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生きる活力になればいいなって

 そのように伝わりやすさを意識した成果は、メロディアスな起承転結を備えた冒頭の“感傷謳歌”からも明らかだ。

 「いちばんポップで、キラー・チューンではないですけど、こういう曲調が人々の耳に入りやすいのかなと思って。あとは4つ違う顔を見せるなかで、明るい曲も入れたくて選びました。歌詞は〈どうせ人間いつか死ぬし、やりたいことやろう〉っていう内容で、自分で聴いて〈こう言われたい〉って思えるものを書いたというか」。

 厭世的な側面も垣間見せた登場時の印象を思えば、〈意味ない事なんてこの世界にはない〉〈良いことは生きていないと起こらない/やってやろうじゃないか〉という明快な言葉を選んだここでの姿は、アユニの変化を象徴するものだろう。

 「感傷的になるのも別に変なことじゃないし、憂鬱な気持ちも悪いことじゃないし、そういうのも肯定したかったというか。でも過去の自分だったら絶対こんな歌詞一生書かないだろうなって思います(笑)」。

 それに続くのが「サウンドがいちばん好み」で最初に選んだという“WORLD IS PAIN”。歪んだ音像と毛利のカウントで威勢良く始まるこのナンバーは、咽ぶような田渕のギターを伴って破壊的に駆け抜けていく圧巻のPEDRO節だ。

 「ノイズ・パッドが凄い好きで、入れたくて(笑)。デモの時点ではちょっと違う感じだったんですけど、〈もっとこうしたい〉って言って、こうなりました。これは音の全体的な雰囲気が好きで、ノスタルジックっていうか、聴いてると何とも言えない気持ちになるんですよ。やっぱ綺麗な音よりかは、中毒性のあるサウンドとか、激しいものが好きなので」。

 さらに3曲目の“無問題”はポジティヴな思いをフリーキーに解放する悩み無用なロックンロールだ。

 「今回はどれも聴いて生きる活力になれればいいなっていう4曲で。生き難くても肯定されたら、その人が生きやすくなるんじゃないかなっていう思いを込めてて、この“無問題”は特にそうですね。興味があるけど足を踏み入れるのが怖い物事とか、いまの自分にも凄くあるんですけど、そういうのも〈全部やっちゃえばいいじゃん〉という思いをこの意味不明なサウンドに乗せて表しました。〈最初は誰だって初心者だ〉っていう言葉が好きで。〈あの人って天才だよね〉とか〈あの人はめちゃくちゃ凄いし、敵わないな〉っていう人も、最初は知識ゼロな状態からそうなったわけで、〈私なんてできない〉っていう人は別に学ぼうとしてないだけだと思って。だから〈怖がらないでやろう〉っていうのを出した曲ですね」。

 そしてラストを哀愁味で彩るメランコリックな“生活革命”は、初めから「入れようと思ってた」というラヴソング。

 「自分ではそういう曲は全然聴かないですし、意味がわかんないところもあるんですけど、『THUMB SUCKER』で恋愛ソングを入れてみたら凄く反応が良くて、好きって言ってくれる人も多い気がしてて。だから恋愛ソングというか、曲調もそうですけど、煌びやかで切ないものも入れたくて」。

 歌詞は彼女が好きな漫画家・宮崎夏次系の作品に感化されたものだそう。

 「言葉にできない感情とかをちゃんと言葉にして、物語にされている方で。作品の中に〈結局、僕たちは四角い地図の中に収まってるね〉みたいなセリフがあって、たぶんマイナスな意味なんですけど、その言葉が印象的で。私は逆にひとりで四角い地図に閉じこもってて、BiSHとかPEDROを経験して知らない世界をたくさん知ってきたので、それを恋愛みたいに置き換えて書いてみました」。

 本人の意図した通り、それぞれに表情の異なる充実の4曲。リリースと連動した〈GO TO BED TOUR〉は全公演中止となり、「全然ライヴの場数を踏めていなくて、ベースを触るたびに〈ライヴやりたい〉っていう欲求が毎日毎日強くなってる」というアユニの無念は想像に難くないが、彼女自身の強い意欲がこの先もPEDROとして、頭の中のモノを具現化していくことは間違いないだろう。

 「いずれ作曲の部分もデモとかラフから自分で作れるようになりたいなと思って、打ち込みとかも一応始めていて。でも、やりたいこととか理想はもう数えきれないほどあるんですけど、技術が全然ないので、完成してもまったく思った通りにならないし、難しいですね、音楽作るのって。ギターも難しいし。だから学んでる段階です。やれたら気持ち良いですよね、きっと。去年はホントに音楽のおもしろさに気付いた一年だったんで、〈音楽をやっていきたいな〉っていう欲求は昔の何千倍も増えましたし、これからも楽しみです」。

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