愛娘が大学生になった濱田マリさんと、もうすぐ2歳のお子さんの子育て奮闘中の山崎ナオコーラさん。お二人の子育てトーク、目からウロコですよ!
本誌の人気連載「濱田マリの親子バトル!」の単行本化を記念して、濱田さんのトークショーがたまプラーザ テラスで開催されました。スペシャル・ゲストはエッセイ集「母ではなくて、親になる」を昨年発表した小説家の山崎ナオコーラさん。〈理想の母親像〉なんてどこ吹く風、自分らしくわが道を歩むお二人にとって子育てとは? 会場をおおいに沸かせた対談の模様をお届けします。
――濱田さんにとっては初のご著書とのことですが、娘さんが幼稚園の頃から大学に入学するまで、じつに13年間にわたる連載が一冊の本になりました。
濱田(以下H) ありがとうございます。子育てを通して自分の人生を楽しんでるだけ、みたいなもので……うちは子育てユルいです。ユルすぎて、これが本になってええんかいな? と思ったんですけれども、流れに乗ったらこんな感じになりました。
――山崎さんはこの本の帯にもコメントをお寄せになっていますが、「濱田マリの親子バトル!」をお読みになって、いかがでしたか?
山崎(以下Y) その時々の流行りのエンタテインメントやファッションの話とかが、固有名詞で出てきますよね。それを読んで、子育てとは親だけが負うものではなく、社会や文化全体でしてくれるものなんじゃないかなという感覚を味わいました。流行りモノも拒絶しないで、それはそれで面白いって思えるのもいいなあと。〈私が全部教えるんだ〉って親がヘンに気負わなくても、子どもの方からいろんな文化を見つけて、育っていくのかもしれませんね。
H もうね、ただ単になんにも考えてないんです。それでも山崎さんに読んでいただいて、山崎さんの解釈で、そして素敵な言葉のチョイスで、こういう風に言っていただくと、なんか、ええ親子やなあ、みたいに思えてきますでしょ。
Y それと、濱田さんは大学生になった娘さんのことも、小さい頃と変わらずかわいい、かわいいって感じていらっしゃいますよね。大きくなっても、ずっとそう思っていられるんだというところに、今、小さい子を育てている身としては希望を感じました。私にはもうじき2歳になる子どもがいるのですが、まわりの人からは〈今がいちばんかわいいですよ〉ってすごく言われるので。
H 5歳ぐらいで言われなくなりますよ(笑)。でも、人から言われなくなっても、ずっとかわいいと思うんですけどね。昨日もバイト帰りの娘を迎えに行って、車に乗せるときチラっと見たらめっちゃかわいかったから、〈あんたかわいいな!〉って言ったんです。
Y 口に出して言うんですね。
H 言うんです、そこはもうオンにしてます、自信つけてほしいんで。
――娘さんと一緒に習いごとを始めたら、濱田さんの方がハマっちゃったりとか、子育てしながら、ご自身もすごく楽しんでいらっしゃいますよね。
H ハマり癖があるものですから……。子どもって、ちょっと習いごとをはじめた途端にキラッキラの笑顔になったりするでしょ。でもそのキラッキラはほんの一瞬で、すぐに〈うわあ、行くのめんどくさ〉みたいになるので、最初はその理由が知りたかっただけなんです。それで行ってみたら、私がハマってしまったというのが、バレエであったり、公文であったり。公文は5年ぐらいハマってたのかな。大人になってからああいうのをやると、めちゃめちゃ楽しいですよ。
Y 子どもが小さいうちはやることがすごく多いから、子育て中心の生活でいい気がするんですけど、たぶん大きくなるにつれて徐々に離れていって、かわいがりたくても、もうその時間が作れないっていうときが来るんじゃないかなって思うんです。そうなったら、自分も濱田さんのように猫を飼ったり、習いごとやスポーツをしたりしたいなって思いました。
――濱田さんは、山崎さんの「母ではなくて、親になる」をお読みになって、いかがでしたか?
H じつは山崎さんとは、このトークショーの20分くらい前にはじめてお会いしたんです。でも、その前にこの本を読ませていただいていたので、私の中でどんどん山崎さんのイメージが膨らんでいて、正直ちょっと〈コワっ!〉って思ってました。
Y あ、そうですか(笑)。
H 私みたいな生き方してるヤツは、山崎さん絶対嫌いだろうなって。でも、実際にお会いしたら、かわいいお嬢さんやわあって(笑)。山崎さんは本当にしっかりとした信念をお持ちなので、この「母ではなくて、親になる」にも、山崎さんの子育て、仕事、夫との関係、家庭経済、そういうものに対するご自身の感覚や考えが、深いところまで掘り下げられて書かれています。よく、スポーツの世界では身体がブレない人のことを〈体幹がある〉って言いますが、山崎さんにはメンタルの体幹がものすごくあるなって思いました。
Y ありがとうございます。たしかに、性別に関する考えをバシッと書いたりしたので、そのへんはちょっと怖かったかも。
H 私は山崎さんと違って、そのあたりはだいぶ古風な感じなんです。〈女は黙っとれ〉〈はい〉〈俺より3歩下がって歩け〉〈はい〉みたいな世界に育ってきたので。だから家事とかも、私が100%やっているんです、疑問を抱きながら。その疑問を解決しようとすると面倒臭くなって、つい自分でやってしまうんですけど、山崎さんはそういう〈女だから〉〈母だから〉といったところを、なくしにかかってるじゃないですか。
Y でも、なくそうとは思っていなくて。私の場合は、世間一般の性別に対する考えやイメージに馴染めない性格として生まれちゃったから、そうではない生き方をしているだけで、べつに社会を変えようとは思っていないんです。だから、女性らしく生きる方が楽しいという方は、ぜひそのまんま、キラキラ生きていくのが絶対にいいと思っています。
H 一般的にはこうだという社会通念みたいなものに、山崎さんがご自身で持っている考えや感覚を擦り合わせたとき、多少なりとも誤差が生じるじゃないですか。その誤差についてちゃんと自分の中で考えて解明していく、その誤差とはなんであるかを突き止めていく山崎さんが、本当に素敵だなって思います。
――たしかに、妻と夫は対等な〈親〉であって、〈夫が妻の育児をサポート〉するのではない。だから〈今日は夫が子どもを見てくれている〉とは言わない、というくだりには納得でした。
Y そうおっしゃっていただけると嬉しいです。私は濱田さんの本にあった〈洋服はいくらでも買ってあげる〉というくだりが衝撃的でした。親はなにかと規制しがちですが、ファッションをどんどん楽しんでいいんだって小さい頃から教えるのって、新しい時代がきたなという感じがします。
H 〈着るものと読むものは上限なし〉という家庭のルールで、洋服についても本人が着たいと言うものは買ってきました。けれど高校生にもなると、まわりの友達の家庭と比べて、どうやらうちのルールは異常だと気づくみたいで。まだ自分でお金も稼げないのに高い洋服を着るのは間違ってるって、自分で学んだようです。
Y やはり自分の家庭だけが子育てじゃないということでしょうね。ちなみに私がなぜ子どもに本を読んでほしいと思うかというと、学校で嫌なことがあったとき、もうひとつ別の世界があれば生きていけるじゃないですか。逃避の世界というか、それを本が与えてくれると思うからなんですね。ファッションも同じで、自分はいろんな洋服を着て、いろんな世界に行けると感じることは、子どもにとって希望になるのではないかと。
H たしかに! さすが山崎さん!
――さて、残念ですがそろそろお時間となりました。最後に子育ての先輩である濱田さんより、ひとことメッセージを。
H 子どもと遊ぶなかで心がけてきたことは、自分も楽しむということ。そうでないとイライラしてしまいますから。私はあまりおもちゃを使わず、身体を使って、自分の感性も上がるような遊びをしてきました。たとえば替え歌を作るとか、子ども相手に大喜利とか。それが子どものために良かったかどうかは分かりません(笑)。でも興味をお持ちいただけたら、ぜひ本を手にとってみてくださいね。
(取材協力:たまプラーザ テラス www.tamaplaza-terrace.com)
●濱田マリ
68年12月27日、兵庫県出身。92年にモダンチョキチョキズのヴォーカルとしてデビュー。その後、俳優として新たなフィールドに立ち、また独特の声で、98年より始まった「あしたまにあ~な」をきっかけに、テレビ番組のナレーターとして活動の場を広げる。数多くのテレビドラマや映画に出演。2017年4月からNHK「ごごナマ」でMCを勤めている。
●山崎ナオコーラ
78年福岡県生まれ。2004(平成16)年、会社員をしながら書いた「人のセックスを笑うな」が第41回文藝賞を受賞し、作家デビュー。他の著書に「浮世でランチ」「カツラ美容室別室」「ニキの屈辱」「昼田とハッコウ」「ネンレイズム 開かれた食器棚」など。エッセイ集に「指先からソーダ」「男友だちを作ろう」などがある。