日ソ国交回復前の1955年2月、ソ連の世界的ヴァイオリニストオイストラフの初来日は、当時の東西冷戦中の奇蹟的な招聘として大きな社会的話題となった。この出来事を今に伝える貴重な録音テープがニッポン放送の倉庫から発見された。ツアー初日のライヴ録音で、モノラルながら聴きやすい音質だ。冒頭から演奏者と客席の緊張がひしひしと伝わってくる。いつもは冷静で完璧なオイストラフが燃えあがり、熱演のあまり珍しくミスが出る場面もある。2曲目のプロコフィエフも演奏の振り幅が大きく、聴衆への熱い語りかけが伝わってくる。歴史的演奏会を目の当たりにしているような臨場感を味わえる一枚だ。

【参考動画】デヴィッド・オイストラフの演奏による
“プロコフィエフ:ヴァイオリン・ソナタ 第1番 ヘ短調 作品80”