St. Vincent “Pay Your Way In Pain”

田中「3曲目はセイント・ヴィンセントの“Pay Your Way In Pain”。彼女が5月14日(金)にリリースする新作『Daddy’s Home』からの、最初のリード・シングルです。オリジナル・アルバムとしては『Masseduction』(2017年)以来ということで、“Pay Your Way In Pain”は約4年ぶりの新曲。昨年もリミックス・アルバム『Nina Kraviz Presents Masseduction Rewired』を発表していたり、YOSHIKIとのコラボがあったりと、あんまりひさしぶりな感じはしないのですが……」

天野「この曲は、『Masseduction』から引き続きジャック・アントノフ(Jack Antonoff)との共作/共同プロデュースなんですが、前作とはかなり印象がちがいますね。ダンス・ポップ的な要素が強かった前作と比較して、この曲はかなりストレンジなエレクトロニック・ミーツ・ロック&ファンクなサウンドになっています。『Actor』(2009年)や『Strange Mercy』(2011年)の頃のセイント・ヴィンセントを思い出しますね。とはいえ、タイトなドラムの響きやエディットはモダンに更新されています」

田中「個人的には、ベックの『Midnite Vultures』(99年)をアップデートしたような印象を受けました。セイント・ヴィンセントことアニー・クラークはガーディアンのインタビューで、『Daddy’s Home』にインスピレーションを与えた音楽として70年代のスライ&ザ・ファミリー・ストーンやスティーリー・ダンを挙げています。彼女が選曲したSpotifyプレイリスト〈Daddy’s Home Inspiration〉を聴くと、アルバムのムードを想像できるのではないでしょうか。アルバムでは、2019年に刑務所から釈放されたクラークのお父さんのことがメイン・テーマとして歌われているそうです」

 

Lil Baby feat. EST Gee “Real As It Gets”

天野「米ケンタッキー州ルイヴィル出身の新鋭、EST・ジーをリル・ベイビーがフィーチャーした“Real As It Gets”。アトランタのラッパー、リル・ベイビーは、いまや押しも押されもせぬトラップ・スターですよね。2020年12月の“On Me”以来3か月ぶりの新曲は、いつも以上にアグレッシヴな感じです」

田中「ちょっと早めなテンポのビートと言葉を詰め込むようなリル・ベイビーのフロウが、そういう印象を抱かせますね。プロデューサーはATL・ジェイコブ(ATL Jacob)とDY・クレイジー(DY Krazy)。ループするピアノのフレーズがヒプノティックです」

天野「〈ストリートで育った、少しだって立ち止まったことはない〉〈このクソのなかで生まれた、重罪人たちと成長した〉というリル・ベイビーのリリックがかっこいいと思いました。なお、この曲はリル・ベイビーのニュー・ミックステープ『Lamborghini Boys』からのシングルと見られています」

 

Remi Wolf & Dominic Fike “Photo ID”

田中「レミ・ウルフとドミニク・ファイクというZ世代のポップ・スターによる共演曲! この“Photo ID”も今週話題の一曲でしたね。それぞれを簡単に紹介しておきましょう。レミ・ウルフは、LAを拠点としているSSW。昨年11月、彼女の楽曲“Hello Hello Hello”のポロ&パンによるリミックスがiPhoneのCMに使われたことで注目を集めました」

天野「そしてドミニク・ファイクは、フロリダ出身のSSW/ラッパー。2020年にリリースしたアルバム『What Could Possibly Go Wrong』は、エモやチェンバー・ポップ、さらにドゥーワップなど、さまざまな要素を取り入れたポスト・ジャンル・ポップの傑作でした」

田中「そんなナウな2人がタッグを組んだのですから、ダサい曲になるわけがありません! 実はこの曲、原曲ウルフのEP『I’m Allerg To Dogs!』(2020年)に収録されていて、TikTokヒットになっているんです。新たな“Photo ID”は、ファイクのキャッチーなラップとラテン・ギターやホーンなどを使った華やかなアレンジによって、ポップソングとしての魅力が格段に増していますね。ウルフのパートのメロディーは、ちょっとマイケル・ジャクソンの“Love Never Felt So Good”(2014年)みたい。ディスコ・ポップの名曲と言えるでしょう!」