グッドラックヘイワのルーツは〈おっちゃんのリズム〉にあり

――このへんで、両バンドの音楽的ルーツについて掘ってみようと思います。

伊藤「俺と卓史は高校の同級生なんですよ。高一で知り合って、ユニコーンのコピーを2人でやったり、卒業式の前の日に細野(晴臣)さんの〈トロピカル三部作〉から何曲か選んでバンドでやったり。

いまに投影してるっていうと、やっぱり細野さんの音楽で聴いた林立夫さんのフレーズとか、アプローチの感覚、メロディーやリズムの感触とか音質とか。その感覚は、直接的ではないにせよ、常に頭にあるかな。2人でやったっていう思い出も含めて」

※細野晴臣の『トロピカル・ダンディー』(75年)、『泰安洋行』(76年)、『はらいそ』(78年)のこと

――いわゆる〈おっちゃんのリズム〉。細野さんが指示した古い音楽のグルーヴ感に対して若い林立夫さんが言った名言ですけど。

伊藤「なんであのとき立夫さんが〈おっちゃんのリズム〉にしようと思ったのか、その感覚、その思考の方向性は常に意識してますね。演奏家としては常に〈上手い!〉って言われたくてしょうがないんですけど、そうじゃないものを持ち込んで完成したときの充実感みたいなのをGLHには求めてるのかな。その参考例としてトロピカル三部作はわかりやすいと思うんですけど」

野村「僕が高校のときにトロピカル三部作を知って、あまりに好きだったからカセットテープにコピーしまくって友達に配ってたんですよ。それで、卒業前にどうしてもライヴでやりたくなって、大地に声をかけたんです」

サケロックオールスターズの2006年作『トロピカル道中』収録曲“Pom Pom 蒸気”。細野晴臣の76年作『泰安洋行』収録曲のカヴァー

伊藤「GLHを結成する前は、SAKEROCKでも卓史と一緒に曲作りの体験をしてて、そこでの感覚ももちろんあるけど」

――ということは、野村くんもトロピカル三部作がルーツ?

野村「そうですね。それがSAKEROCK結成のきっかけにはなったし、いまに地続きであることは間違いないです」

――ピアノやキーボード奏者として影響を受けた存在はいないんですか?

野村「坂本龍一さんにはすごく憧れがありました。それこそ文化祭で〈戦場のメリークリスマス〉弾きましたし。そこからYMOになり、トロピカル三部作になり、さらにニューオーリンズに興味がいって、ドクター・ジョンを知り、アメリカ南部の音楽が好きになりました。流暢なわけじゃないけどピアノを弾き倒してるおじさんたち、みたいなのが好きでしたね」

伊藤「細野さんはニューオーリンズをルーツのひとつとしつつも、さらに研究して、日本の感覚を含めたわけですけど、そういうすごいものを作った人たちをルーツと言いたいな、っていうのはあります」

 

fox capture plan井上のなかのデイヴ・グロール

――fcpのお2人はいかがでしょう?

岸本「やっぱりスウェーデンのピアノトリオの e.s.t.が大きかったですね。〈はたしてこれはジャズなのか?〉って思わせるような音楽なんですけど、そこにすごく衝撃があったんです。リズムとかも含めて〈こんなんやってよかったんだ〉っていう衝撃。それをヒントにfcpは結成したといっても過言ではないかな」

井上「僕もハードコアとかをやってましたけど、e.s.t.みたいな音楽を聴くのは好きだったんです。でも、自分が関わるジャンルじゃないんだろうなと思ってました。僕自身のドラマーのルーツは、デイヴ・グロールなので(笑)。お客さんがスタンディングで盛り上がってるときは、かつてデイヴ・グロールを観たときの衝撃が頭に残ってるのか、彼の動きを意識します。

最近だとブライアン・ブレイドがすごく好きですね。鳴らし方とか、ほんのちょっとだけ潜在意識に取り込んでます。でもデイヴ・グロール感は抜けてないですけど(笑)。そこと合わせてもっとよくなっていければいいなと」

――井上さんをバンドに誘うときに、そのデイヴ・グロール感を必要と思ったようなところもあったんですか?

岸本「音の鳴り方が周りにいたドラマーとぜんぜん違ったんですよね。ちょっと難解なリズムを叩いてたんですけど、打点がすごくはっきりと伝わってくる。でも、ライド・シンバルの音はちょっとジャズっぽかったりもして。ピアノ、ウッドベース、ドラムの編成だと、どうやってもジャズ的な渋さが出てしまうけど、彼ならおもしろいと思って誘ったんです」

井上「最初はすごく遠慮して叩いてました〔笑)」

伊藤「〈俺のなかのデイヴが〉って(笑)」

井上「でも(岸本からは)〈バキバキでやって!〉って言われて。そのミスマッチ感がおもしろいなとなっていったんです」

岸本「いまじゃ当たり前にこういう感じの音になってますけど、方向性が定まるまでは結構時間がかかったなというのはありますね」

井上「そうですね。最初に一回セッションしてから、しばらく連絡もなかったですから(笑)。そしたらじつはその間に、僕らの最初のミニ・アルバム『FLEXIBLE』(2012年)に入ってるリード曲“capture the Initial "F"”を(岸本が)書いてて。突然デモのデータが送られて来たんですよ」

岸本「ちょっとネガティブな話なんですけど、あれは震災の年(2011年)でもあって、それぞれがやっていた活動が止まりつつあった時期だったので、そこから新しくやろうというタイミングだったんです」

fox capture planの2012年作『FLEXIBLE』収録曲“capture the Initial "F"”

野村「(カワイは)fcpでは、ずっとウッドベースですよね」

岸本「そうです。最近、劇伴の制作ではエレキベースも入れたりします。前作以降は、ちょっと新しいことをしようというモードもあって、最近作った曲はローズ(・ピアノ)とエレベでやったり、いろいろ挑戦しようかなとしてますね」

野村「録るときは一発(録音)ですか?」

岸本「一応、同時ですね。最近はシンセを重ねたり、ストリングスを入れたりもしてます」

野村「(fcpの音源は)演奏はクールなのに、タンバリンの音がしたり、不思議な拍子が入ったり、他にはない感じで、おもしろいですよね」

 

グッドラックヘイワ、MTR録音にハマる

――GLHは最近はどういうレコーディングをしてるんですか?

伊藤「いちばん新しいやつはMTRで録って、自分たちでミックスして。録音するのにワクワクできるスタジオを探してるところですね。未体験な録音をしたいなと思ってて」

野村「前回使ったやつよりもっといいMTRを買いたいとはちょっと考えてますけどね。パソコン録音がメインになりつつあった時期に、AKAIってメーカーが作った最上機種があるんですよ。誰も目をつけないような半端なヴィンテージ感だと思うんですけど」

伊藤「俺らの世代はハードディスクMTRが全盛だったし、SAKEROCKもそれで録ったりしてたから、その感覚が楽しいんですよね」

岸本「原点回帰ですか?」

伊藤「原点というか、スタジオに録るのにちょっと飽きてて。うまくいかないかもしれなくても、どうなるかわかんないほうが楽しいかなと思って」

野村「うまくいかないことのほうがわりと楽しいかな」

岸本「おもしろい。ミックスも2人で?」

伊藤「やります。マスタリングはお願いしますけど」

野村「おもしろいんですよね。ピアノは俺がミックスして、ドラムは大地がやって、最後に混ぜるんです。お互いに相手の音を上げたがるという変な譲り合いをしてますね(笑)」

 

fox capture planのレア&未発表曲集『completeplan』

――fcpが今回タワーレコード限定でリリースするアルバム『completeplan』は、レア&未発表曲集ということですよね。

岸本「前から温めてた企画なんです。今回、タワーレコードさんからお話をいただいて、実現することになりました。アルバムに入りきらなかった曲縛りで、ちょうど一枚ぶんくらいのサイズになりました。新録曲、コンピレーション収録曲やスプリットの曲、カヴァー曲……」

――しかも、メタル・バンドのスリップノットのカヴァー“Wait And Bleed”があったり。

岸本「そういう毒気もありつつ、あらためて聴いたら、それぞれに個性があっておもしろかったですね。オアシスの裏ベスト『The Masterplan』(98年)もそういう作品だったのかなという思いもこめつつ、ちょっと似たタイトルにして」

井上「入りきらなかった曲もありますしね」

野村「GLHでもちょっと前に『SUPER GATTAI BOX』(2016年)っていう未発表曲集をライヴ会場限定で出しましたね」

岸本「代表曲でベストを作るよりは、むしろおもしろいんちゃうかなと思うんですよね」

 

ツーマンではfox capture planとグッドラックヘイワが合体する?

――今回、fcpの〈PLANNING TOUR 2019〉で、両バンドの初ツーマンを広島と福岡で行うわけですけど、どうなるのか楽しみです。さっきもカワイさんがベースでGLHに参加するかも、という話がありましたが、もっと融合することもできそう。

伊藤「配置さえ可能なら、5人一緒に演奏できそう。俺らは中央で向かい合うくらいなので」

岸本「うちらも配置は半円形で、ベースが真ん中でどっしりやって、ピアノとドラムが両サイドからガッツリ攻める、みたいな感じ」

――GLHもベーシストはいないけど、配置はほぼ一緒ですよね。それに、姿は見えないけどGLHの2人の間の空間になにかいるような気もすることがあります。

岸本「僕もたまにそういうのを感じることありますよ。2人しか音出してないのに、2人以上の音が聴こえてくるような」

――そういえば、昔に比べたらGLHはMCが長くなりましたね。

野村「最近、よくしゃべるようになったよね」

井上「うちもすごいですけどね」

岸本「そうですね。初対面の人には聞かせられないかも。本当に素のままステージに上がって、この感じでしゃべるので」

井上「そこにベースのカワイがいい感じにツッコミして(笑)。名物化してます」

岸本「MCはアクが強すぎるので減らす傾向にしてます(笑)。それとも、一か所に集中させようかな?」

伊藤「減らさなくていいですよ(笑)」

――でも、演奏が始まると雰囲気がガラッと変わる。そこも共通してますよ。

野村「人が音楽に集中できる時間ってそんなに長くない気がしてて、しかもインストだから、一回しゃべりとかでリセットしたほうがいいかも。まあ、そんなことを考えてそうしてるわけじゃなく、結果的に長くなってるだけなんですが(笑)」

岸本「インストだからこそ、観てる側も〈どういう人間性なの?〉って気になってしまう面はあるかも。だからMCは大事かもしれないです」

伊藤「たしかに、インストだったらヴォーカルもいないし、ドラマーがいきなりしゃべってもいい気がする。そういう自由な雰囲気は守られるというか」

野村「インスト・バンドのMCについてのディスカッションでした(笑)」

――結論を言うと、両バンドとも変える必要はない、ということで(笑)。今回、こうしてお互いに打ち解けたので、きっと共演ではMCも楽しめるだろうし、音楽的にもなにかあるかもしれません。

全員「よろしくお願いします!」

 


Live Information

■fox capture plan × グッドラックヘイワ
広島PARCO 25th anniversary & TOWER RECORDS広島 30th anniversary
6月28日(金)広島 CLUB QUATTRO
開場/開演:18:00/19:00
前売り:4,300円(ドリンク代別)
お問い合せ (広島クラブクアトロ):082-542-2280
https://www.club-quattro.com/hiroshima/schedule/detail.php?id=9483

6月30日(日)福岡・天神 the voodoo lounge
開場/開演:16:00/16:30
前売り:4,000円(税込/ドリンク代別/整理番号付)
お問い合わせ(BEA):092-712-422
http://voodoolounge.jp/201906.html#30

■fox capture plan
PLANNING TOUR 2019

6月1日(土)大阪・十三 246ライブハウスGABU 共演:NEIGHBORS COMPLAIN
6月2日(日)神奈川 F.A.D yokohama 共演:the band apart
6月8日(土)宮城 仙台HooK 共演:toconoma
6月9日(日)埼玉 北浦和KYARA 共演:toconoma
7月13日(土)東京・鶯谷 キネマ倶楽部 共演:フレンズ

■グッドラックヘイワ
女声合唱団〈あい〉第24回定期演奏会

5月26日(日)山口 周南市文化会館大ホール
スカート Major 2nd Album リリースツアー “トワイライト”
7月6日(土)大阪・梅田 CLUB QUATTRO
7月19日(金)東京・渋谷 CLUB QUATTRO