天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。先週のダニエル・ジョンストンに続いて、またも訃報が……。カーズのリーダーとして知られるリック・オケイセックが9月15日に心臓病で亡くなりました」

田中亮太「田中の世代にとってはプロデューサーとしての仕事が身近でした。ウィ―ザーやガイデッド・バイ・ヴォイシズ、ワナダイダズ……パワー・ポップなんたるやを教えてくれた存在だと思います。彼の功績について書かれたものでは、Rolling Stone Japanに掲載されているクロスビート元編集長の荒野政寿さんが寄稿した追悼コラムが決定版なので、そちらをぜひ読んでください!」

天野「僕の周りでは、スーサイドのセカンド・アルバム『Suicide: Alan Vega And Martin Rev』(80年)での仕事を讃えている人が多くて、〈なるほど!〉って思っていました。重要作ですね。あと、先週末には英マーキュリー・プライズ授賞式が開催され、弱冠21歳のラッパー、デイヴのデビュー・アルバム『Psychodrama』が受賞。〈そうなんだ!〉とびっくり。それより、ボリス・ジョンソン首相の生首オブジェを持って登場したスロウタイのパフォーマンスが話題になった感じもありますが……(笑)」

田中「あれは最高でしたね。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

 

1. Brittany Howard “13th Century Metal ”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉は、アラバマ・シェイクスのフロントウーマンとしておなじみ、ブリタニー・ハワードの“13th Century Metal”! 先週末にリリースされたソロ・アルバム『Jaime』からのシングルです」

田中「アルバムでは、キーボードにロバート・グラスパー、ドラムスにネイト・スミスと、現代ジャズの錚々たるプレイヤーたちがパーソネルとして並んでいて、この曲もまず演奏に度肝を抜かれますよ。独特のつんのめった感じで弾かれるシンセと、超パワフルな人力ブレイクビーツ・ドラムがめちゃくちゃかっこいいです!」

天野「スポークン・ワードというか、教会の説教や演説にも似たハワードの歌にもしびれますよね。〈私は話す前にまず考える〉という誓いの言葉に始まり、友愛や慈しみの大切さを説きながら、〈何度も繰り返して伝えよう/私たちは兄弟であり姉妹〉と叫ぶ。こんなに力強い歌い手というか、表現者はいま他にいないんじゃないか、とすら感じました」

田中「この曲が出来た背景には、トランプ大統領の誕生と彼の排外主義的な政策、さらにプリンスの逝去などがあったそうです。ちなみにアルバム・タイトルの〈Jaime〉とは、13歳という若さで病気により亡くなったハワードの実姉だとか。『Jaime』という作品全体を覆っているムードの柔和さには、そんな亡き人に向けた優しい眼差しが関係しているのかもしれませんね」

 

2. Tee Grizzley “Satish”

天野「2位はティー・グリズリーの“Satish”。米ミシガン州デトロイトのラッパーで、注目の若手と言っていいと思います」

田中「僕はノーマークでしたが、話題のラッパーのようですね。ファースト・シングル“First Day Out”(2016年)のヒット以来快進撃を続け、デビュー・アルバム『Activated』(2018年)、そして2019年7月の新作『Scriptures』はいずれも高評価。2018年には他にもミックステープ『Still My Moment』も発表していたり、多作ですな」

天野「彼は刑務所に出たり入ったりを繰り返してきた札付きのワルらしくて。お母さんがドラッグ・ディーリングで捕まったり、お父さんが殺されたりと、デトロイトのストリートで超ハード・ライフを送ってきています。ワルさを盛るために経歴詐称したりするラッパーもいるなか、グリズリーはその人生経験に裏打ちされたリアリストというか。3年近い刑期を終えて発表した“First Day Out”も、ひたすらライムを続けるストイックな曲ですね」

田中「なるほど……。この新曲は、8月にグリズリーが銃撃に遭い、彼の叔母にしてマネージャーのジョビナ・ブラウンが殺されたことを受けてのもの。〈ふざけるな、俺のものを奪うなら、俺はお前のものを奪うぞ、ホーミー/それから神に《そんなひどいことをしないでくれ》と祈るんだな〉というサビの詞が強烈です。太いベースと繊細なメロディーを奏でるピアノも印象的ですね」

 

3. Rex Orange County “10/10”

天野「3位はレックス・オレンジ・カウンティのニュー・シングル“10/10”! 彼について知りたい方は〈レックス・オレンジ・カウンティを知るための5項目〉という記事をご覧いただくとして……。亮太さん、あなたの大好きなレックスですよ!!」

田中「ああ、〈レックス〉って誰かと思ったら、2019年最高のポップ・マエストロであるミカンくんのことですね。これもすごくいい曲だと思いますよ! この間、TBSラジオで高橋芳明さんがかけていて、ぐっときました。日本でもブレイクしちゃうんだろうな~」

天野「レックスのことを〈ミカンくん〉なんて呼んでるの、亮太さんだけですよ……。それはさておき、2月の“New House”以来となる新曲です。僕はパーソナルな肌触りのこの曲のほうが断然好き! “New House”はオーケストラルでドラマティックなポップスでしたが、今回はエレクトロニックなビートで、ベッドルーム・ポップ感があります。ちょっとポスト・マローン&スワエ・リーの“Sunflower”みたい」

田中「ロボっぽいヴォーカルの変調やギターの音色もいいですよね。歌詞は〈僕、いまは5点だけど/たぶん10点満点になれるさ〉〈スーパーヒーローになったんだ/ブルース・ウェインにだってなれる〉など、自分自身を勇気づけるもの。なんだかかわいらしいし、もうおじさん世代の自分も〈いつかきっとなれる!〉と元気をもらいました。そして、超待望のニュー・アルバムにしてメジャー・デビュー作『Pony』は10月25日(金)にリリース。ジャケ写がまた最高! こちらのオフィシャルサイトで、ぜひ見てみてください。日本にもまた来てくれないかな~」

 

4. Gang Starr feat. J. Cole “Family And Loyalty”

田中「4位はギャング・スターの“Family And Loyalty”。ラッパーのグールーとDJプレミアによる伝説的なラップ・グループで、“Mass Appeal”や“Work”など、数々のクラシックを残しましたが、惜しくも95年に解散。2010年にグールーが逝去したこともあり、永久に復活することはないと思われていたんですが、なんと16年ぶりの新曲を発表です!  グールーの未発表ヴォーカルが使われており、客演にはいまをときめくJ・コールが参加!! メランコリックな鍵盤をサンプリングしたプレミアらしいトラックにも爆上がりしますね~……。あれ? 天野くんはずいぶんと冷めた面持ちですけど?」

天野「いや、もちろんギャング・スターは大好きで、超偉大です。10代の頃、めちゃくちゃ聴いていましたし、全アルバムがクラシックだと思っています。プリモのビートはもちろん、グールーのラップも好き。でも正直に言うと、いまさらギャング・スターか~、みたいな気持ちもあって。複雑な感じです(笑)」

田中「なるほどー。まあ、その気持ちもわかりますけどね。音楽的に新しいところがあるかと訊かれたら、返答に困る曲でもあるし。安定のプレミア節というか。とはいえ、グールーとJ・コールがそれぞれ畳みかけるかのようにラップを披露するマイク・リレーは、やっぱり体温が上がっちゃいますが」

天野「〈リアル・ラップ・ソングズ〉を挙げるグールーのリリックもアツい……。でも僕は、良くも悪くもリヴァイヴァルな印象を受けちゃいました。ギャング・スターはアルバムのリリースも予定しているとか。なんだかんだ言いながらも、結構楽しみですね(笑)」

 

5. SATURDAY (세러데이) “뿅 (BByong)”

天野「5位はK-Popグループ、SATURDAYの“BByong”。2018年にデビューし、〈ムッチッパッ!〉というフレーズも話題となった“MMook JJi BBa”や“WiFi”などの曲をヒットさせました。彼女たちの曲は、TikTokでも人気なんだとか」

田中「メンバーの脱退などがありつつ、現在はハヌル、ジュヨン、ユキ、アヨン、ミンソの5人組。当初は元気いっぱいなキュートさを打ち出したグループだったようですが、今回はどうやらBLACKPINKのようなセクシーかっこいい路線に舵を切ったようです」

天野「そうなんですよね。新曲“BByong”には、これまでとはちがうクールな感じがあって、力強いサウンドです。サックスのフレーズがまたいいんですよね。〈中毒性が高い〉というのは彼女たちの曲によく言われていたことですが、路線変更後もその感じは健在です」

田中「英語で歌われるイントロからして、〈私の心を盗んで/さあ、いますぐに〉と煽情的。これまでの曲とはだいぶちがうようですね。後半、ビートがトラップになって、ハヌルがラップをするパートも。このハイブリッド感はまさにK-Popって感じですね。でも、まだセクシーさやかっこよさが微妙に板についていないというか、サイズの合っていない服を着ている感じがあって、そこもまたチャーミング」