いじってたら転調とかテンポもいい感じになったんで、これならぜひ聴いてほしいと思って」

澤部「シンプルなコード進行なんだけど、いちいち気が利いてるんですよ。普通のブルースじゃないし……やっぱりひねくれてるんですか?」

石塚「ひねくれてるところはあると思います」

『初期の台風クラブ』収録曲“42号線”のライヴ映像
 

澤部「そういう根底の部分で、何か近いものを感じてしまうんですよ。それに、いい曲といい歌詞――そのどっちもできているバンドって、実は同世代にはなかなかいないんですよ」

石塚「ありがとうございます。そういう客観性というか、こだわりは僕にもあるし、ポップ職人ってそれをコンスタントに続けることやと思う。澤部さんはマジでポップ職人やと思ってます」

スカートの2016年のシングル“静かな夜がいい”

 

軟派な感じと硬派な感じのミックス具合がかつて聴いたことないくらい絶妙

――いまの台風クラブに至るうえで、突破口になったような存在の曲はあります?

石塚「“飛・び・た・い”や“ダンスフロアのならず者”ですかね。でも、これらは台風クラブをやってなかった頃に、さっきも言った〈作曲家クラブ〉で作った曲なんです。“飛・び・た・い”のときはテーマが〈80sディスコ〉で、そんなん知るか!と思って、勝手なイメージだけで作りました。“ダンスフロアのならず者”は〈“今夜はブギーバック”みたいな曲〉というテーマを言われて作ったんかな」

――そうなんですか。むしろ“飛・び・た・い”とかは、ロックンロールに凝り固まっていた時期を抜けた最近になってからの曲だと思っていました。

石塚「ある意味、抜けかけていた時期でしたけどね。そもそも〈作曲家クラブをやろう〉って提案したのは俺なんです。ロックンロールにこだわるのもやめたかったし、バンドもやってなかったから」

澤部「“ダンスフロアのならず者”を〈ボロフェスタ〉で初めて聴いたときは、〈DISCO TO GOだ!〉と思って、1人でめちゃくちゃ盛り上がったんですよ。小沢健二さんのシングル“ラブリー”のカップリングに入ってる“今夜はブギー・バック”のライヴ・ヴァージョンのことなんですけど、石塚さんはそれを聴いてはないですか?」

※今夜はブギー・バック“DISCO TO GO”LIVE

石塚「聴いてないです。8センチCDですよね?」

澤部「イントロのハミングが、〈見事な引用だ!〉って思うくらい、そのライヴ・ヴァージョンと似ているんですよ」

『初期の台風クラブ』収録曲“ダンスフロアのならず者”のライヴ映像
 

石塚「〈トゥットゥットゥル、トゥットゥットゥル〉ってやつですか? でも、それは何か別のかたちで知ってたかもしれない。意識はしてたかも」

澤部「台風クラブって、そういう軟派な感じと硬派な感じのミックス具合がかつて聴いたことないくらい絶妙なんですよ」

――“飛・び・た・い”もシュガー・ベイブ的な展開で進んでいくのに、最後は駐車場でゲロを吐くし。

澤部「でも、音的にはその〈ゲロ〉は〈get on〉でもあるという。そういうところが最高なんです」

石塚「僕は曲を書くのがめちゃ遅いんですけど、スリー・コードを捨てて曲を書くようになってから、自由度は上がった気がします」

 

音楽を専業でやれることは、ひとつの理想でもあるし、地獄でもある

――さて、そんなスカートと台風クラブと曽我部恵一さんのスリーマンが、9月2日(土)に、京都の磔磔で行われます。スカートと台風クラブは初の対バンで。

澤部「これは嬉しかったですよ」

石塚「しかも磔磔でやれるなんて、嬉しいです。あそこでスカートや曽我部さんを観られるのはホンマに楽しみ」

――築100年の蔵だっていう建物としての風格もあるんですけど、音がとにかくいいんですよね。

石塚「いろんな友達とも〈あれはハコ自体がアコギの胴体みたいなもんや〉って話になって。それを納得してしまうくらいの音なんですよ」

澤部「まだ行ったことないんで、すごく楽しみです」

『初期の台風クラブ』収録曲“相棒”
 

――残念ながら京都までは行けないという人も、実は東京でも対バンが決まっているんですよね。スカートのメジャー・デビュー作『20/20』のリリースを記念したツーマン・ツアーの東京公演における対バンが、なんと台風クラブで。スカートもメジャー・デビューが発表されたときも、ワッとバズりましたよね。

※2017年10月29日(日)に東京・渋谷WWWXで開催

澤部「ね! 〈どこにいたんだ、きみたち〉って思いました(笑)」

石塚「僕もニュースを見て、びっくりしました」

澤部「うちのドラマー(佐久間裕太)に冗談で〈もっと気合の入ったインディー野郎だと思ってたけどな!〉って言われましたけど(笑)」

石塚「でも、スカートの音楽がもっとマスに広がるって、めっちゃいいことですよ。澤部さんなら、ちゃんとインディペンデントな自分の意志を持ちながらメジャーで活動できそうな気がします」

――2017年は台風クラブの『初期の台風クラブ』が出て、スカートのメジャー・デビュー・アルバム『20/20』も出て、京都と東京で両者の対バン・ライヴがある。何年か後に〈あれはすごい年だった〉って振り返られるような年になるのかも。その未来には、スカートも台風クラブも、いまよりもっと広くて大きな舞台に立っていてほしいし。

石塚「自分の年齢とかは考えてないですけど、〈やれることをやる〉だけの戦いやとは思ってます。いまは、仕事を終わって帰ってきて〈やっとギター弾けたー〉ってなったときに、いきなり(曲のアイデアの)花が咲いたりする。それくらいの感じで作ってるんで、〈おまえ、音楽が食い扶持な〉となったら、めっちゃ萎縮してしまう気がする(笑)。いまのペースで続けていたら、時間はかかっても音楽をやり続けられると思います」

澤部「逆に専業で音楽をやると決めたことに、僕はいま恐怖心がすごくありますよ。楽しいのは楽しいんですけどね。でも、いいものを作るということをずっと考えてなきゃいけないのは、ひとつの理想でもあるし、地獄でもある(笑)」

スカートの2016年作『CALL』収録曲“シリウス”のライヴ映像
 

――スカートの『エス・オー・エス』にしても、台風クラブにしても、誰にも知られずに自分のやりたいことを淡々と続けていた時間が大事だということでもあると思うんですよ。それがあったからこそ、こうして知り合えた感激もあるわけだし。

石塚「自分みたいな気持ちを抱えている人は日本中にいると思うんです。たまたま僕はこうして知り合えただけで」

澤部「本当に嬉しいな。『初期の台風クラブ』は本当にめちゃめちゃいいアルバムなんで、たくさんの人に聴いてほしいです」

――きっと『初期の台風クラブ』を聴いても、日本のどこかの知らない誰かが冷房を止めて、窓を開けるだろうなと思える。そこが大事なんですよね。

澤部「わー、いいまとめだ(笑)」

――いや、さっき澤部くんが言ったセリフですけどね(笑)

 


Live Informaton

〈Helga Press Presents Groomy Saturday!〉
2017年9月2日(土)京都 磔磔
出演:スカート/台風クラブ/曽我部恵一
開場/開演:17:00 /18:00
料金:前売り3,500円 当日4,000円
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■台風クラブ
2017年9月9日(土)徳島大学音楽ホール
2017年9月30日 (土)大阪・南堀江ネイブ
2017年10月8日(日)新潟・古町WOODY
2017年10月20日(金)京都 KBSホール
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■スカート
〈スカートメジャー1stアルバム『20/20』発売記念ツアー 20/20 VISIONS TOUR〉
2017年10月21日(土)愛知 TOKUZO
共演:バレーボウイズ
2017年10月29日(日)東京 WWW X
共演:台風クラブ
2017年11月26日(日)札幌 SOUND CRUE
2017年12月1日(金)福岡 INSA
2017年12月3日(日)広島 4.14
2017年12月6日(水)大阪 Shangri-La
2017年12月20日(水)宮城・仙台enn 2nd
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