(左から)佐々木亮介、三船雅也
 

佐々木亮介が8月21日(水)にリリースするファースト・アルバム『RAINBOW PIZZA』は、2010年代に大きく口を広げてしまった分断に対し、七色の橋を架けようとするかのような、実に意義深い作品だ。a flood of circleのフロントマンとしてこの国のロック・シーンの第一線を走り続けてきた佐々木は、バンドの10周年を経て、2017年に初のソロ作『LEO』をブルースの聖地・メンフィスにある名門、ロイヤル・スタジオで制作。そこでつかんだ手応えを基に、昨年は一転GarageBandで作られたトラック・ベースの『大脱走E.P.』を発表し、トラップのビートを取り入れるなど、近年のヒップホップ/R&Bのシーンを意識した作風となった。

ここ日本でも〈トラップ以降〉を感じさせる楽曲は珍しくなくなったものの、ロック・バンドでの十分なキャリアがありながら、自らトラックまで作るというのはかなり珍しいし、〈トレンドを取り入れた〉ということではなく、あくまで時代の先を見ながら、独自の音楽を作り出そうとする意志が、『大脱走E.P.』からははっきりと伝わってきた。それをさらに推し進めたのが『RAINBOW PIZZA』であり、今回佐々木はシカゴのクラシック・スタジオを訪れ、チャンス・ザ・ラッパーやノーネームらを手掛けるエルトンミックスエディットことエルトン・チャンにミックスを依頼。かの地のクリエイティヴな空気を存分に吸い込んで、4曲を完成させた。

さらに、東京ではROTH BART BARONの三船雅也を共同プロデュースに迎え、同じく4曲を制作。三船と作り上げたもののなかから、先行配信楽曲として“We Alright”が公開されている。三船もかつてフィラデルフィアやモントリオールでのレコーディングを行い、昨年発表された『HEX』では同じくエルトンにミックスを依頼(記事〈ROTH BART BARONは誰がために歌う? 現代の〈フォーク=民衆音楽〉たる新作『HEX』を語る〉を参照)。ロックの現状に対する危機感など、佐々木とシンクロする部分は多い。そう、彼らのように国境もジャンルも自由に飛び越える姿勢を持ったアーティストだけが、新たな価値観を提示できるはず。〈手放せないのは場所じゃないのさ〉。佐々木と三船の対話から、その先の光景がきっと見えてくる。

佐々木亮介 『RAINBOW PIZZA』 IMPERIAL(2019)

 

三船くんが俺の新しい扉を開いてくれるかも

――まずは共同プロデューサーとして三船さんに声をかけた経緯を教えてください。

佐々木亮介「シカゴ編を録って、東京で続きを作ろうと思ったときに、シカゴではエルトンと作ったので、東京でも誰かとタッグを組んでやってみたいと思ったんです。1人でやるときは、a flood of circleというバックボーンを取っ払って聴いてもらいたいし、新しい出会いを求めていた。そのなかで、スタッフと〈三船くんがおもしろいんじゃないか?〉という話になったんです。ROTH BART BARONが積極的に海外に行ってるのは知っていたので、ずっと気になってはいて」

――面識はなかった?

佐々木「なかったです。なので、最初はどんな人かぜんぜんわからなくて、静かそうなイメージを持ってたんですけど、初めて渋谷の喫茶店で会ったら、めちゃめちゃ……チャーミングな人っていうか(笑)。一時間くらい話しただけで、音楽めちゃめちゃ好きなのが伝わってきて、〈三船くんが俺の新しい扉を開いてくれるかも〉って思ったんです。それはエルトンと会ったときや、メンフィスに行って、(ローレンス・)ブー・ミッチェル※と初めて会ったときにも似てて」

※佐々木亮介が『LEO』をレコーディングしたロイヤル・スタジオのプロデューサー
2018年のミニ・アルバム『LEO』収録曲“Strange Dancer”
 

――ロットもエルトンと仕事をしたことがあるのは知ってたんですか?

佐々木「僕がエルトンに依頼したタイミングでは知りませんでした。『HEX』の一部の曲に〈Chicago Mix〉って書いてあったけどエルトンだっていうのは最初わかってなくて、後でインタヴューを読んだら、〈これ、そうなんだ!〉っていう」

――三船さんは〈フラッドの曲は数曲知っているくらいだったけど、実際に会ってみて、プロデュースを快諾しようと思った〉という趣旨のコメントを出されていましたね。

三船雅也(ROTH BART BARON)「パッと聴いたバンドのイメージに対して、佐々木くん個人のバックグラウンドはまた違う深いところにあって、メンフィスに行っちゃう人って、なかなかじゃないですか? ブルース、R&B、ソウル……いまのロックの基礎を作った場所に土台を置きつつ、日本のポップスを作ろうとしてる感じに感銘を受けました。僕自身もそういう音楽は大好物だから、自分が関わることで、おもしろくできる可能性があるなって。僕も僕で、佐々木くんがどんな人かはぜんぜんわかってなかったけど、実際お会いしたら、話しやすいし、年も近いし……無邪気さを感じたっていうか(笑)。それで大丈夫だなって思って、お引き受けしました」

 

謎を楽しむパワーを音楽に持ち込もうとする2人

――メンフィス録音の『LEO』から一転、昨年発表した『大脱走E.P.』は宅録作品で、近年のアメリカのヒップホップ/ラップ・シーンからの影響を色濃く感じさせる内容でした。エルトンの起用はその延長線上にあり、東京編はまた少しタイプの違うプロデューサーとして三船さんに依頼をした……というようなイメージもあったのでしょうか?

佐々木「いまって〈ラップ〉と〈ヒップホップ〉が別になってる時代だと思うんですよね。メンフィスからシカゴ経由で帰ってくるときに、ちょうどチャンスが表紙のGQを読んだら、〈なんでチャンス・ザ・ラッパーって名前なのか?〉という質問に絡めて、彼は〈カニエみたいなやり方をラッパーだと思ってた〉という話をしていて。つまり、ヒップホップの文化がどうこうというより、自由に生きてて、音楽作って、服も作って、何でもやれて最高、みたいな意味で〈ラッパー〉と付けたと言っていた。俺もその気分でラップ聴いてるなって感じたんですよ」

チャンス・ザ・ラッパーの2016年作『Coloring Book』収録曲“Same Drugs”
 

――〈何でもできる〉という精神性が大事だったと。

佐々木「僕はいわゆる〈ラッパー〉になりたいわけでも、ヒップホップぶりたいわけでももちろんなくて、シカゴのチャンス周りの人たちって、〈ヒップホップってこういうもの〉とか〈インディー・ロックってこういうもの〉じゃなくて、わけわかんない混ざり方をしてることに感動したんです。なので、エルトンに対してもラップっぽい何かを求めたというよりは、〈超えて行く姿勢〉みたいなものに感動して、自分の曲作り、トラック作り、歌詞の書き方も全部そうしたかったし、名前が付けられないような……謎を楽しみたいなって」

――なるほど。

佐々木「いまのドメスティックな世界のなかでは、謎を楽しみにくい環境がある気がするし、バンド文化は歴史が長いから、フレッシュに感じにくいかもっていうジレンマと悩みを感じている。謎を楽しむパワーを音楽に持ち込むことができれば、それも打破できるんじゃないかと思って。三船くんのあり方や音楽そのもの、〈外に飛び出す〉という姿勢も含めて、俺のなかでは繋がっていて、チャンスがカニエに対して思ってることと同じというか。いろんなものを飛び越えてる人の表現はやっぱりおもしろいから、ある意味、ファンとしてそれに触れたいっていうのもあったかもしれない」

――飛び越えてる人であり、謎を一緒に楽しめる人というか。

佐々木「『HEX』とかマジ謎ですよね。めちゃめちゃいいんだけど、割り切れないっていうか、そこが好きです」

三船「『HEX』のミックスがエルトンなんだって言ってくれたのは、佐々木くんとGotchだけでした(笑)。僕も最近のシカゴ周り、ジャミーラ・ウッズ、ノーネームとか88risingのセン・モリモトくん、ジョージとか、あのシーンがワッて出てきた一方で、今年のコーチェラにロック・バンドのヘッドライナーがひとつしかいないって世界になっている。

でも、シカゴの彼らのほうが型にはまってないし、フレキシブルだし、単純にソングとしていいなと思ってたので、〈あんまりヒップホップだとは思わないんだよね〉という、そこは佐々木くんとも一致したところ。で、いまのシカゴのいろんな作品をチェックしてたら、大体エルトンが絡んでて、点が線になっていって。そこに佐々木くんも反応してくれたってことは、これは何か化学反応が起きるんじゃないかと思いましたね」

ROTH BART BARONの2018年作『HEX』表題曲。エルトンミックスエディットがミックスをしている

 

a flood of circleの佐々木くんから革ジャンを脱がしてみたい

――実際の制作に関しては、どのように進めていったのでしょうか?

佐々木「最近は一日一曲くらいのペースで曲を作ってて、もともとデモはたくさんあったので、まずそのなかから三船くんに10曲くらい送ったら、嬉しいことに、全部に一言ずつコメントを返してくれて。例えば、“Game Over”だったら、自分の作家としての癖で、ネガティヴな経験があっても、最終的にポジティヴに持っていきたい気持ちがあるから、どうしても作品の最後にポジティヴを入れちゃうんですよ。でも、三船くんに〈ネガティヴで行っちゃえば?〉って言われて、だから最後が〈もうダメだ/I’m tired/疲れた〉で終わってる(笑)」

――三船さんとしては、佐々木さんのどんな部分を引き出したいと考えましたか?

三船「端的に言っちゃうと、〈a flood of circleの佐々木くんから革ジャンを脱がしてみたい〉っていう」

佐々木「なるほど(笑)。すげえわかりやすいコンセプト!」

三船「あとはホントに新しいデモが毎日のように出来てたから、それを受け入れられるように、なるべく固めず、締めるところだけグッと締めようと思っていました」

佐々木「優しいプロデューサーですね(笑)。最初に三船くんに言われて覚えてるのが、〈いま佐々木くんの頭のなかでビッグバンが起きてるから、まだまとめなくていい〉って。そんな言葉で言われたのは初めて(笑)。そういうコントロールは、自分もアーティストだからわかるのかなって」

 

ラップとブルースを日本人目線で勝手に繋ぐ

――具体的な曲で言うと、どの曲から作っていったのでしょうか?

佐々木「“Game Over”と“Snowy Snowy Day, YA!”は最初に送った10曲のデモにあって、いちばん古いのが“Snowy Snowy Day, YA!”。この曲は自分のなかにテーマがあったんです。シカゴに惹かれたポイントとして、いまの音楽がおもしろいのもあるんですけど、昔のブルースの街でもあり、すべての中間にはウィルコがいるなと思って。ウィルコはソウルやブルースの人たちとも繋がりがあって、ポップス・ステイプルズ※が亡くなったあとに、最後の録音をジェフ・トゥイーディーが預かって、自分でベースとドラムを入れてリリースしたアルバムがあるんですよ。それをメンフィスで聴いてあらためて感動して、ちょうど同じころに(ポップスの娘である)メイヴィス・ステイプルズがゴリラズのアルバムに参加もしてたから、いまも生きてる音楽なんだなと思って」

※1940年代より活動してきたゴスペル/R&Bシンガー、2000年没
ジェフ・トゥイーディーによって完成されたポップス・ステイプルスの2015年作『Don’t Lose This』収録曲“Somebody Was Watching”
 

――そうやって、ウィルコの存在があらためてクローズアップされてきたと。

佐々木「で、ラッパーのヴィック・メンサがティーンエイジャーのときにやってたキッズ・ジーズ・デイズってバンドのプロデュースもジェフがやってて、つまりは、いまのラッパーの文化とブルースの文化を繋いでるんだなって。ウィルコは基本的にはロックのバンドで、いまインディー・ロック自体はきついけど、Netflixで『Beats』(2019年)っていうラッパーのドラマを観たら、最初にちょこっとウィルコのジャケが出てきて、〈やっぱり尊敬されてるじゃん〉と思った。三船くんのスタジオでも、やっぱりウィルコのジャケが飾ってあって(笑)」

――素晴らしいリンクですね(笑)。

佐々木「ただ、実際ラップとブルースをどっちも聴いてるアメリカのティーンエイジャーはいないんですよ。だったら、俺が日本人目線でそこを勝手に接続させたらおもしろいんじゃないかなって。なので、“Snowy Snowy Day, YA!”はいかにも00年代前半のインディー・ロックっぽい曲で、でもシンベだしドラムは打ち込みだし、普通のロック・バンドはこうはやらない。そのうえで、三連のいまっぽいラップのフロウが入ってたり、コーラスの重ね方はゴスペルっぽかったり、自分なりのブレンドができたかなって」

三船「この曲は佐々木くんのギターがいちばん嬉しそうだし、彼の得意技が出せる曲があると楽しいなと思っていました。途中ちょっとアレンジで悩んだんですけど、〈Snowy〉が〈タンタン〉ってアニメーションに出てくる犬の名前だって聞いて、すべてが繋がったんです。タンタンと一緒に冒険して、疾走してる曲っていうヴィジュアル・イメージがパッと開いて、オルガンをオーヴァーダビングしてエコーの処理をして。おもしろいのが、佐々木くんのデモって全部ヴィジュアル・イメージがついてるんですよ」

佐々木「すべてのデモにジャケットを作ってるんです(笑)」

三船「なので、再生するとちゃんとジャケットが表示されて、この曲はそれが〈タンタン〉だったんです。〈それだわ!〉と思って、そこからは早かったですね」

――基本的にトラックはGarageBandで作られていて、ギターをはじめ、ところどころで生楽器も使うというバランス自体は『大脱走E.P.』のときと変わりないですか?

佐々木「そうですね。〈もしドレイクだったら、ガレバンひとつで超すごい曲作るだろう〉というのがテーマなので。三船くんは真逆で、めちゃめちゃ機材を持ってるから、そういう人にも憧れるんですけど、俺はいまはGarageBandでやれることをやろうと思ってます。スティーヴ・レイシー、アンダーソン・パーク、みんなガレバンでやってるらしいので俺もそのスタイルで、というのは変わってないですね」

スティーヴ・レイシーの2019年作『Apollo XXI』収録曲“N Side”

 

海外からフッと東京に戻ってきたときの感覚を映した音

――最初のデモにあったもう一曲、“Game Over”はどのように作ったのでしょうか?

佐々木「ちょうどこれを作った頃にJ・ディラの本『J・ディラと《ドーナツ》のビート革命』が出て、ディラのサンプリングの仕方を、アナログ・レコードじゃなくて、ガレバンのサンプル音源でやろうと思ったんです。それをさらにアレンジしてもらって」

三船「佐々木くんが作るトラックはクォリティーが高いから、すべてこっちでコントロールする必要はなくて、彼のヴィジョンがはっきりとあるなか、自分もアレンジを乗せられるんで、やりやすいです。この曲は最初ベースがなかったんですけど、いちばん低いサブベースの音でロウ感を足して、上から下まで幅広い帯域が鳴っているように落とし込むと、佐々木くんが持ってるポジティヴな絶望感がさらに遠くに届くんじゃないかなって」

――ポジティヴな絶望感(笑)。

三船「意外とシリアスじゃないっていうのがポイントで」

佐々木「〈食らってる波動拳/Likeピヨピヨ〉とか言ってるしね(笑)」

三船「立膝でうずくまって歌ったようなテイクがほしくて、あんまりきれい目に歌わないでって、マイク近めで歌ってもらって。ヘッドフォンで聴いたリスナーの人が、佐々木くんの声が近くで鳴ってるように感じてほしかったんです」

――東京編の一曲目になっている“Sofa Party”に関してはどうでしょうか?

佐々木「さっきの2曲はシカゴに行く前からあったデモだったんですけど、シカゴ後のことをやりたいと思ったときに、ピアノの弾き語りから始まる曲があってもいいかなって。あと、CDに関しては日本でのリリースなので、シカゴのおもしろさを紹介したくて、シカゴの街の音を入れようと思った。そこでずっと回してたビデオの音源を抜いて入れることを提案したら、ピアノの音をカセットに落とすことでちょっと荒くして、それを街の音と混ぜるっていうニクい演出をしてくれて。これが出来たことで、アルバムのストーリーに整合性が出たなって」

――シカゴから東京に帰ってきて、革ジャンを脱いで、ソファーに横たわるような。

三船「夕方5時くらいにスーパーのビニール袋を持って、商店街を歩いてるような絵がすげえ浮かぶんですよね(笑)。成田空港に降りたときの帰ってきた感にも近くて、あっという間に馴染んでしまう感じとか、すげえよく出てるなって。でも、複数人で同じ空間を共有してる感じを持ったトラックだとも思ったから、手拍子を入れたり、合ってるか合ってないかわかんないようなラフなコーラスをわざとバラバラッと入れたり。オープニングはシカゴの街の雑踏のなかにいるんだけど、フッと東京に戻ってくる感じにできたらおもしろいかなって」

 

俺たちがいちばん自由な音楽家だと思えた

――そして、ラストを飾るのが“We Alright”で、ロットを彷彿とさせるビッグなコーラスも入っていますね。

佐々木「もともとヴォーカリストだから当たり前なんですけど、三船くんが何気ないチェックで歌った声がめちゃくちゃよくて、ハーモニーを思いついたらすぐ鼻歌で歌ってるから、〈それいいじゃん!〉みたいなことが多くて。〈歌っちゃう〉っていうのは、三船くんならではのプロデュースだなって(笑)」

『RAINBOY PIZZA』収録曲“We Alright”
 

――アルバム全体通じてコーラスは多用されていますが、この曲のハーモニーは特に印象的です。

佐々木「ボン・イヴェールとかフランシス・アンド・ザ・ライツとか、ゴスペル・グループを1人でやるような音楽に対して、2人ともヴォーカリストだから声の倍音もおもしろいだろうし、2人しかいないのにビッグ・コーラスっていう。それはやってみたいことでした」

三船「あえて佐々木くんの声にオートチューンをかけて、ちょっと無機質なパートがあったり、逆に生々しいところがあったり、ハイブリッドを目指しつつ、佐々木くんが作ったトラックが壮大ですでに声を飛び立たせてくれてたので、〈さらに高く〉という」

佐々木「シンセも入れてくれて、俺は音源ソフト使ってるから、〈アナログ・シンセってこんないい音なんだ〉とかもあって、(三船くんの)BEAR BASE STUDIOならではのアレンジになってると思います」

三船「レイヤーをどんどん重ねて、同じフレーズでも、デジタルとアナログを重ねることで質感を足し、丁寧に織り込んだことで、分厚いトラックになりました。佐々木くんが作るシンセの音もいいから、それを生かしつつ、ちょっとエフェクトをかけたり」

佐々木「この曲は自分史的に代表曲ができたんじゃないかと思っていて。これでホントの聖歌隊を呼んだらマネになっちゃうし、1人でやる人はやってるし、そのどれとも違う分厚いコーラスの聴かせ方ができて、そこは大事だったかな。〈俺たちなりのやり方でやる〉という。それこそ〈謎〉というか、〈何このコーラスの作り方?〉って感じだと思うので」

――〈迷ってもいいよ/きっと最後の答えは「やるしかないっしょ」〉や〈新しい季節の風が吹いているよ〉といった歌詞が印象的で、〈これが俺たちなりのやり方だ〉というステートメントが音からも言葉からも伝わってくる。そういう曲がラストに収められているというところに、非常にグッときました。

三船「佐々木くんは常に何かを超えようとしてる人だから、バンドマンよりも、もしかしたらいまのヒップホップの人たちよりも、フレキシブルなことができたと思ってて。〈俺たちいちばん自由じゃね?〉みたいな会話がやりながらポロっと出ることもあった。いい瞬間がいっぱいあったし、あんまり経験したことないことがたくさん起きたレコーディングでしたね」

 

ロックンロールを好きな人間がやっている、いまのポップ・ミュージック

――残った時間でアルバム前半のシカゴで録音した4曲についてもお伺いできればと思うのですが、シカゴ編のほうがトラップの色が強い楽曲が並んでいる印象です。

佐々木「トラップへの関心はあるうえで、〈バンドマンがなんちゃってでラップやってる〉って思われるのがいちばん嫌だなとも思ったんです。なので、トラックメイクしてもらってラップするんじゃなくて、歌とどう絡むかをトラックメイクの段階から考えてることが大事だと思って。自分はバンドマンで、ロックンロールが好きな人間だという、このアイデンティティーをかき消すつもりはないから、〈そういう奴がやってるいまのポップ・ミュージック〉というところまでたどり着きたいなって」

――現行のラップ・シーン自体、もはやラップというより歌に寄っているので、そこに関しては自然にできた部分も大きかったかもしれないですね。

佐々木「ポスト・マローンの新曲もラップしてないし、フューチャーのアルバムも歌ってるだけだし、これ作ってるときタイラー・ザ・クリエイターのアルバムが出て、ぜんぜんラップしてなかったし、おもしろい人たちがそっちに行ってるってのは感じてたので、追いかけるわけじゃないけど、俺たちなりのやり方でそこに行きたかったっていうのはあるかな」

タイラー・ザ・クリエイターの2019年作『IGOR』収録曲“EARFQUAKE”
 

――そこはロック・バンドでずっとヴォーカル/ギターをやってきた佐々木さんだからこそできる部分でもありますよね。

佐々木「だから、実はギターは全曲入ってて、そこもひとつのアイデンティティーかなって。こういう音楽からギターはどんどん消えてると思うけど、こういうトラックのなかでもアリなギターを探そうというのは裏テーマでした。トラップのビートをいっぱい聴いたり作ったりしてると、(ドラムマシンのTR-)808っぽい音とかガレバンに入ってるドラムの音と相性がいいギターの音がなんとなくわかってくるんです。

生のアンプを鳴らしてるだけだと、クラシックないい音を目指しちゃうけど、デスクトップ上のギターのいい音の正解って、アンプ的なギターの音の正解とは違うんですよね。シカゴで録った“Fireworks”は真ん中にギター・ソロが入ってて、フィーチャリングで参加してくれたカイナが〈これ自分で弾いてるの? めちゃめちゃいいね〉って言ってくれて。ラップやトラックのカルチャーのなかにいる人たちが聴いてもかっこいいギターというのは意識しました」

『RAINBOW PIZZA』収録曲“Fireworks”
 

三船「いまのアーティストはいわゆるロック・ヒストリーの黄金比みたいなのをぜんぜん無視して、現行品を使っておもしろい音を出すよね。いままでいいとされていたところじゃないところから新しいものが出てくるっていうのは、すごく楽しいです」

 

〈もっとよくなる〉ための労力を惜しむ気はない

――“Sofa Party”では〈シカゴの空も/東京の空も/メンフィスの空も/ロンドンの空も/同じなんて信じられない/けど世界は広いって感じてたい〉と歌っていて、〈手放せないのは場所じゃないのさ〉というパンチラインもあるように、『RAINBOW PIZZA』という作品であり、今日のおふたりの対話からは、国境やジャンルを超えて、いまの時代を自由に楽しむ空気が伝わってきます。その裏側には、ポジティヴな絶望もあるのかもしれないけど。

佐々木「ビートルズやデヴィッド・ボウイが好きな自分にとって、あの頃のロックと比べて、いまの〈ロック・フェス〉の〈ロック〉はすごく狭く感じてて、シカゴに行ったのは、チャンスの言うラップにかつてのロックを感じたのもあるし、〈まだあるでしょ? もっとおもしろいことできるでしょ?〉みたいな気分だったっていうか。バンドだけでやってると、どうしてもネガティヴになりやすいんですよ。マジでニッチになりかけてて、歌舞伎とか茶道とか、〈尊敬すべきカルチャーだけど、ティーンエイジャーは喜ばない〉みたいなものになっちゃうんじゃないかって」

三船「わかる。去年『HEX』を出したときもよくそういう話をしたんだけど、ロックって何かをブレイクスルーするために起きたムーヴメントのひとつだったのに、いつの間にか作り上げられたロックの形を守ろうとしちゃってて、本質を見失って、張りぼて化しちゃっている。なので、それを一回土に返そうって気持ちで『HEX』を作ったから、その感覚はすごく近いよね」

佐々木「めっちゃわかるわ。自分はロック・バンドの人間だと思ってるし、そこを切り捨てたくはないから、そこを自分でおもしろく感じたいし、おもしろくしたいんですよ」

三船「佐々木くんがポロッと〈フラッドのお客さんも若干意識してる〉と言ってて、でも〈あえてぶっちぎってもいいじゃん?〉と思った。そのほうが、新しい扉を開けるものになるんじゃないかなって。これがフラッドのメンバーにも影響を与えると楽しいし、届くといいなってドキドキしてます」

佐々木「基本的に、世の中は後ろには戻れない仕組みだから、先に進むしかない。なので、いままでやってきたことを見つめて、いいところはいいと言い、でももっとよくできるかもってポイントは、時間をかけてよくしていくのが大事だと思っていて。ロックをやる、ラップをする、批評をする、僕のなかでは全部一緒で、〈もっとよくなるかも〉に全部を賭けたいし、そのための労力を惜しむ気はない。

今回エルトンや三船くんとやったなかで、恥をかく瞬間もあったと思うけど、恥と失敗がないと先に進めないのはもう知ってるし、誤解は恐れたくないし。結果的にどういう角度で聴かれてもオッケーだと思える作品を一緒に作れたことは、めちゃめちゃ誇りに思ってます。もの作りをしてて、先に進もうと思ってる人がいたら、何か感じてもらえると思うし、自分ももっと先に進みたいなって」

三船「うん、ブレイクスルーな作品になったと思いますよ」

佐々木「毎日曲作ってるのは、降ってくるわけじゃなくて、昨日よりちょっとでもいいものができるんじゃないかと思って作ってるうちに、ホントにいいものが出てくる気がして……続けるのいいっすよ(笑)。アルバム2枚で燃え尽きるタイプのバンドも好きだけど、俺はあきらめが悪い男でいたいというか。この前うちのディレクターの小学生の息子が、アルバムに入ってる“Bi-polar Tokyo”というテンポ70くらいのトラップの曲でちゃんと倍で踊ってて、〈日本もちゃんと進んでんじゃん〉と思ったんですよ。だから、希望は持ってるんです」

 


■佐々木亮介

LIVE INFORMATION
RAINBOW PIZZA Delivery Tour 2019
2019年9月1日(日)京都 紫明会館
2019年9月6日(金)北海道・札幌 KLUB COUNTER ACTION
2019年9月12日(木)愛知・名古屋 Vio
2019年9月13日(金)大阪・梅田 Shangri-La
2019年9月24日(火)宮城・仙台 STAR DUST
2019年9月27日(金)長野 Live House J
2019年10月2日(水)東京・渋谷 WWW
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■ROTH BART BARON

LIVE INFORMATION

ROTH BART BARON Tour 2019
2019年8月21日(水)東京・渋谷 WWW X
2019年8月23日(金)愛知・名古屋 APOLLO BASE
2019年8月25日(日)大阪・心斎橋 CONPASS
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RELEASE INFORMATION

7インチ&配信シングル“Skiffle Song”

ROTH BART BARON 『Skiffle Song』 felicity(2019)

リリース日:2019年8月21日(水)
品番:PEKF-1176 felicity cap-313
定価:1,700円(税別)
24bit/96KHz WAVデータのDLコード付き

TRACKLIST
Side A: Skiffle Song
Side B: GREAT ESCAPE -Okada Takuro mix-