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【鈴木英之介】

モルグモルマルモ “ひらがなの「を」”

マーク・ジュリアナ水曜日のカンパネラの融合……!? 僕がこの曲を聴いたときの第一印象だ。曲の土台をなすのは、現代ジャズを代表するドラマーのマーク・ジュリアナを思わせる、隙間たっぷりでかつ変則的なビート。彼らが直接的にマーク・ジュリアナから影響を受けているかは不明だが、ビート・ミュージックの成果をバンド・サウンドに落とし込もうとする志向性において、両者は共通しているように感じられる。そして歌とフロウの間をゆらゆら漂うようなヴォーカルもまた、耳を捉えて離さない。恋人の佇まいを〈ひらがなの「を」〉にたとえる独特な言語感覚もあいまって、なんとなく水曜日のカンパネラを想起してしまった。マリアージュの妙を感じられる一曲。

 

Turntable Films “Something”

5年ぶりとなるニュー・アルバム『Herbier』からの一曲は、突き抜けるように明るいメロディーがとにかく爽快だ。しかし聴きどころは当然、そこだけではない。裏拍で叩かれるスネアと絶え間なく鳴る乾いたギター・ストローク、地を這うようなベースが合わさって生まれる、粘り気のあるグルーヴ。そして、グルーヴの隙間を縫うようにして入ってくる電子音。これらの要素からは、彼らのグルーヴと音響へのこだわりが感じられる。普通なようで普通じゃない、独特の音響ポップをぜひお試しあれ。

 

haruka nakamura “光の午後”

haruka nakamuraが自宅にあるアップライト・ピアノで紡いだという、ソロ・ピアノ曲集『スティルライフII』。その冒頭を飾る曲がこれだ。一聴してまず、録音の生々しさに衝撃を受けた。ここには旋律の裏でガサガサと鳴る摩擦音や乾いた打鍵音までが余すことなく刻印されており、聴き進めていくうちに、ピアノというのがそもそも打楽器であるということを再認識させられる。もっとも、ジョン・ケージの“プリペアド・ピアノのためのソナタとインターリュード”やバルトークのピアノ協奏曲などではなく、こんなに流麗な旋律を持った曲を聴いてそんなことを感じるというのもいささか奇妙な話だと思うが……。

 

【小峯崇嗣】

SOMESEEGAIA “SIN/CIRC”

makran所属の覆面アーティスト、SOMESEEGAIA。スロウなテンポと麗しくスムースなシンセ・サウンドが心地良く絡み合い、そこへ夢うつつなヴォーカル・ワークが重なり合うSci-Fiでダークな一曲です。彼には、メール・インタビュー〈6つの質問〉を行っています。

また、makranの特集記事も公開しました。レーベルの目的や所属アーティストについてなど、謎のヴェールに包まれたmakranを解き明かしています。 

 

Ai Kakihira “NAI”

長崎出身、現在は東京で活動するシンガー・ソングライター/クリエイター、Ai Kakihiraによる最新シングル。天にまで昇りそうな浮遊感に溢れたグルーヴィーなサウンドに、優美で恍惚とした歌声。音の細部までこだわった流麗な響きに骨抜きになる素晴らしい一曲です。

 

カルロスまーちゃん “Binbo (lovely version) prod by zzz”

MONJU N CHIEのヴォーカリストとして活動してきたカルロスまーちゃんのデビュー・ソロ・シングル”Binbo (lovely version)”。この曲は、SSWのzzzによる2018年のデビューEP『zzz』に収録されている”Binbo”のカヴァーとなっています。ローファイ・ポップを下地に、カルロスまーちゃんのビター・スウィートだけど可憐な歌声がアクセントになった一曲。元の楽曲の歌詞と比べながら聴くととても楽しいです。

 

pige “luv (feat. m/sa)”

名古屋在住の宅録トラックメイカー、pigeの最新シングルをご紹介。鮮やかでノスタルジックなポップ・サウンドを奏でるトラックに、序盤は深みのあるクールなフロウ。それとは対照的に、甘美で温かみのある歌声がサビにかけてメロディアスになっていく展開が心地良い一曲に仕上がっています。

 

【田中亮太】

SATORU ONO “スターグラス”

僕がシンガー・ソングライターの作品に惹かれる理由のひとつに、録音物の一音一音にその人のめざした〈美しさ〉や〈煌めき〉が貫徹されているからではないだろうか(これはすべて1人で演奏している/していないに関係ない話)。京都に暮らすSATORU ONOさんの音楽もそうで、この“スターグラス”もまた、彼の意図していない音はひとつたりとも入っていないように聴こえる。極上の耳当たりを持つポップスであり、ある種のハードコア。

 

山﨑彩音 “海辺のチャイナガール”

なんだか気になる存在の山崎彩音さん。歌謡曲のようだったり、シティ・ポップめいていたりもしつつ、そうした〇〇ぽさからはみ出ていく不思議な魅力があります。シンセ・ポップ……ともなぜか言い切れない2020年代の1人ロネッツなガール・ポップ? フィル・スペクターも草葉の陰で感涙しているかもしれません。 

 

中村ジョー&イーストウッズ “ラストダンスを君と”

サニーデイ・サービスのライブ・サポートにおける名演も印象深い中村ジョーさんが自身のバンド〈イーストウッズ〉で新曲をリリース。軽快なコンガのリズムとゴキゲンなホーン・セクションが彩る最高のブルーアイド・ソウル。〈なんにもないけどそこから出ておいで〉と呼びかけるコーラスが泣けます。すでに配信はスタートしていますが、アナログ盤7インチは今週11月20日(金)より店頭に並ぶそう。街に出なきゃ、あのレコード屋さんに行かなきゃ。