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サイモン・ジェフスと2人の思い出

――では、アルバムのテーマを教えてください。

「まず“Winter Sun”と“Midnight Sun”が出来上がったんです。それから、その2曲に挿まれる形で、ほかの楽曲も出来上がり、アルバムになった。僕のなかで、対比した2つの世界を描くというイメージがあったんでしょうね。考えてみると、地球には南半球と北半球があり、こっちが夏になったらあっちは冬になっていて。僕らが冬を過ごしているとき、南極のほうでは太陽がずっと沈まない季節だったりしますよね」

『Handfuls Of Night』収録曲“Winter Sun”

――東洋の禅の考えにも似ていますね。陰と陽、喜びの裏側に悲しみがあって、悲しみの裏側に喜びがある、そういうイメージが今度の作品にはあると思います。

「言われてみると確かにそうですね。おもしろいです」

――今日、あまりお父さんのことは話さないようにと思っていたんですけど……(笑)。サイモンさんがペンギン・カフェ・オーケストラを結成する前に京都に旅行に行かれていて、日本の〈侘び寂び〉に影響を受けてバンドを結成したという話があります。ペンギン・カフェのこのストーリーが、僕はとても好きなんですが。

「父のいいところは、内面で非常にバランスのとれている人だったんです。2面性を上手に内包していました。いつもシリアスなわけじゃないけれど、何をしていても必ず芯の部分では真剣に物事を考えていましたね」

――彼の生前に3度ライヴを観ているんです。いちばんはじめは35年前。

「ガッデム(笑)」

――(笑)渋谷のLa.mamaというライヴハウスでおひとりで演奏してました。人形師の辻村ジューザブローさんも一緒でした(サイモン・ジェフスは人形芝居『高野聖』の音楽を担当)。

「今回僕らを呼んでくれたSMASHのいちばん偉い人は、父の来日公演を主催していたらしいんですよ。今回は息子が来たってね(笑)」

 

ローファイなんだけど、いろいろな冒険をしている

――“Adelie”という楽曲が気に入っています。いわゆるドローン・ミュージックなのに、音楽的に何も起きていないのでは決してなくて、曲が進むなかでいろんなことが起きている気がしました。

「この曲はファースト・テイクを使っているんです。ピアノとベース、パーカッションで同じ部屋に集まって録った。あとからハルモニウムなどを足してはいるんですけど、最初の演奏ならではの〈手探りながらも楽しい〉みたいな雰囲気がサウンドにも出ているのかもしれませんね」

『Handfuls Of Night』収録曲“Adelie”

――ペンギン・カフェ・オーケストラの『Broadcasting From Home』(84年)に収録されていた“Air”にすごく近い印象でした。

「ローファイなんだけど、いろいろな冒険をしているって感じですね。僕はその比較、とてもいいと思います」

――使用している楽器についても教えてください。ピアノはブリュートナーを使っているんでしょうか?

「最近は新しいアップライト・ピアノを使っています。フェルトを使ってカスタマイズし、ソフトな音を出せるようにしているんですよ。ブリュートナーはスタジオに2つ置いています。ひとつは大きなグランド・ピアノ」

――羨ましいです。日本にはないので、使ってみたいんですよね。ビートルズの“Let It Be”などでも使用されていますね。

「そうそう。アビィ・ロード(・スタジオ)にもあるんですよね」

 

これからのペンギン・カフェ

――アーサーさんはバロック時代の楽器の響きを研究していますよね?

「今回、ヴァイオリンを弾いているヴィンセント(・グリーン)は自分で楽器を作れるんですよ。チェロもヴィオラもヴァイオリンも古いものをもらって、自分で改修しているんですよね」

――ヴァイオリンも普通の弦ではなく、ガット弦をあえて使っているのが興味深かったです。

「そっちのほうが歌っているように響くんですよね。ガット弦のほうが余韻深い気がしています」

――僕もよくそうしています。チューニングは難しいけど、味わいが深い。

「そうなんです。きちんとチューニングすると狂わないんだよね」

――ルネッサンス期の作曲家が好きというのは存じているんですけど、イングランドの作曲家、ジョン・ダウランドはお聴きになりますか?

「いや、知らないですね。いつの作曲家ですか?」

――はるか昔、17世紀の音楽家で〈涙のパヴァーヌ〉という曲があるんですけど、あなたの作る音楽にすごく近いものを感じています。ところで、お母さんの影響から絵画や芸術方面への興味はありますか?

「不思議なことに、母が絵を描くにもかかわらず、僕はそんなにヴィジュアルのほうに関心がいかなかったんですよ。母がフィレンッエにいるから、興味を持とうとはしているんだけど、なかなか自分では描こうとは思わないんだよね」

――最後の質問です。ペンギン・カフェのプロジェクトはどのようにこれから進めていきますか?

「今回もうアルバムが4作目になり、いまのところ2~3年に1枚のペースでやっているんですけど、個人的にはもっと頻繁に出していきたいと思っているんです。でも、ツアーもやっていますしね。あと最近、子供も出来たし子育てに忙しいってこともある。バンドの編成としてはいま7人で回っているんですけど、そのあたりは臨機応変に変えつつ、だけど核は変えずに続けていければいいなと思っています」

――長く続けてほしいです。今日は会えてうれしかったです。