天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。この一週間の話題といえば、そう、マイ・ケミカル・ロマンスの再結成ですよね!」

田中亮太「天野くんってそんなにマイケミのファンでしたっけ……? あっ、世代的に直撃なんですね」

天野「『The Black Parade』(2006年)がリリースされたのは高校2年生のときです。ロック・メディアが大絶賛していて、話題になっていました。でも、当時は古いロックばっかり聴いていたので、〈こんなポップで感傷的なエモなんて聴いてられっか! けっ!!〉と思っていました(笑)。いま聴くと、〈やんちゃでいいなあ〉としみじみ思うんですけど。そんな思い出話はともかく、マイケミは〈DOWNLOAD FESTIVAL JAPAN 2020〉への出演が決定! 日本のファンも盛り上がっています。再結成といえば、もう一組話題のバンドがいますよね」

田中「レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンですね。8年ぶりに復活し、2020年春にライヴを行うとのこと。なんだか再結成ブームなのでしょうか? それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

 

1. Dua Lipa “Don't Start Now”
Song Of The Week

田中「〈SOTW〉は、デュア・リパの新曲“Don't Start Now”! 彼女はアルバニア系のイギリス人シンガー・ソングライターで、2017年のファースト・アルバム『Dua Lipa』で大ブレイクを果たしました。〈別れた恋人とはちゃんと関係を終わらせなきゃ〉と歌った“New Rules”や、未練がましい元カレに〈もう構わないで〉と告げる“IDGAF”など、女性をエンパワーする曲が多いんですよね」

天野「〈#MeToo〉など、新しいフェミニズムの流れもあり、彼女の歌は〈時代の声〉になったわけですよね。音楽的には、USのメインストリームとはまた異なる、UKならではのアーバンなサウンドも魅力的。この曲は、ベースラインが印象的なディスコ~ハウス風のフロア・バンガーです。ちょっとEDMっぽいブレイクやドロップがあるところもいいですね!」

田中「ファースト・アルバムのリリース後にカルヴィン・ハリスとコラボレーションした“One Kiss”(2018年)からの流れを感じました。“Don't Start Now”は、ベースのブリっとした音が強調されていて、よりグルーヴィー。アタックの効いた音作りは、少し初期のジャスティスっぽいなと思いました」

天野新曲“In My Room”を発表したフランク・オーシャンもジャスティスとコラボしていましたし、2000年代後半のフレンチ・エレクトロが再注目されつつある気運を最近感じています。ちなみにこの曲の歌詞は、昔のボーイフレンドに〈NO!〉を伝えるもの。〈どっか行って〉〈私のことなんて気にかけないで〉〈『さよなら』って言って私を傷つけたでしょ?〉などなど、なかなか厳しい内容……。パワフルな太い歌声も含めて、やっぱりデュア・リパ節。来年リリース予定の新作にも期待が高まります!」

 

2. HAIM “Now I'm In It”

天野「2位はハイムのニュー・シングル“Now I'm In It”。いきなり関係ない話なんですけど、ハイムはいまだに〈カリフォルニアの美人3姉妹〉と紹介されることもあって、毎回〈う~ん……〉と思ってしまいます(笑)。〈美醜なんて相対的なものだよ!〉って言いたくなります」

田中「見た目うんぬんより、音楽が魅力的かどうかが大事! その点、ハイムは最高です。7月のシングル“Summer Girl”もすばらしかったんですが、今回も本当にいい曲」

天野「“Summer Girl”、僕たち〈PSN〉が選ぶ2019年ベスト・ソングの筆頭候補ですね。生音志向だった“Summer Girl”と対照的に、この“Now I'm In It”はエレクトロニックな意匠のダンス・ポップ。ピアノやシンセサイザーを弾いているのは、元ヴァンパイア・ウィークエンドのロスタムです。彼はプロダクションに関わっていて、この曲にかなり貢献しているようですね。ピアノのフレーズやコンガが入ってくる後半の展開から、ハウス・ミュージックに感化された『Screamadelica』(91年)の頃のプライマル・スクリームを思い出しました。それにしても、いまのハイムは何をやってもかっこよくって、無敵感があります」

田中「そうですね。〈私たちは友だちにはなれない/そんなふりもできない〉と歌われる歌詞は、別れについてのもの。ポール・トーマス・アンダーソンが監督したミュージック・ビデオも必見です! ロスタムとPTAは“Summer Girl”にも関わっているので、来たるハイムのサード・アルバムにおける重要人物って感じがします」

 

3. Tame Impala “It Might Be Time”


天野「3位はオーストラリアを代表するサイケデリック・ロック・バンド、テーム・インパラの“It Might Be Time”。エレクトリック・ピアノのリフレインが印象的な曲ですね。テーム・インパラといえば、〈PSN〉では3月に“Patience”という曲をご紹介しました

田中「“Patience”がディスコ/ハウス調のダンス・チューンだったのに対し、この“It Might Be Time”ではソウル/ファンクに取り組んだ印象。随所で挿入される〈キューン〉というシンセサイザーの音色なんかは、ブラックスプロイテーション映画のサウンドトラックみたい」

天野「僕はあんまりソウルっぽいとは感じなくて、むしろ傑作『Lonerism』(2012年)の頃に立ち戻ったかのような、宅録サイケなサウンドだと思いました。音の質感はザラッとしているんですけど、洗練された『Currents』(2015年)を経たからか、宅録っぽく小さくまとまってはいないのがおもしろいですね。ドラムの鳴りはパワフルで、歪んでうねるギターの音も強烈です」

田中「デイヴ・フリッドマンが関わっていた時代のフレーミング・リップスを彷彿とさせる音作りだなと感じました。〈向き合う時が来たのかもしれない〉と連呼されるコーラスも超ドラッギーです。テーム・インパラはこの曲の発表と併せて、超待望の新作『The Slow Rush』を2020年2月14日(金)にリリースすることもアナウンスしました。新作は〈時の流れ〉を表現したものだとのことで、“It Might Be Time”はアルバムで重要な位置を占めていそう。めちゃくちゃ楽しみですね!」

 

4. Deerhunter “Timebends”

天野「4位はディアハンターの“Timebends”。1月にアルバム『Why Hasn't Everything Already Disappeared?』を発表したばかりのディアハンター。来日公演も盛り上がっていて、2010年代の4ADレーベルを代表するバンドです」

田中「この“Timebends”は、なんと約13分という長さ! アルバム発表から10か月でこんな長尺の新曲が届けられたってことは、バンドは絶好調なんでしょうね。2016年からメンバーとなった、ハビエル・モラーレス(キーボード/サックス)の貢献もあるのかもしれません。〈バンドでやっていくぞ!〉っていうムードを感じます」

天野「『Halcyon Digest』(2010年)までの危うくてアンバランスで繊細なバンド・アンサンブルと比べると、ずいぶんどっしりとした演奏をするようになりましたよね。それが頼もしくもあり、なんだかさびしくもあり……」

田中「ピンク・フロイド風のサイケデリックでブルージーな前半から、クラウトロック風のモトリックなビートの中盤、そしてノイジーに演奏が崩壊する結末、とドラマティックな構成の一曲。〈新作のリリースも近いのかも?〉と期待させる力強さです」

 

5. 21 Savage “Immortal”

天野「5位は21サヴェージの“Immortal”。5位か~。低い! 個人的にはこれが今週の1位です!!」

田中「まあまあ。天野くんが21のことを好きなのはわかりますが(笑)。改めて紹介しておくと、21サヴェージはトラップの中心地である米ジョージア州アトランタのラッパーです。2018年末にリリースしたセカンド・アルバム『i am > i was』は高い評価を受けました」

天野アルバムに収録されているJ・コールとの“a lot”は、今年いちばん聴いたラップ・ソングのひとつです。コンシャスなところもあって、いいリリックなんですよね。この新曲は『i am > i was』以来のシングルで、21は長いヴァースに言葉を詰め込み、緊張感のあるラップを聴かせます。〈21〉〈straight up〉といった、つぶやくような掛け声(アドリブ)は、一聴して彼とわかるスタイルですね」

田中「でも、最近のラッパーってみんな〈straight up〉って言わないですか(笑)? “Immortal”はもともと、残虐格闘ゲームとして有名な『モータルコンバット11』のトレイラーでお披露目されていた曲で、ようやく正式リリースとなりました。ゲームのタイトルにかけた〈イモータル(不死の)〉という言葉をリリックに入れ込んでいて、〈21は不死だ、俺たちは死なない〉とラップしています。自身のクルー〈スローター・ギャング〉を賛美するギャングスタな内容。プロデュースは、スローター・ギャング所属のキッド・ヘイゼルです」