本気で出した音はジャンルを超える
世界を股にかけて音楽活動を展開するトランペッター/作曲家の田村夏樹とピアニスト/作曲家の藤井郷子は、長年にわたって即興を中心とする音楽を創り続けている。ただし、即興が中心とは言っても、“しかめっ面をしながら聴かなければならない難解な音楽”という、いわゆる“フリー・ジャズ”のイメージとはかけ離れた、聴いていて思わず吹き出してしまうことも珍しくない、楽しい音楽である。
ふたりはLibra Recordsというレーベルを主宰し、20年の間、毎年複数枚のアルバムを発表し続けている。最新作となる『Aspiration』は、60年代からヘンリー・スレッギルやオリヴァー・レイク、アンソニー・ブラクストンといった即興音楽の猛者たちと活動してきたトランペッターのワダダ・レオ・スミスと、70年代にアート・リンゼイ率いるDNAのドラマーとして注目されて以来、ニューヨークを拠点に活動を続け、現在はラップトップによる電子音を操るイクエ・モリを迎えた、カルテットによる作品だ。
「ワダダとはいろんなジャズ・フェスで何度も会っていて、音楽に対してものすごく真摯なところに好感を持っていました。イクエさんはニューヨークでライヴを観に行ったり、ヨーロッパのジャズ・フェスで会ったりしていて、日本やアメリカで何度か共演もしています。今年は私たちのレーベルの設立20周年ということで、20都市でひとりずつミュージシャンを迎えて共演するという企画をやっているんですが、ワダダとも共演したいと思った時に、せっかくだからCDにしようと。で、ドラムスは誰がいいかと考えたんだけれども、イクエさんのほうがおもしろいだろうなと思って、このメンバーに決めました(藤井)」
アルバムでは、4人の完全即興による1曲を除き、田村または藤井の楽曲に元づく即興演奏が展開される。ワダダと田村、藤井の対話は文字通りの“本音”で、聴き始めると目が(耳が)離せない。そこに絡むモリの、パーカッション的ともアンビエント的とも言えるエレクトロニクスのサウンドも絶妙で、全体としては抽象的な音のやり取りというよりもむしろ、ある種の“バンド・サウンド”になっていて、取っつきやすいというのを超えて、親しみやすい音楽になっている。
「良くも悪くも中途半端ってよく言われるけれどもね。完全な実験音楽でもないし、ロックでもないしジャズでもないし(田村)」
そう、ふたりの音楽は、既成のジャンルに基づく価値観で判断しても意味がない。重要なのは、そこで鳴っているのが全て“本気で”出した音だということだ。この『Aspiration』はその最たる例と言える。
LIVE INFORMATION
田村夏樹&藤井郷子 LIVE in Japan 2017
○10/20(金)19:00開演 Big Apple (神戸)
田村夏樹(tp)藤井郷子(p)エリザベス・ミラー(cl)クレイグ・ペデルセン(tp)
○10/26(木) 旧グッゲンハイム邸(神戸)
田村夏樹 (tp)藤井郷子(p)ロジャー・ターナー(ds)
○10/28(土)禁酒会館(岡山)
ガトー・リブレ:田村夏樹 (tp)金子泰子(tb)藤井郷子(accordion)
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