宇宙空間のサウンドトラック、そのアトモスフィア
1978年、スタンリー・キューブリックの「2001年宇宙の旅」が公開から10年をへて、再びロードショー公開された。折しもSF映画ブームの真っ只中で、そして、その映画は、人類が月への第一歩を踏み出そうとしていた時期に公開されたものだった。10歳の小学生にとって「2001年」は、とても難解ではあったけれど、プログラムの文章を読み、解ったつもりになってみせるくらいには生意気な子どもであった。小学生にとっての見所は宇宙ステーションやスペースプレーン、月面基地、などではあったが、ヨハン・シュトラウスやリゲティの音楽を使用した宇宙空間の演出は強く印象に残った。しかし、後半、ディスカバリー号が木星に向かうシーンから、映画は突然静まり返る。宇宙空間では音は聴こえないのだった。
『アポロ』は、1983年にブライアン・イーノがダニエル・ラノアとロジャー・イーノとともに、ドキュメンタリー映画『宇宙へのフロンティア(原題:FOR ALL MANKIND)』のサウンドトラックとして制作したものだ。それはイーノがアンビエントのシリーズから、表現手段をヴィデオ・インスタレーションに移行していく時期にあたる。副題は「Atmospheres & Soundtracks」とある。よりアブストラクトだが、同時にきわめて映像的である(KLFの『Chill Out』と『アポロ』の関係性を考えたくなってくる)12曲のサウンドトラック。50年前にアポロ11号が月面に着陸したのをテレビで見ていたイーノは、人類の新たなフロンティアを伝える、というよりはあまりにテレビショー然としたその中継番組に違和感をおぼえたという。そして、イーノはこの映画のために、音のない宇宙空間のためのアトモスフィアを作り出した。
共作者の二人の存在は、この作品に欠かせない重要なものである。リリースから36年をへて、アポロ11号の月面着50周年を記念して、新たに録音されたボーナスディスクから、ふたたびあの三人が生み出すアトモスフィアが立ち現れる。