カジヒデキ

67年5月8日生まれ。千葉県富津市出身。86年、ゴス・バンド、Neurotic Dollにベーシストとして加入し、本格的に音楽活動をスタート。87年、Lollipop Sonic(後のThe Flipper’s Guitar)のデビュー・ライブを観て衝撃をうけ、89年9月、ネオ・アコースティック・バンド、BRIDGEを結成。国内外のコンピレーションに多数参加し92年11月、小山田圭吾が主宰していたレーベル、Trattoriaよりデビュー。2枚アルバムをリリース後、95年に解散。96年『MUSCAT E.P.』でソロ・デビュー。97年1月に発表したファースト・アルバム『MINI SKIRT』では、世界的なブームになる直前のスウェディッシュポップの要素を取り入れ、30万枚を超える大ヒットを記録するなど90年代の渋谷系を牽引した。2008年には映画「デトロイト・メタル・シティ」の音楽を担当。主題歌“甘い恋人”がスマッシュヒットする。またDJイベント〈BLUE BOYS CLUB〉主宰、TBSラジオ、bayfm、渋谷のラジオでのレギュラー・パーソナリティー、音楽フェス〈PEANUTS CAMP〉のキュレーションなど、 音楽の紹介者としても幅広く活躍中。18枚目のアルバム『GOTH ROMANCE』が好評発売中! オフィシャルサイトはこちら

あなたとベルセバとの出会いは?

97年の春頃だったか、誰かに勧められて『If You’re Feeling Sinister』(96年)を買ったのが最初。その繊細過ぎるサウンドと歌詞にいっぺんに恋に落ちてしまいました! その頃は全く情報がなく、そのミステリアスな雰囲気も良かったし、スミスを彷彿させるジャケットのセンスの良さも際立っていました。『If You’re Feeling Sinister』では、特に“Get Me Away From Here, I’m Dying”が好きでした。

96年作『If You’re Feeling Sinister』収録曲“Get Me Away from Here, I’m Dying”のライブ動画

 

お気に入りのベルセバの曲やアルバムは?

『The Boy With The Arab Strap』と『If You’re Feeling Sinister』。

実は『The Boy With The Arab Strap』のレコードは発売日当日(98年9月7日)に、当時パステルズのスティーヴン(・パステル)が働いていたグラスゴーのレコード屋さん(モノレールより以前)で買い、翌日ロンドンのシェファーズ・ブッシュ・エンパイアで行われたリリース記念ライブを観に行ったので、一番思い入れが強いしよく聴いたアルバムです。セカンドの『If You’re Feeling Sinister』も同じくらいよく聴いたし大好きなアルバム。

※スティーヴン・パステルが経営するレコード・ショップ

当時をリアルタイムで知らない方は信じられないかもしれないけど、その頃のベルセバはバンドの情報をほぼプレスなどに流していなかったので、本当にミステリアスなバンドで、僕はNMEかrockin’onでFELTと書かれたTシャツを着たスチュアートの写真くらいしか見たことが無かったし、メンバーが何人なのかも知らないくらいでした。しかもすでにファンの間では神格化されていて、ライブが始まる直前に急にコアなファン達が〈シーッ〉と口の前に人差し指を立てて、静かにするように観客に促し、それまでガヤガヤお喋りしていた超満員のオーディエンス(日本と違い英国などのお客さんはライブ中でも平気で大声で話したりするのが当たり前)が一斉に静まり返り、無音の状態の中で小さな音でライブが始まったのが、とても印象深く残っています! ちなみに発売日にグラスゴーに居たのは、丁度UKツアーをしていたCorneliusのグラスゴー公演を観に行く為でした。

 

ベルセバのライブの魅力や『What To Look For In Summer』を聴いた感想は?

選曲も良いし、少しダイナミック目なMIXのバランスも最高に良かった! 特にオーディエンスの声が近いところで聴こえたりして、その感じがベルセバらしくてとても良かった。

ライブはロンドンなど英国で何度も観ましたし、2001年の初来日公演にも行きました。特に印象的だったのは、99年に開催された〈Bowlie Weekender〉に2日間参加したこと! あれはベルセバ信者の、そしてネオアコやインディー・ポップを愛する人達の夢の国のようでした。会場になったキャンバー・サンズのホリデー・キャンプ場や目の前に広がる遠浅の海岸といったロケーション、出演バンドのセレクトにも彼らのこだわりが見えたし、宿泊部屋のTVではベルセバがセレクトした映画の数々が観られたり、そういう音楽を愛する人なら誰もが即死しそうなフェイヴァリットに溢れていました。そして最終日トリのベルセバのライブの高揚感と言ったら! 確かアンコールでカヴァーされたザ・フーの“The Kids Are Alright”の時に、スチュアートがノリノリでダンスしながら歌ったのが衝撃的で、おそらくその時をきっかけに、彼はステージで開放的に動いたりするようになった気がします。

99年の〈Bowlie Weekender〉での“The Kids Are Alright”のライブ動画

ちなみに最終日の合間の時間にスチュアートが、出演者用の宿泊棟の中庭で、そこに居た出演バンドや友人達の前でアンプラグドで歌を歌ってくれて、終わった後に〈ケイゴも歌ってよ!〉とCorneliusの小山田くんにガット・ギターを渡し、小山田くんがオレンジ・ジュースの曲を歌ったのが夢の中の夢のような記憶としてずっと印象深く残っています。

 

妹沢奈美
rockin’on編集部を経て97年よりフリーランスに。アークティック・モンキーズやヴァンパイア・ウィークエンドなど海外のインディー・ギター・ロック/ポップから邦楽まで幅広く執筆。2017年より外資系音楽ストリーミング会社に勤務し、世界のストリーミングやデジタル事情にも精通。現在は仏DEEZERのContents & Editorial Manager。Twitterはこちら

あなたとベルセバとの出会いは?

90年代半ばすぎにケミカル・アンダーグラウンドからリリースされていたデルガドスやアラブ・ストラップ、モグワイなどが好きで、当時の英グラスゴーのシーンに強い関心を持っていました。ベルセバの存在や音は、前述のバンドたちの日本のディレクターだった夫に〈グラスゴーにはこういうバンドもいる〉と教えてもらいました。あまりに繊細で儚く内向きな音や雰囲気、そしてスチュアートが教会で住み込みの管理人をするような人だということも含め、〈私のような陽気なライターが騒ぐと彼らの音を本当に必要としている人に届くためには逆効果かもしれない、心の中だけで応援しよう〉と思ったことを覚えています。

 

お気に入りのベルセバの曲やアルバムは?

スチュアート・マードックが初めて自分のことを歌った”Nobody’s Empire”(2015年作『Girls In Peacetime Want To Dance』収録)です。一人の中年男性が、若い頃の地獄のような暗闇の中である女性に出会い、恋に落ち、光を見つけ、そして結婚し二児の母になったその女性の生命力を讃えつつ、今の自分にも改めて問いかける……という内容です。〈You’re a quiet revolution〉と一緒に中年になった妻をちゃかすように歌うスチュワートの声色の優しさは、あたかも人生の荒波を乗り越え生き抜いてきた全ての元少女にも〈お疲れ様〉と言ってくれているようで、このバンドと同じ時代を生きてきてよかったと感じた曲でした。

2015年作『Girls In Peacetime Want To Dance』収録曲”Nobody’s Empire”

 

ベルセバのライブの魅力や『What To Look For In Summer』を聴いた感想は?

彼ららしい温かなライブ空間の秘密を、耳をすまして細部まで確認できる作品でした。気づいた時には完売していた赤坂BLITZの初来日(2001年)以外、彼らの来日公演は全て観ていると思うのですが、いつも脳味噌を休め彼らのライブならではの幸福感を体の隅々まで行き渡らせることに集中しているため、今回初めて音の重ね方に耳をすましたり、小さな音で録音した初期作品に今の彼らがどう命を吹き込んでいるかを確認できて楽しかったです。あと、”The Boy With The Arab Strap”ではやっぱり観客の皆さんがステージに上がって楽しんでいて、その様子を全くカットせずに使っているのもさすがだと思いました。

『What To Look For In Summer』収録曲”The Boy With The Arab Strap”

 

夏目知幸

85年生まれ。千葉県浦安で結成されたオルタナティヴ・ギター・ポップ・バンド、シャムキャッツのヴォーカル&ギターとして活動。2016年に自主レーベル〈TETRA RECORDS〉を設立。2020年6月にバンドの解散を宣言、集大成としてベスト・アルバムをアナログ盤でリリース。個人では弾き語りライブ、楽曲提供、DJ、執筆、アート作品制作など多方面で活躍中。Twitterはこちら

あなたとベルセバとの出会いは?

高校生の頃かな。浦安図書館にオレンジ色のジャケットのアルバムが置いてあって、なんとなく聴いたのが最初だったはず。何にも感じなかった。さらっとしてるなと思ったくらい。思春期はもっとアクの強いものを求めていたから。

ドロドロした表現に飽きた時期があった。20代中盤かな。特に理由なく再びベルセバに触れて、その時〈あれ? これいいな〉と思った。小さい頃美味しいと思わなかった食べものを大人になって好きになるように、次第に僕はベルセバを能動的に聴くようになった。

 

お気に入りのベルセバの曲やアルバムは?

特にない。なんとなくベルセバという全体、総体が好き。曲、声、音、ジャケット、メンバーの雰囲気。ゼップで観たライブも楽しかったな。そう、僕は所謂〈にわか〉なわけ。どうしてかあえてはっきり書くと、他にもっと愛するものがあるから。それでもやっぱりベルセバのこと好き。聴けば心が踊る。体も動く。そういうチカラがベルセバにはある。多分これって結構理解してもらえると思うんだけど。

 

ベルセバのライブの魅力や『What To Look For In Summer』を聴いた感想は?

2018年だったかな。ちょっと寒い時期。お昼に有明でテニスの試合を観戦した。北海道に住む友達が送ってくれたチケットで。彼女はお母さんと上京して試合を観るつもりだったんだけど、目当ての錦織くんが休場することになってその気を失くし、僕に譲ってくれたのだ。初めて観るテニス。息遣いが生で聞こえた。ビールをいっぱい飲んだ。

そのあとベルセバを観に行った。ゼップダイバーシティ。ライブを観ながらなんとなく、秘密はいっぱいあっていいと思った。天使が飛び立って、こぼれた羽がゆっくり降って舞うようなライブだった。