コラム

フローティング・ポインツ『Crush』 享楽的な愉しみと洗練された技術のもとに産み落とされた、電子音楽の画期を成す作品である

Photo by Dan Medhurst

音響の構築美と身体に根ざした律動

 英国ロンドンを拠点に活動するフローティング・ポインツによる、『Elaenia』以来四年ぶりとなるフル・アルバムである。実質的なファースト・アルバム『Shadows』を含めると三枚目となる本盤は、エレクトロニカ、ドローン/アンビエント、ジャズ、ポストクラシカル、現代音楽、ノイズ・ミュージック等々、フローティング・ポインツが示してきた多岐にわたる音楽性を、あらためて電子音楽を基軸に提示し直したものになっている。

FLOATING POINTS Crush BEAT/Ninja Tune(2019)

 ミニマル・ミュージックのような管弦楽アンサンブルが極めて自然に電子音と交わり合っていく“Falaise”がアルバムの幕開けを告げ、続く“Last Bloom”では郷愁を誘う音色のメロディに対してダンサブルなリズムが脈打つようにグルーヴしていく。夢幻的な音響の世界と即物的な律動の世界が入れ替わり立ち替わるなか、とりわけ四つ打ちのビートに電子音がポリリズミックに絡んでいく“Les Alpx”が一方の、そしてフランス印象主義的な情感をエレクトロ・アコースティックな質感で編み上げていく“Sea-Watch”がもう一方の白眉だと言ってもよいだろう。加えて、モジュラーシンセを駆使した点描的なノイズが披露される“Karakul”や、目まぐるしく前進するビートを横切るようにノイズが飛び交う“Apoptose Pt2”などにおける、予期し得ない即興的な音の交感も特筆に価する。

 前作で聴かれたようなバンド・サウンドは影を潜め、あくまでも電子音が主体となった本盤は、フローティング・ポインツ本人によれば『Shadows』へと立ち返ることから制作が進められたという。だが音響の構築美と身体に根ざした律動を併せ持つ内容は、フローティング・ポインツ・アンサンブルを経て 『Elaenia』で到達した緻密なオーケストレーションを抜きにしては生み出し得なかっただろう。音に対する享楽的な愉しみと洗練された技術のもとに産み落とされた、電子音楽の画期を成す作品である。

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