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音楽が起こしてくれる感情の起伏

 マンチェ経由でグルーヴ・チューブに片足を突っ込んだような“More Light”、オアシスばりのギター・ソロから終盤はストリングスも交えてビートリッシュな大団円を迎える“LSC2000”(弦アレンジはCRCK/LCKSの小田朋美が担当)、「ブラーの“Song 2”とキンクスの“All Day And All Of The Night”をドッキングさせたような曲」だという“どうしたいの?”など、あちこちに影響源が透けて見えるのは、音楽を無心で楽しんでいることの証。そのなかでも、気だるげな歌声とヘンテコな音色のトゥーマッチ感がクセになるローファイ・ポップ“I Told You A Lie”は、彼女のいまのモードを投影した新境地と言えそうだ。

 「この曲はオモシロをコンセプトにしていて。最近のイギリスにはいいアーティストが多くて、特にラット・ボーイ、オンリー・リアル、スーパーオーガニズムの3組は、いろんな音を加工しておもしろい音作りをしているところが共通していて、カッコ良さだけではない笑いのエッセンスが入ってるところがしっくりくるんです。彼らに通底してるのはユーモアで、音はハイファイだけど、歌も上手く歌おうとしていないし、そのニヒルさにローファイを感じるんです。“I Told You A Lie”はそういうローファイ・マインドを現代的な音でやりたくて作りました」。

 そしてアルバムのリード曲にあたる“AH!”は、虚飾まみれの世の中に対する皮肉(とロマンティックなオチ)が最高にゴキゲンなロックンロール。去年の4月に音楽イベント〈SOMEWHERE,〉でみんなで踊って盛り上がることの楽しさに気づき、踊れる曲を作ろうと思って出来た曲だという。さらに、アルバム本編のラストを飾る爽快なギター・ポップ“ヒーローズをうたって”にも、とびきり粋なエピソードがあった。

 「〈SOMEWHERE,〉でアラン・マッギーのDJを見たんですけど、その帰りにカラオケに行ったら、友達がアランと仲良くなってて、そこにアランが来たんですよ(笑)。で、一緒に(デヴィッド・ボウイの)“"Heroes"”を歌ったりして。そんなことがあったら、次の日、もう空を見上げることしか出来なくて、〈あぁ、生きていこう〉と思って(笑)。そういう日って、たまにあるんです。くるりの岸田(繁)さんが私のことをツイートしてくれたり、同年代のバンドがすごくいい曲を出したときとか。そういう風に私の好きな音楽が私に起こしてくれる感情の起伏がすごく大切だし、それに生かされてる気がすると思って書いた曲です」。

 周囲の環境や相対的な評価に惑わされることなく、自分の感情や感性に誠実に、自由な気持ちで音楽をクリエイトしていることが伝わってくる本作。そのちょっとひねくれたひたむきさこそが、彼女の音楽がいつでもラブリーな理由なのだろう。

 「私は個人的なことをやるためにラブリーサマーちゃんとして活動しているので、どの作品も私の濃度がめっちゃ濃いんですよ。なので今回のアルバムも良し悪しとかで見ることはできなくて。すごくいいなと思えるところもあるし、〈またそういうこと言って!〉っていうところもあるし。それを含めて一生懸命に生きてる人という感じがするので、嫌いな人もいるかもしれないですけど、私は好きですね。それがかわいいなって」。

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