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激しい差別の時代に光る設立者ベリー・ゴーディの先見性

1959年、モータウンの設立者ベリー・ゴーディJr.は音楽事業に乗り出した。当時、銀行は黒人に融資などせず、ゴーディは家族からのローンを取り付けた。男性中心の時代に、有能であれば女性も迷わず登用した。デトロイトの黒人居住区にオフィス兼スタジオを構える黒人音楽専門のレーベルでありながら、これも有能とみなせば白人も採用し、上級職に据えた。

モータウンの社風としてのこうした先見性は、ゴーディの子供時代の体験に基づくのかもしれない。幼さゆえの怖いもの知らずで白人の街に繰り出したゴーディは〈キュート〉ともてはやされた。しかし兄と二人で出向くと〈黒人は脅威〉と見做された。子供ですら脅威であるなら、成人の黒人男性がどう扱われるかは言うまでもない。これが今、Black Lives Matterが起こっている理由だ。当時から現在に至るまで、市民を守り、街の秩序を維持すべき警官が〈黒人は何をするか分からない、自分が撃たれる前に撃ってしまえ〉を実践するのだ。

しかし生まれついてのアントレプレナーであったゴーディはスモーキー・ロビンソン、シュープリームス(ダイアナ・ロス)、スティーヴィー・ワンダー、ジャクソン5(マイケル・ジャクソン)など類い稀な才能を持つアーティストを次々と大量に発掘し、黒人社会のみならず、白人リスナーにも広く受け入れられるスーパースターに育て上げた。本作にはこうしたモータウンのキラ星のようなスターたちの映像がふんだんに織り込まれ、音楽の楽しさはもちろん、時代との関わりも示している。

「メイキング・オブ・モータウン」本編映像。スティーヴィー・ワンダーが12歳の頃のパフォーマンス

「メイキング・オブ・モータウン」本編映像。ジャクソン5のオーディション

アメリカの奴隷制は黒人が北米に初めて連行された1619年から約250年間にわたって続いた。モータウンが隆盛した1960年代には奴隷制の終焉から100年近く経っていたが、激しい人種差別は厳然としてあった。黒人たちはついに立ち上がり、キング牧師をリーダーに、人としての権利を求める長く厳しい戦い、公民権運動を忍耐強く続けていた。緊張や疲弊の日々を過ごしていた黒人たちにはモータウンのハイクォリティーでありながらポップでスウィートなヒット曲が大いに慰めとなったのだった。

 

“What’s Going On”から50年、今も変わらぬ黒人たちの訴え

こうして1960年代に一世を風靡したモータウンだが、1970年代に大きな曲がり角を迎える。ブラック・パワー・ムーヴメントとベトナム反戦運動の時代となり、モータウンのアーティストもいよいよ社会的メッセージを発信する必要性に駆られたのだ。その代表作が、マーヴィン・ゲイのベトナム反戦歌“What’s Going On”だった。

マーヴィン・ゲイの71年作『What’s Going On』収録曲“What’s Going On”

“What’s Going On”の歌詞には反戦デモへの参加シーン、そして〈私を暴力によって罰しないでくれ〉という一節がある。この曲が録音された1970年から奇しくも50年目となる今年、黒人たちはBLM運動によって全く同じことを訴えているのである。黒人音楽のみならずアメリカン・ポップ・ミュージックの金字塔を打ち立てたモータウンは、図らずもアメリカ黒人史をも体現する存在となったのである。

 


FILM INFORMATION
メイキング・オブ・モータウン

監督:ベンジャミン・ターナー/ゲイブ・ターナー
出演:ベリー・ゴーディ/スモーキー・ロビンソン/ジョン・レジェンド
/ブライアン&エディ・ホーランド/ドクター・ドレー/ニール・ヤング/ラモント・ドジャー/ジェイミー・フォックス/マーサ・リーヴス/スティーヴィー・ワンダー/メアリー・ウィルソン/ヴァレリー・シンプソン/ジャクソンズ/オーティス・ウィリアムス 
2019/カラー/5.1ch/アメリカ、イギリス/ビスタ/112分
原題:Hitsville: The Making Of Motown
字幕翻訳:石田泰子
監修:林剛
配給:ショウゲート
http://makingofmotown.com/
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