昨年の傑作『Quality Over Opinion』も記憶に新しい唯一無二の才人が、今夏の〈フジロック〉出演を記念して『Live Sesh And Xtra Songs』をタワレコ限定でCDリリース!

 サンダーキャットが2020年にリリースしたグラミー受賞作『It Is What It Is』で彼の名を初めて知った方も多いのではないだろうか。“I Love Louis Cole” と題されたド直球なタイトルの楽曲でフィーチャーされ、サウンドの要である手数の多いドラミングと共に一気に認知を広げると、自身も2022年のグラミー賞にて楽曲“Let It Happen”がノミネート。押しも押されぬトップ・アーティストの仲間入りを果たしてきた。そんなルイス・コールが2019年に配信リリースしていたEP『Live Sesh And Xtra Songs』を、〈フジロック〉での来日を控えたタイミングでフィジカル・リリースする。

LOUIS COLE 『Live Sesh And Xtra Songs』 Brainfeeder/BEAT(2023)

 もともとのリリース時期は、ブレインフィーダーでの『Time』(2018年)と『Quality Over Opinion』(2022年)というアルバム2作品のちょうど合間で、タイトル通りライヴ・セッションと未発表曲をコンパイルした内容ではあるが、単なるアウトテイク集と侮るなかれ。まずは近年、ライヴのオープニング・ナンバーとして定着してきた“F it Up”が冒頭を飾る。ポップなシンセのイントロと徐々に熱を帯びていく展開に耳を奪われていると、曲が終わる頃にはすっかりオーディエンスのウォームアップが済んでいる、そんな楽曲だ。

 「もともとは、とある映画のために書いた曲で使わなかったパートをリサイクルして仕上げたんだ。ライヴでやるために歌詞が必要だったから、その場で思いついた歌詞をサクッと書いて出来た曲なんだよ」。

 同曲は自宅で撮影されたMVも話題となった。ビッグバンドをリビングに集め、バッキング・シンガーはバルコニー。自身は玄関に位置し、キーボードでイントロ部分を弾き終えると足早に階段に移動して、今度はドラムを叩きはじめる。曲名が曲名だけに時折入る〈ピー音〉もご愛嬌だ。

 「あれはかなりの有酸素運動だったよ(笑)。窓があって、お互いを見ることができたから意外にも完璧な環境だったし、制約があるなかですべてがうまくいったんじゃないかな」。

 続く“Thinking”では、キーボードをバルコニーに移し、コーラス隊とセッション。マーチング・バンド風のアレンジが施された“My Buick”ではふたたび大所帯のビッグバンドが本領を発揮する。

 「すごくヘヴィーなサウンドが欲しかったんだ。メロディーはけっこう前に書いてあって、ライヴでやったことはあったけど、今回ちゃんとしたアレンジを付けて曲にしようと思ってね。ホーンを入れたことによってエッジを効かせて、ロックした感じにできて良かったよ」。

 セッションでの3曲を終えると、〈Xtra Songs〉にあたるパートの楽曲が続く。ほとんどが2007年から2009年にかけて書かれたものだそうで、曲ごとにビートのアプローチもさまざま。なかでも“Doing The Things”は『Off The Wall』期のマイケル・ジャクソンを彷彿とさせるサウンドメイキングが特徴的だ。

 「あの曲には半年から1年くらい取り組んでいて、かなり作業したんだけど、すっかり行き詰まってしまってね。さらに半年寝かせてから、最終的に8割をカットして仕上げたんだ」。

 他にも複数のメロディーが混在して絡み合う“PMS Meltdown”やザ・フーを思わせるサイケデリック・ロック調の“V”など、彼特有の一筋縄ではいかないポップネスが炸裂した楽曲が目白押しだ。そして、本作のラストには完全未発表のバラード曲“Over”がボーナス・トラックとして収録されている。前述の“Let It Happen”にも匹敵する幻想的で壮大なパワー・バラードで、フェスなどの大きな会場で聴いたらきっと最高だろう。その機会ももうすぐ……ということで、来たる〈フジロック〉に向けて、彼はこのように想いを語っている。

 「日本のフェス自体が初めてだし、〈フジロック〉はとても素敵なフェスだって聞いているからとても楽しみにしているよ。ポスターの上のほうに大きく名前が書いてあったのもとてもクールだったしね(笑)」。

左から、ルイス・コールの2018年作『Time』、2022年作『Quality Over Opinion』(共にBrainfeeder)