天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。毎週訃報をお伝えしているのは本当に辛いのですが、今週も偉大な音楽家が亡くなりました……」

田中亮太「クラフトワークの結成メンバー、フローリアン・シュナイダーが73歳で亡くなったと5月6日に報じられました。がんで闘病生活を送っていたようです。本当に残念ですね」

天野「亡くなったのは4月21日だったそうです。クラフトワークはフローリアン・シュナイダーとラルフ・ヒュッターの2人で始まったわけですから、もし彼がいなかったとしたら、現在の電子音楽はまったくちがう様相を呈していたのではないでしょうか。シンセ・ポップやダンス・ミュージックはもちろん、クラフトワークの音楽はヒップホップへの影響もかなり大きいので。ジョルジオ・モロダーを筆頭に、たくさんの音楽家たちが悲しみに暮れています。フローリアンは2008年に脱退してしまったものの、クラフトワークはたびたび来日公演をしていましたし、ここ日本でも影響力は絶大。石野卓球さんの一連のツイートがすごくよかったです」

田中「映画『ビッグ・リボウスキ』(98年)には、彼らをモデルとした〈アウトバーン〉というグループが登場していました。ヴィジュアルやコンセプトの面でもポップ・カルチャーのなかでの存在感はたいへんに大きいです。Mikikiでは天野くんが追悼記事を準備中だとか。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

 

1. Fontaines D.C. “A Hero’s Death”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉はフォンテインズD.C.の“A Hero’s Death”! ちなみに、彼らのことは〈2019年洋楽ベスト・ソング20!〉でも〈2020年期待の洋楽アーティスト50!〉でも紹介しているので、〈PSN〉一押しのバンドと言っていいでしょう!」

田中「そうですね。フォンテインズはアイルランド、ダブリン出身の5人組。勢い任せのポスト・パンク・サウンドとフロントに立つグリアン・チャッテン(Grian Chatten)の吐き捨てるようなヴォーカルが魅力的です。フォンテインズD.C.を最初に紹介したのは、2018年11月の“Too Real”でしたね。当時は僕が興奮していて、天野くんはそんなにノっていない印象でしたけど(笑)。いまではすっかりお気に入りのバンドみたいですね」

天野「そうです! 不覚でしたね……。いまは好きすぎて、ロンTとかバッジとか、グッズも買っちゃいましたよ! それはさておき、この“A Hero’s Death”は、高く評価されたデビュー・アルバム『Dogrel』(2019年)以来の新曲。昨年の12月に〈ビーチ・ボーイズから影響を受けた新作をLAで完成させた〉とNMEが報じていて、〈もうセカンド・アルバムが出来たの!? ビーチ・ボーイズ?? LA???〉と、期待と不安を同時に感じていました。ですが、この曲を聴いて安心しました。最高な一曲ですね!」

田中「基本的にはロンドンのダン・キャリーのスタジオで録音したらしいですからね。この“A Hero’s Death”は、7月31日(金)にリリースされるニュー・アルバムのタイトル・ソング。音楽性はそんなに変わっていませんが、前作よりリヴァーブやエコーを効かせていて、音の質感や音作りがリッチになった感じがします。シャッフル・ビートと〈パッパッパッ〉というコーラスが古き良きロックンロールっぽくて、かっこいいですね」

天野「僕はやっぱり、グリアンのリリックと彼のたたずまいが好きなんですよね。特に歌詞は複雑かつ含蓄があって、ものすごくかっこいい。詩人の国、アイルランド出身ですからね。バンド・メンバーも詩が好きで、国の文化や伝統をものすごく意識している。ラップとは異なる〈ロックの詞〉が、彼らの曲からはにおい立つんですよ。簡単な言葉を使うと〈文学性〉なんですけど、もっと深くてクールというか……。特に今回は暗い曲のようで、実は前向き。〈人生は空っぽじゃない〉と、グリアンは繰り返し歌っています。〈お前に見合う光の下に座れ/そして、より明るい未来を待望するんだ〉というフレーズなんて、マジでしびれますね! 言葉通りではない、ひねりもちょっと感じますし」

田中「語りますね~。TVシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』のリトル・フィンガーことピーター・ベイリッシュ役で有名なアイルランドの俳優、エイダン・ギレンが出演したミュージック・ビデオもおもしろいので必見!」

 

2. India Jordan “I’m Waiting (Just 4 U)”

天野「2位はインディア・ジョーダンの新曲“I’m Waiting (Just 4 U)。ジョーダンは英ヨークシャーのドンカスター出身で、現在はロンドンが拠点のDJ/プロデューサーですね。この曲は、アップリフティングな4つ打ちのビートと煌びやかなシンセサイザー、絶妙な声ネタが超アゲアゲ。まさにフロア・バンガ―ですね!」

田中「最高です! 個人的にはフォンテインズD.C.と同率で1位! ジョーダンのキャリアはちょっとユニークで、もともとはプロデューサーのデッドボーイ(Deadboy)と〈Ambient Social〉というイベントを運営、さらにニュー・アトランティス(New Atlantis)というアンビエント/ニューエイジ系のレーベルを主宰していたんです。2018年にはFACT Magazineに〈The best ambient of 2018〉という記事を寄稿しています」

天野「心地いいアンビエントとフルスロットルのクラブ・トラックの両方が好きだ、なんて公言しているみたいですね。2019年からは、ドーン・リチャード(Dawn Richard)などの作品をリリースしていることで知られるローカル・アクション(Local Action)で曲を発表していて、フロア向けのサウンドに注力している印象。2019年のEP『DNT STP MY LV』に収録された“DN4”は、多くのエレクトロニック・ミュージック系メディアでベスト・トラックのひとつに選出されていました」

田中「この“I’m Waiting (Just 4 U)”は5月20日(水)にリリースされるEP『For You』からのリード・シングルなんですが、ひとつ前に発表されていた表題曲も含めて、これまで以上にオールドスクールなレイヴやテクノ/ハウスに傾倒したサウンドになっていますよね。今年に入ってから口癖のように〈レイヴに行きて~〉と漏らしていた天野くんが盛り上がるのもわかりますよ」

天野「そうなんですよ。コロナ禍以前は毎週末、意気揚々とオフィスからクラブに繰り出していた亮太さんならわかってくれると思いますけど。ちなみに、同じくロンドンで活動するDJのLCYとジョーダンが対談したRed Bullの記事では、彼女の地元でのレイヴ体験などが語られています。男性でも女性でもないノンバイナリーを自認するジョーダンがカミングアウトの経験についても明かした読み応えのある記事なので、この曲で興味を持った人はぜひ読んでみて!」

 

3. Ariana Grande & Justin Bieber “Stuck With U”

天野「3位はアリアナ・グランデとジャスティン・ビーバーのチャリティー・シングル“Stuck With U”。本日5月8日にリリースされたばかりの曲ですね」

田中「この曲の売上の利益は、すべて〈First Responders Children’s Foundation〉という財団/基金に寄付されるんだそうですね。医療従事者、救急医療技術者、救急隊員、警察官、消防士の子どもたちの奨学金に充てられるんだと。コロナ禍に対する誠実なアクションだと思いました」

天野「そうですね。そういった試みはもちろん大事なのですが、曲もめちゃくちゃ魅力的じゃないですか。もう、ノスタルジックなロッカバラードのリズムとアリの歌声を聴いただけで涙腺が崩壊しちゃいますよ(泣)」

田中「そうですか……(苦笑)。ジャスティンは今年リリースした新作『Changes』で音楽活動に復帰したばかりで、彼の歌声もいい感じ。アメリカ音楽界を代表するスター中のスター2人の共演曲として、このうえないものですね」

天野「繰り返し歌われる〈stuck with you〉、つまり〈あなた(たち)とずっと一緒にいる〉というフレーズは、聴き手を励ましているようにも感じますね。昨日の夜、ジャスティンがアリと写ったティーンの頃の写真をInstagramに載せていて、ぐっときちゃいました。ジャスティンが94年生まれ、アリが93年生まれと、2人はほぼ同い年なんです。彼らが成長して、人々や社会のためにこんなに感動的なデュエットを聴かせているって考えると、また涙が……」

 

4. Kota The Friend feat. Joey Bada$$ & Bas “B.Q.E”

天野「4位は〈PSN〉初登場、コータ・ザ・フレンドの“B.Q.E”です。彼のことは前から紹介したいと思っていたんですよね!」

田中「米NYのブルックリン出身で、プロデュースもみずから行う独立独歩のラッパー、だそうですね。地元を大事にしながら、シカゴのサバ(Saba)との共演曲もあるように、アトランタのトラップやギャングスタ・ラップとは一味ちがう、J・コールのような優しさやインテリジェンスを感じます」

天野「2019年にデビュー・アルバム『FOTO』を、今年に入ってからコンピレーション・アルバム『Lyrics To Go, Vol. 1』をリリースした新進気鋭のラッパーです。楽器も演奏できるそうで、ビート・プロダクションは温もりのあるジャジー/ブーンバップなものが大半ですね。この“B.Q.E”もビートは彼自身のもので、トランペットやギターの音色が印象的。自分で演奏しているのでしょうか? 客演は、同じNYのバスとジョーイ・バッドアスという2人です」

田中「〈セルフ・メイド、気取らない/自分で稼ぎ、借金もない〉というコータの最初のラインが、インディペンデントな彼をそのまま表していますね。サビでは〈この電車に乗ってるのか?/遅れるぜ/お前は他の波をつかめるかもしれないけど/俺たちはBQEに乗る/BQEで、90でいく〉と歌われます」

天野「〈BQE〉はブルックリン=クイーンズ・エクスプレスウェイのことなんだそうです。で、〈90でいく〉っていうのは、たぶん〈時速90マイルでかっ飛ばす〉っていうことかな。あと、〈90年代のNYヒップホップ〉の含意もあるんじゃないかと思いました。ア・トライブ・コールド・クエストとかに敬意を表しているのでは? そういったところも含めて、クールな一曲ですね。この“B.Q.E”は、5月22日(金)にリリースされるコータのニュー・アルバム『EVERYTHING』に収録予定です」

 

5. Aurora Shields “Damaged Goods”

田中「今週最後の曲はオーロラ・シールズの“Damaged Goods”。シンセ・ベースが生み出すグルーヴと穏やかな歌声がとっても心地よくて、まさに聴き手を包み込むようなR&Bですね。これは癒される~。あまり情報のないアーティストですが、どんな人なんですか?」

天野「ドンカマのチープなビートもいいですよね。彼女はカナダのシンガーのようです。2018年にデビューして、これまでに4つのシングルを発表。すべてマキシマム・エクスポージャー(Maximum Exposure)からのリリースです」

田中「あー! マキシマム・エクスポージャーといえば、カナダの誇る異才、トニー・プライスが主宰しているレーベルですよね。プライスはU.S.ガールズの近作にも参加していました」

天野「この“Damaged Goods”も含めて、彼女のすべての曲をプライスと共にプロデュースしているのは、同じトロント人脈のヤング・ガヴ(Young Guv)。彼もまたハードコア・パンクのファックト・アップからシンセ・ポップのヨット・クラブまで、さまざまなバンドに名を連ねている変わった音楽家です」

田中「なるほど。とすれば、オーロラ・シールズはトロント・インディーの才能が結集して送り出す期待のアーティストと言うわけだ。彼女のみならず、レーベルやプロデューサーを含めたシーンとして、ちょっと注目しておきたい感じですね」

天野「そうですね。彼女のInstagramの投稿によれば、“Damaged Goods”は性被害について歌った曲なんだそうです。〈この曲が少しでも孤独を消してくれますように〉と添えられています。他人と対面で会うことが難しい状況のいま、多くのリスナーの心に響く楽曲なのではないでしょうか。亮太さんも癒されてよかったですね!」