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スペインの室内楽を牽引するカザルス弦楽四重奏団によるベートーヴェン全集は必聴!

 2020年はベートーヴェン生誕250年。名だたるカルテットがかの楽聖のスコアを抱えて世界を飛び回る。スペイン・バルセロナに本拠地をおくカザルス四重奏団も、昨年サントリーホール・チェンバーミュージック・ガーデンでベートーヴェンの四重奏曲全16曲を演奏。3枚組のディスクを3回に分けて発売する全曲録音も第2集までリリース済みだ。

CUARTETO CASALS ベートーヴェン: 弦楽四重奏曲全集 vol.1《インヴェンション(発明)》 Harmonia Mundi(2018)

CUARTETO CASALS ベートーヴェン: 弦楽四重奏曲全集 vol.2 《Revelations(啓示)》 Harmonia Mundi(2019)

 「作曲年代順にまとめるのが一般的だと思うのですが、少し珍しい分け方をしたかったのです」とヴィオラ奏者のジョナサンは言う。第1集は、「発明(Invention)」として、ベートーヴェンが切り開いた革新的な作品。第2集「啓示(Revelations)」は、前期・中期・後期の中核をなす曲。そして、今月録音する予定の第3集「崇拝(Apotheosis)」は、それぞれの時代を締めくくる作品が並ぶ。

 カザルス四重奏団は、曲に応じて第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが交代して演奏する。古典作品はアベル、ロマン派以降はヴェラが第1ヴァイオリンの席に座る。ベートーヴェンでは、op.18(第1~6番)以降に、第1ヴァイオリンが交代するという。

 使用する弓も時代に応じて使い分ける。「モーツァルトやハイドンでは全員一緒に古典的な弓を使うのですが、ベートーヴェンでは作品によっては統一されてないことがあるんです」(アベル)。ベートーヴェンは、時代の分岐点、時代を切り開いた作曲家だった。

 弦楽四重奏団にインタヴューすると、中心となって答えてくれるのは、スポークスマン的な立場にある奏者だ(チェロ奏者が多い気がする)。カザルス四重奏団は、ほぼ均等といっていいほどにそれぞれが分担して質問に答える。「本当にデモクラティックなんです。リハーサルのときも、この楽章を何分練習するとわかれば、それを四分割し、各々の意見を言う時間を作るんです。タイマーで計りながら(笑)。それはお互いの時間を尊重し合うことにもなるしね」(アベル)

 あるピアニストが、四重奏団のメンバーそれぞれと別々に共演する機会があった。そのピアニストは、それぞれの個性が違いすぎると驚いたという。「でも、四人一緒に演奏すると、一つの音が作れるんです」(アベル)。「ベートーヴェンの音楽という目標は一つだから、違っていてもやれるわけです」(ヴェラ)。

 違いがあるのを認め、それをどうやって埋めていくか。差異が大きいほど、一つになったときのインパクトは大きい。そこに彼らの音楽のスケールの大きさ、表現の深さが隠れているような気がした。ベートーヴェン・チクルス後は、モーツァルトの「ハイドンセット」の残り3曲などのレコーディングに取り組む。