そのとき1968年の本丸のパリはどうなっていたか。ミシェル・アザナヴィシウス監督の『グッバイ・ゴダール!』は60年代末のゴダールの二番目の妻であり一昨年逝去したアンヌ・ヴィアゼムスキーの回想録『それからの彼女』を土台に、ゴダールとの日々を綴っている。あつかうのは『中国女』(67年)の直後からジガ・ヴェルトフ集団による『東風』(69年)のクランクインまで、したがってアンヌとゴダールの短い結婚生活を1968年5月を背景に描くことになる。フィリップ・ガレルの息子のルイと、トリアーの『ニンフォマニアック』(2013年)でデビューしたステイシー・マーティンが演じるゴダールとアンヌがしだいにそのようにみえてくるのはアザナヴィシウスの狙いが奏功したからであろう。分類するとロマンチックコメディに括られる映画なので、5月の状況に共振し先鋭化しはじめるゴダールと、その傍らで戸惑いながら自立していくアンヌの関係の移り変わりに焦点をあてるが、ゴダール映画の引用――というより反照というべきか――や登場人物や他者作品(『裁かるゝジャンヌ』とか)の記号や技法の仕掛けは随所にある。68年5月の描き方は、『中国女』がそうだったように、賛否はわかれるにせよ、私はくりかえすがあれから半世紀経ったいま、68年の斑になった語り口こそリアルである。私たちが想起すべきはブランショがそのさなか学生-作家行動委員会の集団として「運動について」述べた一文ではないか。すなわち「五月、理念による革命、欲望と想像力による革命、それは、この革命がそれ自身を放棄することで、新たな組織や戦略のきっかけとなるのでないならば、想像だけの理想的で純粋な出来事となる恐れがある」(『ブランショ政治論集 1958-1993』月曜社)
みることはその端緒をひらく。1968を死角にしてはならない。
岡本太郎(Taro Okamoto)[1911-1996]
東京生れ。日本の芸術家。第二次大戦前フランスにわたり、数々の芸術運動に参加。戦後は日本に戻り絵画や立体作品を制作。現代芸術の旗手として次々と話題作を発表した。代表作品に「太陽の塔」「明日の神話」「午後の日」、そのほか1970年の大阪万博テーマ館のプロデュースなど、ジャンルを問わず多彩な芸術作品を残した。
ジャン=リュック・ゴダール(Jean-Luc Godard)[1930-]
長編映画のデビュー作『勝手にしやがれ』でベルリン国際映画祭銀熊賞受賞、“ヌーヴェル・ヴァーグ”の代表として世界的に有名になる。その後も『気狂いピエロ』『アルファヴィル』等を発表。一時テレビの世界に活躍の場を移すが、80年より映画に復帰。最新作は2014年の3D長編映画『さらば、愛の言葉よ』。
寄稿者プロフィール
松村正人(Masato Matsumura)
1972年奄美生まれ。東北大学法学部卒。雑誌「tokion」「Studio Voice」編集長を経てフリーランス。共編著に『捧げる 灰野敬二の世界』『山口冨士夫 天国のひまつぶし』、監修書に「別冊ele-king」など。現在書き下ろしの新刊を準備中。ロックバンド湯浅湾のベース奏者。
FILM INFORMATION

「太陽の塔」
監督:関根光才
撮影:上野千蔵
照明:西田まさちお
録音:清水天務仁
音楽:JEMAPUR
配給:パルコ
(2018年 日本 112分)
2018年9月29日(土)、シネクイント、シネマカリテほか全国順次公開
http://taiyo-no-to-movie.jp/

「グッバイ・ゴダール!」
監督:ミシェル・アザナヴィシウス
原作:アンヌ・ヴィアゼムスキー『それからの彼女』(DU BOOKS)
出演:ルイ・ガレル/ステイシー・マーティン/ベレニス・ベジョ
配給:ギャガGAGA★
(2017年 フランス)
2018年7月13日(金)新宿ピカデリー他全国順次公開
https://gaga.ne.jp/goodby-g/