あなたの愛しい人たちを思い出す、特別な曲がありますか?
音楽は人生をカラフルにしてくれます!

 一年に一度、あの世にいる愛しい人びとが戻ってきて、こちら側で、楽しく過ごす日がある。それが、ユネスコの無形文化遺産に登録される、メキシコのお盆〈死者の日〉だ。陽気なガイコツの人形や、太陽の花と称されるオレンジ色のマリーゴールド、カラフルな切り紙の旗や、故人の好物が供えられた祭壇で町が飾られ、墓地では、楽団が賑やかな音楽を奏でる。まるで、あちらの世界でも人生が続いていくような、色彩豊かな祭りを、ピクサー・アニメーションがとりあげた。

 映画の舞台は、サンタ・セシリア(〈音楽の女神〉の意味)。靴職人一家に生まれ育った 主人公の少年ミゲルは、音楽が大好きで、将来は地元が生んだ大スター、エルネスト・デラクルスのような音楽家になりたいと切望し、自作のギターで演奏を独学する。だが、彼の家族は、曽曽祖母が、音楽家の曽曽祖父に捨てられたことから、音楽を憎み、音楽を聞くことすら禁じている。家族にギターを壊され、家を飛び出したミゲルが、死者の日のギター・コンテスト出演のため、憧れのエルネストの墓にあるギターを盗もうとしたことをきっかけに、死者の国に迷い込んでしまう。祖先たちの力を借りて、彼は元の世界に戻れるのか......という物語。

 ミゲルが相棒に導かれて、ギターと歌を上達させ、夢を追いかける姿は、「レミーのおいしいレストラン」で、ネズミながらにして一流シェフになるレミーを彷彿とさせ、ルーツを見出すために、家族を探す姿は、両親を探す魚、ドリーが主人公の「ファインディング・ドリー」とも重なる。いわば、ピクサー・アニメーションの王道的成長物語を踏襲しているのだが、この「リメンバー・ミー」は、音楽をメインに描くことで、他の作品群とは異なる個性を放っている。

 音楽とともに重要なテーマが〈記憶〉だ。あの世にいる家族や仲間のことを、いつまでも忘れないためにも、メキシコの死者の日は盛大に祝われるのだが、「リメンバー・ミー」は、そんな死者の日のあり方を、物語の根幹として組み入れている。なぜならば、忘却こそが、人生の終わりを示すものだから。

 ちなみに、舞台となったサンタ・セシリアは、メキシコ各地の風景からインスピレーションを受けて生まれた架空の街だが、とりわけ、先住民文化が色濃い〈死者の日〉の風習が続く、ミチョアカン州に強く影響を受けている。同州にあるパラチョは、ギター生産で有名な町であり、国際ギター・コンテストも開催される。米国での映画「リメンバー・ミー」の大ヒットのおかげで、ミゲルが持っている子ども用ガイコツ柄ギターの注文が殺到し、生産が追いつかないという現地報道があったのだが、何れにしても、子どもたちが、音楽に興味を持つようになったのは、素敵なことだ。

 映画音楽には、伝統から最新ポップまで、さまざまなメキシコ音楽が凝縮されている。アフロカリブ系音楽ソン・ハローチョの代表グループ、モノ・ブランコや、メキシコ北部の演歌、コリードで知られるブロンコ、エレクトロニック・ミュージックのカミロ・ララのほか、ロック界の重鎮、アレックス・ロラらが、音楽で参加している。日本公開版のエンディング・テーマは、メキシコ生まれのシシド・カフカの歌と、メキシコで大人気の東京スカパラダイスオーケストラの演奏というから、メキシコに何かしら所縁のあるアーティストが参加している。

 また、ミゲルが憧れる大スター、デラクルスは、メキシコの大俳優、歌手のペドロ・インファンテがモデルの一人と言われている。画家フリーダ・カーロやディエゴ・リベラ、「80日間世界一周」にも出演した喜劇俳優のカンティンフラス、伝説のルチャ・ドール(メキシコのプロレスラー)サントなど、日本でも知られている歴代の偉人たちが、キャラクターとして活躍する。そんな故人たちが生き生きとしている姿を見て、筆者も、あの世にいる自分の愛しいひとたちのことを思い出した。きっと、あちらで楽しんでいるだろうと、懐かしくも温かい気持ちになる。

 人生への喜びにあふれた「リメンバー・ミー」は、何度でも観たくなる映画である。

 


「リメンバー・ミー」
監督:リー・アンクリッチ
共同監督:エイドリアン・モリーナ
製作:ダーラ・K・アンダーソン
製作総指揮:ジョン・ラセター
音楽:マイケル・ジアッキーノ
歌曲:クリステン・アンダーソン=ロペス&ロバート・ロペス
日本版エンドソング♪ “リメンバー・ミー”(シシド・カフカ feat. 東京スカパラダイスオーケストラ)
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン (2017年 アメリカ 105分)
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◎3月16日(金)より全国ロードショー!