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昔の自分が伝えてくれるもの

 こうして完成に至ったセカンド・アルバム『Lazaretto』は実際、曲の構成もアレンジもかつてなく複雑で、さらに多様なスタイルを網羅しており、じっくり練ったことが音からはっきり聴き取れる。ツアーを通じて各人の持ち味を理解したうえで、ふたたび2組のバンドとさまざまな編成でコラボしたジャックは、ハープ、フィドル、ペダルスティール、マンドリン、シンセ……と適材適所で人員を配置。ギタリストとしてのアプローチにも自由度を増し、一歩引いて他のプレイヤーに任せたり、ギターの代わりにフィドルのソロを配したり、主演俳優として名演を見せながら、監督としてのバランス感をも印象付ける。

 また編集作業にもかなりの時間をかけたそうで、アナログ・テープを好む人だけに余計に煩雑なプロセスを経ている。

「例えば1曲録音して、素晴らしいテイクだったのに、ドラマーが途中でドラム・スティックを落としちゃったとする(笑)。それだけの理由でボツにするのはもったいないから、ドラムのトラックをPro Toolsに移してノイズを修正し、またテープに移し替えた。そうすれば音のソウルを維持できるし、そういう風変わりな手法をたくさん試したよ。レコーディングやミックスは絶対にデジタル形式ではやらないけど、複雑な編集作業には最適だね」。

 一方の作詞の手法も風変わりで、19歳の時に書いたという多数の詩や戯曲の原稿に着想を得た、言わば若かりし日の自分とのコラボレーションだ。どれもキャラクターを介して人懐こく語りかける物語ばかりで、ブックレットに原文が一部掲載されているが、「完成した作品だけで判断してほしいから他はすべて破棄した」という話も、ジャックらしい。

「僕は昔書いた文章を読んで、若い頃の自分についてあれこれ考えはじめて、いまの自分に当時の自分が何を伝えてくれるのか、昔の自分の作品をいかに新しい作品に転化できるのか、掘り下げてみたくなったんだよ。それで、文章に登場するキャラクターをまったく新しい物語の中に配置し、新しい命を吹き込んだ。そうすれば、僕自身の人生とアルバムを完全に切り離すことができるよね。しかもこれだけの時間が経過しているんだから、いまの僕からは途方もなく遠い存在だろ? それでいて極めて近しい存在でもあるわけで、本当に奇妙な感覚だったね」。