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1. Taylor Swift “cardigan”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉はテイラー・スウィフトの“cardigan”。先週7月24日、テイラーがサプライズ・リリースしたニュー・アルバム『folklore』の2曲目です」

田中「『folklore』はすごく高い評価を受けていますよね。ナショナルのアーロン・デスナー(Aaron Dessner)が16曲中11曲をプロデュースしていて、ボン・イヴェールが“exile”という曲に参加するなど、これまでのテイラーの作品とはまったくちがう手触りとムード。テイラーがインディー・フォークに挑んだアルバム、と言えそうですね」

天野「僕はモノクロームのアートワークやポートレートが公開された時点で、あっ、これはすごい作品になっていそうだ、と感じました。実際、これまでのどの作品にも似ていない特異なアルバムで、今後のキャリアのターニング・ポイントになりそう。〈ミス・アメリカーナ〉であるテイラーが、ミュージシャンとして〈アメリカーナ〉の音楽を引き受けた決意を感じたんです。もともと彼女はカントリー・シンガーで、アコースティックな表現を得意としていたわけで、この〈転向〉は自然にも感じます」

田中「制作背景には、やっぱり新型コロナの影響があったみたいですね。ロックダウン下でイマジネーションを広げて物語を描き、自宅でレコーディングを行ったと。で、この“cardigan”は何がすごいのでしょうか? 実は、よくわからなくて……(笑)」

天野「もう! しっかり曲を聴いてくださいよ!! “cardigan”はゴシップ的に、元恋人のハリー・スタイルズ(ワン・ダイレクション)に宛てたものなんじゃないか、とも言われています。考えすぎな気もしますが、テイラーのことだから、ありえそう……(笑)。でも、この曲の着想については〈20年経ったいまでも失った人のにおいがするカーディガン〉と言っているので、ハリーのこととはちょっとちがうのかなと。彼女自身は、〈Betty〉というキャラクターを主人公にした連作〈Teenage Love Triangle〉の内の1曲だと語っています。その〈Betty〉の複雑な恋心や未練が歌われていて、〈私は誰かのベッドの下にある/古いカーディガンみたい/あなたはそれを着て『お気に入りなんだ』と言ってくれた〉というのがサビの歌詞。最後には〈あなたはきっと私のところに戻ってくる〉と繰り返されますが、これは〈戻ってこない〉ことの暗示ですよね。なんだか映画『トイ・ストーリー』のような物語に思えますし、さらに〈Betty〉が自分のことを〈古いカーディガン〉と例えるのは、フェミニズムにおける性的対象(モノ)化を思わせます。悲恋の歌でありながらも、どこかテイラーのフェミニスト的な思想が滲んでいるようにも感じられるんです。〈あなたが私を着る(you put me on)〉というラインの〈put on〉には〈戯れにわざと欺く〉という意味もあるとGeniusで指摘されていて、そういう悪意の告発のようにも感じられる。……まあ、これはハリーの件と同じで、考えすぎかもしれません」

田中「なるほど……(笑)。とにかく、アーロンによるエレクトロニクスとストリングスが溶け合ったサウンド・プロダクションや幻想的なビデオも素晴らしい一曲。“cardigan”の〈cabin in candlelight〉ヴァージョンもリリースされたので、ぜひアルバムと共にチェックしてください」