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For Those I Love “Birthday / The Pain”

天野「続いてフォー・ゾーズ・アイ・ラヴの新曲“Birthday / The Pain”。フォー・ゾーズ・アイ・ラヴについては、当連載の年始企画〈2021年期待の新人洋楽アーティスト20〉で紹介しました。アイルランドのダブリンを拠点に活動しているラッパー/詩人/プロデューサー、デイヴィッド・バルフェ(David Balfe)によるソロ・プロジェクトです。亮太さんが今年特に推しているニューカマーですよね?」

田中「そうなんです。彼をきっかけにダブリンのラップやインディーのシーンをいまチェックしまくっています。おもしろいアーティストがいっぱいいるので、どこかでまとめて紹介したいな……と思っているんですよね。それはさておき、この新曲“Birthday / The Pain”は、会心の一曲ではないでしょうか。これまでの彼の楽曲は、どちらかと言えばリリカルでメランコリックな趣が強かったのですが、この曲はかなりポップでブライト。ドリーミーなサンプリング・フレーズやアナログ感のあるダンス・ビートを聴いて、〈2020年代のレモン・ジェリー?〉なんて思っちゃいました。とはいえ歌詞はシリアスで、彼が初めて暴力による死に直面した幼少期の体験を歌っているようです。一見正反対のサウンドと言葉とのマッチが、独自の美しさを生み出していますね。この曲を収録したデビュー・アルバム『For Those I Love』は3月26日(金)にリリースされます」

 

Lost Girls “Menneskekollektivet”

天野「ロスト・ガールズは、独特のアヴァン・ポップで知られるジェニー・ヴァル(Jenny Hval)とマルチ奏者ホーヴァル・ヴォルデン(Håvard Volden)という2人のノルウェー人音楽家によるグループ。2人ともエクスペリメンタル・シーンで知られていて、2012年にコラボ作『Nude On Sand』を、2018年にロスト・ガールズとしてEP『Feeling』を発表しています。3月26日に、このシングル“Menneskekollektivet”と同題のアルバムをデジタル・リリースするそうです」

田中「スペーシーなシンセサイザーの調べをバックにヴァルがつぶやく開始3分ほどは〈どうなっていくんだろう?〉という感じですが、次第にズンドコなドラム・マシーンのビートが入ってきてヴァルが歌いだすとポップ・ソングに聴こえるから不思議です。12分かけて高みへとビルド・アップしていく感じが圧巻。同郷のプリンス・トーマスやリンドストロームに代表されるコズミックなハウスにも近い印象です。ちなみに、曲名はノルウェー語で〈人間の集まり(human collective)〉を意味するのだとか

 

Dawn Richard “Bussifame”

天野「ドーン・リチャードは、〈D△WN〉名義でも知られるSSW/プロデューサー。今年初頭にUSインディーの名門マージ(Merge)と契約したことを発表した彼女が、新曲“Bussifame”を発表しました。4月30日(金)にリリースするニュー・アルバム『Second Line: An Electro Revival』からの最初のシングルです」

田中「アルバム・タイトルで明言されているように、彼女は新作でエレクトロニック・ミュージックの手法を使ってセカンド・ラインをアップデートしたそうなんです。この“Bussifame”は、セカンド・ライン独特の跳ねたビートを見事にエレクトロ・ポップへと落とし込んでいますよね。そもそもドーンはセカンド・ラインの故郷ニューオーリンズ出身。セカンド・ライン/ニューオーリンズ・ファンクといえば、ビヨンセが2018年のコーチェラでのパフォーマンス、いわゆる〈ビーチェラ〉で大々的に取り入れたことで知られていますが、ドーンはビヨンセとはまた異なったアプローチで同スタイルに現代性を与えているなと。これはアルバムが楽しみですね」