ポップな曲は過剰にポップに、トリッキーなものはよりトリッキーに! リスナーとの共犯関係を鮮やかに覆し、ふたたび揺さぶりをかける全12曲。謎に包まれていた新たな傑作が、ようやっとお目見えだ!

ふたたび揺さぶりを

 UNISON SQUARE GARDENが7枚目のオリジナル・アルバム『MODE MOOD MODE』を完成させた。前作『Dr. Izzy』のリリース後に40か所以上を回ったバンド史上最長のツアーを経て、極上のメロディーと高い演奏スキルを兼ね備えた唯一無二の3ピースとしてのポジションを改めて確立した感のある彼らだが、果たして次なる一手はいかに?

UNISON SQUARE GARDEN MODE MOOD MODE トイズファクトリー(2018)

 「前作で〈ユニゾンはこういうバンドです〉っていうものがちゃんと完成した感じがあって、ファンとの共犯関係みたいなものも作れたと思うんですけど、そこで一回安心したのにここでまた揺さぶられるというか、〈主軸はどこにあるの?〉って一瞬動揺するみたいなアプローチができればなって。前作を作ったときにディレクターから〈僕はもうちょっとポップな曲が欲しいな〉って言われたので、次でそれをやろうとは思ってたんですけど、そういうものに挑戦すると〈売れようとしている〉と思われることもある。でも〈全然そういうことではないんです〉っていうこともどこかでちゃんと強調したいと思ったので、ポップな曲は過剰にポップにして、トリッキーな曲はよりトリッキーにっていうのは、前のツアーが始まってすぐにイメージしてました」(田淵智也、ベース)。

 『MODE MOOD MODE』には、2017年に発表された配信を含む4枚のシングル“Silent Libre Mirage”“10% roll, 10% romance”“Invisible Sensation”“fake town baby”も収録。全12曲をもって音楽的な幅広さが示されている本作での多彩なチャレンジは、その先行曲群から積み重ねられてきたものだ。

 「プレイヤーとしては、ロックの熱量とフュージョンのテクニカルな部分を組み合わせて最終的に感動できるっていう表現をしたいと思ってるんですけど、“10% roll, 10% romance”は〈フュージョンをやってやるぞ〉っていう明確な意識を持って臨んだ曲ですね。イントロのフレーズは完全にフュージョンなんですけど、それを自分たちがもともとやってる速いロックと融合させて、完璧にハマった手応えがありました」(鈴木貴雄、ドラムス)。

 「“10% roll, 10% romance”と“Invisible Sensation”は同じアニメ(『ボールルームへようこそ』のオープニング・テーマを2クール続けてやらせてもらった曲で。主人公の成長に寄り添わせるために同じギターで録ってはいるんだけど、2クール目の“Invisible Sensation”は歪みを減らして、コード感でも大人びた雰囲気を出してみました」(斎藤宏介、ヴォーカル/ギター)。

 

変わらず、折れず、腐らず

 そんな小技も多く垣間見えるアルバムの幕開けを飾るのは、ファズ・ギターとヘヴィーなリズムがインパクト大なグランジ直系の“Own Civilization (nano-mile met)”。途轍もなくストレートなユニゾン流儀の変化球ぶりに、思わずニヤリとさせられる。

 「いろいろなジャンルの要素を入れるのは僕たちがバンドをやってて飽きない工夫でしかなくて、あくまでとあるジャンルを間借りさせてもらってるだけというか、〈好みのジャンルを盛り込んでやろう〉っていう意識はほぼないんです。なので、〈本腰入れてやってるように見えない〉っていうのも大事で、〈この人たち、がんばれないところはがんばらないんだな〉って見られるに越したことはないし、そこの枠からははみ出ないようにしてます」(田淵)。

 「これはまあ、ニルヴァーナですよね(笑)。音楽的に遊べる体力はみんなあるし、〈良いメロディー〉〈おもしろい歌詞〉っていう武器が明確にあるから何をやっても大丈夫だろうっていう安心感はあります」(鈴木)。

 本作におけるポップ・サイドを強く印象付けるのは、複雑な展開ながらもメロディーは突き抜けてキャッチーというユニゾンならではの王道アッパー・チューン“Dizzy Trickster”と、ストリングスとマーチング風のリズムが特徴の“オーケストラを観にいこう”という序盤の2曲。そして〈Dizzy Tricksterはいつでもぐちゃぐちゃのまんまの希望/そのままにして僕を笑う/まだわかんない言語化不能の断片たちを連れていこうか〉という前者の歌詞は、彼ら独自のスタンスをよく表しているようにも思える。

 「リスナーへのメッセージは1ミリもないんですけど、“Own Civilization (nano-mile met)”の次で自分たちの王道を示すという位置付けの曲なので、少しクサいことでもしっかり採用するっていう覚悟を持って作ったもので。歌詞を読んだときにギリギリ寒くない言葉を選んだつもりです」(田淵)。

 「〈UNISON SQUARE GARDENは難解でよくわからない〉って言われた過去があるなかで、それでも根幹は変わらず、折れず、腐らず、ずっとバンドを続けて今に至るっていう経緯があるので、〈整理のつかないことが悪ではない〉っていうのはこれまでの活動を通じて身に染みて感じていることではあって。なので、(田淵は)それを曲にしたのかなっていうふうに思いました」(斎藤)。

 

3人だけでいかに彩るか

 そして、中盤には意外性やトリッキーなアレンジを重視したようなタイプの楽曲が並ぶ。ファンクを下地とするAOR風の“静謐甘美秋暮抒情”、狂騒の高速シャッフルがライヴでのキラー・チューンになるであろうことを予感させる“MIDNIGHT JUNGLE”、ミニマルなループのなかでキメを繰り返す“フィクションフリーククライシス”などは、個々のスキルとアレンジ能力の高さを改めて証明していると言えよう。

 「“フィクションフリーククライシス”はもともと別の曲が入る予定だったんですけど、収録するシングルが4曲になったこともあって、ちょっとふざけ感が足りないと思って作った曲で。プログレは全然詳しくないんですけど、ドラムがクローズ・ハットの細かいフレーズをずっとループしてるみたいな感じをイメージして、狙い通りに作れたからよかったなって」(田淵)。

 「音像は打ち込みっぽいですけど、これもやってることはフュージョンで、来るべき場所に来るべき音が来ないっていうのが逆に魅力かなって。僕らのアレンジって、3人だけでやんなきゃいけないなかで、いかに楽曲を鮮やかに彩るかっていうことを考えていて、一人一人が〈ピアノっぽく〉とか〈ストリングスっぽく〉とか無茶な試みをやってきてるんです。それをメチャメチャがんばった結果、こうなっちゃってるんだと思います」(鈴木)。

 本作唯一のバラード・ナンバー“夢が覚めたら(at that river)”を挿み、ラストを飾るのはホーン・セクションとピアノをフィーチャーした陽性のスカ・チューン“君の瞳に恋してない”。ハッピーな曲調と混乱した歌詞のアンビヴァレンツな味わいが、不思議な余韻をもたらしている。

 「4枚目のアルバム(2013年作『CIDER ROAD』)で一回ホーンを入れてるんですけど、この曲も音自体は底抜けに明るいものにしたかったし、〈ポップな曲は過剰に〉っていうコンセプトもあったから、あの感じでできたらなって。聴こえのいいことを歌ってるわけじゃないけど、いい温度感になったと思うし、意図的に言葉を外しても物語が破綻しなかったりして、作ってる過程がいちいち印象的な一曲でした」(田淵)。

 「〈人生甘くねえぞ〉ってことを、胸倉を掴んで言うのと家族で食卓を囲んで言うのって刺さり方が全然違うと思うんですけど、〈大事なことほど明るい雰囲気で伝えられるんだな〉っていうのはユニゾンをやってきたなかで思ったことで、その感覚がこの曲にはあるなって。一聴ではわからなくても、口ずさんでるうちにようやく気付くみたいなことが、随所に隠されてるんじゃないかと思いますね」(斎藤)。

 なお、『MODE MOOD MODE』は〈最後のCD世代へのご褒美〉として、収録曲の曲名と曲順は店頭でCDを手に取ったときに初めてわかるというリリース手法も話題を呼んでいる。こうした時代に対する批評精神を持っている一方で、音楽に関しては決して時代に流されることなく、みずからの道を貫き続けていることこそが、UNISON SQUARE GARDENを唯一無二たらしめていることは間違いない。

 「〈自分たちらしさ〉みたいなことってアルバムで言うと3枚目(2011年作『Populus Populus』)くらいで見つけていて、その〈自分たちらしさ〉をより研ぎ澄ませる作業を繰り返してきたことで今のユニゾンがあるというか。それって、つまりは良いライヴをして良い曲を作るっていう、すごくシンプルなことなんです。自分たちの武器を早い段階で見つけられたぶん、そこからはある意味で気楽なものというか、ずっと楽しんで活動ができてるというのはあると思います」(鈴木)。

2017年の先行シングルを紹介。