『Black Panther: The Album』とアフリカ

YANATAKE「『Black Panther: The Album』の楽曲も、それぞれ劇中で効果的に使われていたよね。『デッドプール』なんかはコメディ要素も強いから、ヒップホップの楽曲にしても、あえて古い、俺たちも〈プッ〉ってなっちゃうような楽曲を使っていたけど、今回はマジでガチというか。例えば、トレーラーでもヴィンス・ステイプルス&ユーゲン・ブラックロックの“Opps”が使われていたけど、本編でもすごくシーンにハマっていたのが印象的だった」

渡辺「ちなみに、その“Opps”を作ったのはルドウィグ・ゴランソンという人物で、彼は『ブラックパンサー』映画全体のスコアも手がけている人物なんですって。これまでのクーグラー監督の映画に加えて、チャイルディッシュ・ガンビーノの作品にも多く関わっていた人物みたいで。今回、『ブラックパンサー』のスコアを手掛けるにあたって、セネガル人の友達と一緒にアフリカへ視察旅行に行ったと報じられていました」

YANATAKE「なるほど。確かに『Black Panther: The Album』では、アフリカ出身のラッパーやシンガーもフィーチャーされているよね」

渡辺「かつ、自分たちのアフリカの言語を使ってラップしていたりね。そのあたりは“Redemption”が特に顕著だなと思いました。ケンドリック・ラマーの『DAMN.』(2017年)にも起用されていたザカリも参加している曲です」

YANATAKE「俺が昔、80年代の終わりにヒップホップを好きになった頃、ヒップホップはアメリカの黒人たちが人種差別などの問題と戦う武器として使われていて。そこで〈彼らは何に対して怒っていて、何を言いたいんだろう?〉というところに魅せられて、ヒップホップを聴きはじめたんだよね。そこから、ヒップホップは商業的に成功するようになって、〈酒・女・ドラッグ・銃〉みたいな歌詞が主流になっていくとともに、最近は特にドラッグの描写がすごいことになっていて……。それはそれで面白いと思っているし、ヒップホップが進化した結果でもあるんだけど、いまのシーンでは、そのカウンターとしてケンドリック・ラマーの存在が際立っていると思っていて。〈本来、ヒップホップが持っているものを取り戻しに行こう〉みたいなアティテュードを感じる存在でもある。

『ブラックパンサー』ではアフリカがフィーチャーされているけど、90年代前半くらい、アメリカのヒップホップ・シーンでギャングスタ・ラップが流行り始めた時に、デ・ラ・ソウルやア・トライブ・コールド・クエスト、ジャングル・ブラザーズたちがネイティヴ・タンというクルーとして出て来たんだよね。当時、アフリカの大陸をかたどったような革のメダリオンを首からぶら下げて、〈俺たちのルーツを知れ! アフリカ回帰!〉ってことを訴えたりしていて。当時の俺は、〈なんで彼らはそういうことを言うんだろう?〉ってすごく考えたり調べたりしていたんだよね。

だから、『ブラックパンサー』を観て、ケンドリックの作品を聴くと、時代が一周して、その時の気持ちを思い出させてくれるように感じた。しかも、いまのヒップホップというか、世界的な音楽トレンドもアフリカってキーワードとして結構取り上げられるから、単純に昔に戻っているわけじゃなく、ちゃんとサウンド的に進化しながら、過去にも共通する主張をしているというところがすごいし、不思議な気分でもあるよね」

ネイティヴ・タンのメンバーが多数参加したデ・ラ・ソウルの89年の楽曲“Buddy (Native Tongue Decision)”。ジャングル・ブラザーズはメダリオンを首にかけている

渡辺「映画本編でも、90年代のヒップホップ――しかも、アフリカ回帰を唱えていた頃のヒップホップを連想させるシーンもあって、堪りませんでした。ちなみに、ヒップホップにおけるアフロ・サウンドのトレンドって、ちょうど1年くらい前にドレイクが『More Life』(2017年)をリリースして、そこで『Black Panther: The Album』にも参加しているシンガーのジョージャ・スミスは“Get It Together”っていう曲を歌っていて。この曲は、南アフリカのDJであるブラック・コーヒーをフィーチャーして、アフロ・テイストに仕上げた曲なんですよ。なので、1年経ってジョージャがまたアフリカをテーマにした作品で歌っていることにびっくりしましたね」

YANATAKE「去年は、ディプロがコーチェラの出演オファーを蹴ってアフリカに取材に行ってDJをしたとも言われていたり、あと、フレンチ・モンタナが“Unforgettable”のミュージック・ビデオでアフリカに行っていたりということもあって。そういう一つ一つの物事が偶然じゃなく、必然で繋がっているような感じがしたし、それが映画のメッセージともリンクしていて……」

渡辺「そのシンクロ具合にびっくりしましたよね」

フレンチ・モンタナの2017年の楽曲“Unforgettable”。MVはウガンダでの撮影、『Black Panther: The Album』にも参加しているスウェイ・リーが客演