DAIZAWA RECORDS/UK.PROJECTから届けられたEASTOKLAB(イーストオーケーラボ)のファースト・アルバム『EASTOKLAB』は、未来を感じるレコードだ。それは〈これから発展していく〉という意味合いよりも、どこかポジティヴで陽性なムードをたたえている、ということ。東京ではダウナーなサウンドを奏でるバンドも多いなか、名古屋を拠点とするこの若き4人組は、どこかあっけらかんとした解放的な音楽を鳴らしている。
エレクトロニクスと生楽器が複雑に絡まり合い、ポスト・ロック的なアプローチも聴かせ、デビュー作にして緻密さと完成度の高さを印象づける本作。その一方で、芯の通った歌と力強いメロディーも大きな魅力となっている。この独特の音楽は、いったいどこから来ているのだろう?
そこで今回は彼らに影響を与えた5つのアルバムと、『EASTOKLAB』の全曲解説からこの新星に迫った。弛まぬプログレスへの意志ものぞかせる日置逸人(ヴォーカル/シンセサイザー/ギター)が、確信を持った言葉で語る。
EASTOKLABの音楽性に影響を与えた5つのアルバム
――今回の取材ではバンドについて知ってもらうため、自己紹介代わりに日置さんとEASTOKLABの音楽性に影響を与えた5作のアルバムを選んでいただきました。1つ目はスマッシング・パンプキンズの『Siamese Dream』(93年)です。こちらはどうして選ばれたんでしょう?
「自分の両親がプログレ好きだったりして、家で音楽がかかっている環境で育ったんです。兄は70年代の音楽から現行のインディーまで深く聴いていて、その影響で名盤もいまの洋楽も聴くようになりました。そのなかでスマパンを初めて知ったのがこのアルバムで、当時自分的には衝撃だったんです」
――『Siamese Dream』といえば名曲“Today”じゃないですか?
「僕は1曲目の、邦題がめっちゃダサい〈天使のロック(“Cherub Rock”)〉がいちばん好きなんです(笑)。オープニングとしての興奮度、高揚感がすごくて、再生した瞬間の一発目にガーンときました。
あと、このアルバムで好きなところは帯に〈ボリュームの上げ過ぎに注意して下さい。血管ブチ切れます。〉って書いてあるところで。中学生の頃って、こういうのそそられるじゃないですか? だからヴォリュームをめちゃくちゃ上げて、ずっと聴いてました」
――どういうところが好きですか?
「スケールの大きさやパンチ力、インパクトの強さですね。次の〈メロンコリーそして終りのない悲しみ(Mellon Collie And The Infinite Sadness)〉(95年)になると、アルバムを通して緩急をつけながら、だんだん聴いている人の内側に入ってきたり、覚醒させる感じがあって。それがスマパンのかっこよさかなと思います。バンドのスタイルややってきたことも唯一無二だし、最高のバンドだと思いますね」
――2枚目はNYのオルタナティヴ・ロック・バンド、ブロンド・レッドヘッドの『Barragán』(2014年)です。20年以上キャリアのあるバンドですが、どうしてこのアルバムなんですか?
「『Misery Is A Butterfly』(2004年)ってアルバム以降、サウンドがすごく耽美的になったんです。もともとソニック・ユースみたいな、ガチャガチャしてジャングリーな感じだったのが、だんだん電子音を増やして、ミニマルになってきて。それ以降は全部好きで、ここ何年かでいえば、いちばん好きなバンドだと思います」
――そこまで好きなんですね。
「音の重なりやレイヤーがすごく視覚を刺激する感じで、なおかつ洗練されていて、グラフィカルにデザインされているところがものすごく新しいと思います。もともとアート・ロックと言われていたのが、本当にアートの領域に到達している。
音の配置をデザイン的にやるっていうのが自分たちのテーマのひとつなので、そういう面で影響も受けましたし、制作中もずっと聴いていました」
――3枚目はエレクトロカ~ポスト・ロック的な要素もある英国のバンド、カイトの『Love To Be Lost』(2012年)です。
「メンバー共通で好きなバンドで、よく一緒に聴いていました。カイトはこのアルバムですごくシフトチェンジして、レンジも広くてダイナミックで、音圧や音の波もあるサウンドになったんです。このアルバムは僕にとってかなりフェイヴァリットで、音が前に飛んでくる感じとか、歌がグッと飛び込んでくる感じがすごくかっこいいと思っています」
――ドラマティックなサウンドですよね。カイトはアートワークもいいと思うのですが、EASTOKLABにもそれは感じます。トータルで作品を見せようとする意志というか。
「ヴィジュアル面も含めて、美しいものを見せたいと思っているんです。作る音楽に準じて自分たちもそうなっていますし、たぶんカイトもそうなのかなって」
――EASTOKLABのアーティスト写真ってかなりエフェクトがかかったもので、匿名性を大事にしているのかとも思ったのですが。
「顔を出すのが嫌とか、そういうことではないんです(笑)。アー写にしてもジャケットにしても、〈こういう感じなんだろうな〉って予想やイメージを捉えづらくしたいかなとは思っています。
音楽的にも、捉え方はどういうふうでもよくって。そもそも音楽的には、かっこよければそれだけでいいと思っているんです。僕らの音楽に何かを感じてもらえるなら、それはどういう形でもOKで、めちゃくちゃアガってくれる人もいれば、グッとくる人もいてほしい。なので匿名性っていうよりは、どういう捉え方もできるような抽象的な部分があったほうがいいかなと思っていますね」
――どういうふうに聴かれるかを決めたくないというか、聴き手の想像力に任せる余白を大事にしている?
「そうですね。いろいろなところに転がれる要素があったほうがおもしろいかなって思って。だから僕らは落ち着いたスペースでもライヴできるし、クラブでもできるんです」
――確かにそういうサウンドですよね。
「オーヴァーグラウンドでもアンダーグラウンドでも、どっちでも鳴らせるものでありたいなとすごく思っています。ただ、いろいろなところに足を踏み入れていくことで芯がなくなっていく、ということではなくて、一つの芯を絶対にブレさせないまま、行けるところ全部にシフトできるようなもののほうがおもしろいなと考えています」
――なるほど。選んでいただいたアルバムの話題に戻ると、4つ目はUSインディーを代表するディアハンターの『Halcyon Digest』(2010年)です。
「ディアハンターでいちばん好きなのはこのアルバムなんです。僕は内省的な音楽がすごく好きなので、例えば夜寝る前とかに一人で聴いたりするのって、結構このアルバムだったりします。心のいちばん深いところまで届く感じの音かなって思いますね。
すごく暗いんですけど、捉え方は自由で、グルーヴやビートのループだけを取ってみれば、アガれる部分もあって。一見両極端なものがすごく高い密度で合わさって完成している感じが美しいなあって思います」
――では、最後のコープランド『You Are My Sunshine』(2008年)です。彼らもアメリカのインディー・ロック・バンドですね。
「コープランドもメンバー共通で好きなバンドなんです。なかでもこのアルバムは圧倒的にいちばん好きで。全部の音に光が当たっているくらい、美しさがあふれていると思います。あんまり僕はメロディーで音楽を聴くタイプではないんですけど……」
――日置さんはレコーディング・エンジニアもされているんですよね。なので、サウンド全体で捉える傾向がある?
「そうですね。歌のメロディーに関しては、他の楽器とのバランスのなかでどう鳴っているのかをすごく気にします。
でも、このアルバムに関してはメロディーが最高で、メロディーが楽器の音の隙間を縫って、自分の身体の中に急に入ってきたりする瞬間が何か所もあって。ハッとさせられたり、一瞬で心を掴まれたりしてしまうような〈瞬間の美しさ〉みたいなものがあるんですよね。大切なアルバムだと思っています」
――改めて5作を俯瞰すると、スマパンとブロンド・レッドヘッド、ディアハンターはオルタナ、カイトとコープランドは美しいサウンドスケープを表現するバンド、というふうに整理できます。でも、全部ロック・バンドだったのは意外でした。もっとエレクトロニックなものを選ばれると予想していたので。
「それはいま言われて初めて気づきました。もちろんエレクトロニックなものも聴いたりはするんですけど、やっぱり僕はバンドが好きで、バンドでやることに意味を求めているんです。何より、あくまで自分たちのことをロック・バンドだと思っているので」
――その理由は?
「全部の音が人間が鳴らした音であって、その音にちゃんと感情が乗っているから、ロック・バンドだなと思うんですね。電子音も使っていますけど、すべて人力で出していますし。録音に関してもそうで、毎回演奏するごとに色が変わるんです。同じ演奏を二度とできないっていうことが、ロック・バンドであるという証拠なのかな。やっぱり人間が鳴らしている音で、その日の感情がそこに乗るところがかっこいい。個人的にはですけど、それがロック・バンドの定義かなと思います」
――いまちらっとお話に出ましたが、ということはレコーディングでもシーケンスに頼らないんですか?
「そうですね。ドラムやパッドも全部叩いて録っていますし、ベースもシンセも弾いています。今回シーケンスは一切使っていないです。ライヴでも同期は一切使わないですし」
――そうなんですか!? それはかなり驚きですね。EASTOKLABの音楽にはエレクトロニックな要素も多いので。
「基本的にはプリプロの段階でかなり作り込んであるので、レコーディングが終わった後の編集は特にないんです。今回のレコーディングはなるべく少ない回数で、その日の気分や感情がいちばん乗っているテイクを使いました。ずっとそういうスタイルでやりたいなって思っていますね」
日置逸人による『EASTOKLAB』全曲解説
――続いて、アルバム『EASTOKLAB』について全曲解説として1曲ずつお伺いします。まずは1曲目“Fireworks”。
「基本的に全曲作り方は一緒なんですけど、断片的なビートに対する他の楽器の鳴り方のイメージがまず頭の中にあって。僕はDAWを使ってデモを作ることもないので、頭の中で一度簡単に構築して、それを忘れないように口で歌って録音するんです。それをメンバーに伝える、っていうスタイルで作っています。
この曲はサビですごく開けた部分があるんですけど、最初はただそれをやりたかったんです。〈ダンダンダン〉って1ビートみたいなリズムがあって、そこから思いっきり開いていく、突き抜けてくる、というものを作りたくて。そういうダイナミックな曲を、いまの自分たちなら作れる感じがあったんです」
――映像的な曲だと思いました。〈花火〉というタイトルどおり、Aメロで上昇して、サビで花開く、みたいな。
「完全にそういうイメージです。サビ前に〈シューン〉っていう電子音を入れていて、それは打ち上がっていくようなイメージなので。
もともと自分が慣れ親しんでいる場所があって、そこがなくなって、そのときに自分の仲間たちと花火をやったことがすごく心に残っていたんです。それを音楽に昇華したい、って思ったのがきっかけかもしれないですね」
――パーソナルな体験を音楽にする作り方が多いんですか?
「〈する〉っていうよりは〈なる〉っていう感じで。出来上がった曲が、自分の思い出とかパーソナルなものとリンクする瞬間がすごく多くて」
――2曲目は“In Boredom”。bounceのインタヴューでは本作のきっかけになった曲だと言っていましたが、どういうところがキーになったんでしょう?
「(改名前の)The Skateboard Kidsで最後のアルバムを作り終えて、〈次はどういうことをやっていこうか?〉っていう話し合いをメンバーでしたんです。そのタイミングで、みんなで機材も新調して。シンセを新しく買い替えたり、シンセ・ベースを取り入れたり、それまで全部生でやっていたドラムにもパッドを入れたり。
そのなかで最初に出来たのが、この曲と“New Sunrise”でした。〈音が前に飛ぶ〉っていう感覚を、この曲が出来たことによって掴めたんですよね。だから、アルバムのなかでもキーになったのかな」
――カイトについても〈音が前に飛んでくる〉と話されていましたが、立体的な音ということでしょうか?
「立体的でもあるんですけど、もっと感覚的なところで。僕個人の感覚で〈この曲のこの音は前に飛んでいく〉とか、〈このアンサンブルは飛んでいくなあ〉とか思うんです。リスナー目線でいうと、始まった瞬間や曲のあるポイントでハッとさせられるとか。
〈前に〉でもあって、ある意味〈高く〉でもあるし、〈広く〉でもある。ただスケールが大きいだけじゃなくて、ちゃんと中心をめがけて音が飛ぶって感覚なんです。だからイヤホンで聴いたときに、その人の脳や心までちゃんと届く音が〈前に飛ぶ音〉っていう感覚で、それを作りたいなと思っています」
――サウンドの捉え方が独特ですよね。感覚的ではあるけど、かなりフィジカルで即物的にも感じられている。
「人間が出す音の力強さは大切にしていて、自分たちの軸かなとは思っています」
――3曲目“Passage”はエレクトロニックな要素が多い曲ですね。
「この曲は結構時間をかけて作っていきました。アルバムの曲がほとんど出揃った状態で作りはじめたんですけど、1、2曲目がパワフルなので、ちょっと余白の多い曲を入れたいなって。前に出てくる感じとは違ったパワーを感じる曲にしたかったんです」
――静かな力強さ、というか。
「そうですね。でも電子音が多くなっていったのは、ドラムが電子的なビートをかなり多めにしたので、そこに寄せて全体をすごくデジタルな方向に持っていったっていう感じです」
――トラップっぽいハイハットの刻みも聴けますが、それも生演奏で?
「そうですね」
――それもびっくりですね。4曲目の“Always”はドラムとベースがグルーヴの中心にあって、静と動のコントラストが強い一曲です。
「もともとこの曲は、音を100で出すところと0のところを作りたくて。前に出た音が一瞬で引いて、そこに歌が飛び込んでくるっていうアイデアがあったんです。それをいろいろな角度から捉えて、肉付けしていくように作りました」
――歌を大事にしていますよね。例えばCorneliusのように、電子音や生楽器の音と同じパーツの一つとして声を扱うアプローチをするミュージシャンも多いので、珍しいと思いました。でも、EASTOKLABは歌が真ん中にあって、歌を聴かせるバンドだなと。
「それはやっぱり、メンバー共通で歌のある音楽、歌が強い音楽が好きだからだと思います。いちばん心にグサッとくる部分は、歌でありたいと僕は思っているんです。なので常に、最終的には歌を中心に組み上げていく、っていうところはありますね」
――次は5曲目“New Sunrise”です。ゆったり繰り返されるビートのパターンが印象に残りました。
「ビートはずっとループなので、僕らのなかでもシンプルな構成なんです。この曲は“In Boredom”と同じくらいの時期に出来た曲ですね。
僕らがいま作っている曲って、どうしてもどんどん過激というか、派手でかつ細かいアプローチになっていってしまうんです。なので、もうこういう曲は作れない気がしますね。それくらい振り切って、僕の歌やスケールの大きさにフォーカスを絞って作れました。
この曲も、自分たちが変わるきっかけの一つになったと思います」
――ドラマーの田保友規さんはほとんど8ビートを叩かない、ということもインタヴューでおっしゃっていました。リズムやグルーヴに対する意識が他のロック・バンドとは明らかに違いますよね。
「自分たちの強みとして、リズムに強いというのがあると思っていて。どういうビートを入れることで、どういう気持ち良さが生まれるかを考えているので。
僕らは〈なんでみんな、ありきたりな8ビートばかり乗せているんだろう?〉って思っていて。8ビートがいちばん映える曲ならそれでいいんですけど、いまのところ、ほとんどの曲に対してシンプルな8ビートよりも曲にハマるビートを見つけられているんです。
僕らのなかでは、8ビートも他のビートと同じ扱いなんですよね。なぜかそれが、特に日本では基準になっているだけで、そこにとらわれる必要はないと思っています」
――では最後、6曲目の“Tumble”です。ギター・リフが肝になっていて、ベースもユニゾンしていますね。
「シンセもユニゾンしていて、ドラムもずっと同じビートです。この曲はベースのフレーズが最初にあって、それがすごくかっこよかったので、全員でそれをやっちゃおうと。
曲を作るときにうまくまとめるんじゃなくて、一方向に振り切りたいって思うこともあって。それがロック・バンド的な部分なのかもしれません」
――一点突破的な。
「そこだけで突破していったほうが、すごくクるなって。自分たちのなかではあんまりしたことがないアプローチだったんですけど」
――改めて、『EASTOKLAB』はどういう作品になったと思いますか?
「バンド名も変わって、デビュー・アルバムって銘打って出すことも含めて、すごく自由に作れました。いままでやってきたことと新しく取り入れたいこと、これからやりたいこと、すべてを悔いなく全部入れられて。
それをものすごく高い次元で納得するレヴェルに仕上げられたので、一つの完結、みたいなところがありますね。いまのスタイルで、もうこれ以上良いものは作れないかなって。だから変化していって、もっとかっこいいものが作れたらいいなといまは思っています」
――次はまったく別のサウンドになるかもしれない?
「そうですね。あくまで自分たちの色や芯、中心の部分は残したまま、たぶん全然違う感じになっていくだろうなと思います」
LIVE INFORMATION
EASTOKLAB Release Tour 2019
8月2日(金)愛知・名古屋 HUCK FINN
8月6日(火)東京・下北沢 CLUB Que
8月3日(土)京都 GROWLY
8月6日(火)東京・下北沢 CLUB Que
6月23日(日)東京・下北沢〈TORI ROCK FESTIVAL〉
7月14日(日)東京・吉祥寺 NEPO
7月20日(土)京都〈UMI ROCK FESTIVAL〉
8月22日(木)東京・新木場 STUDIO COAST〈UKFC on the Road 2019〉