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〈抜けた!〉と思えた瞬間

 答えも行く先も見い出せず、漂泊する思いを抱えつつも、iriの音楽探究はもちろん終わらない。ジャンルに囚われない普遍性を求めた“はじまりの日”から“room”、“回る”の繊細な余韻を活かしたアンビエントなタッチ。そして、作品を締め括る2ステップのダンス・トラック“doyu”と、フランスのレーベル、キツネに所属するバンクーバー出身のプロデューサー、パット・ロックによる“言えない”のリミックスでは、ダンスフロアや躍動するグルーヴへの渇望感が押し止めようもなく溢れ、零れ落ちている。

 「曲を作りながら、とりとめのないことを考えながら、でも、最後は踊れる曲を作ろうと奮起して、感じるままに作ったのが“doyu”。MJコールを聴き返したりしていたTAARくんが2ステップをやりたいと言い出したところから始まって、深いメッセージ性があるわけではないんだけど、自分のなかで何か爆発させたかったし、実際、〈抜けた!〉と思える瞬間があった曲ですね。そして、去年の年末に配信で発表した“言えない”のパット・ロックのリミックスは、もともとオリジナルでやりたかったこと──〈伝えられない思いを抱えながら、踊れる曲にしたい〉という当初のアイデアを形にしてもらったもの。ゆったりメロウなタッチのオリジナルも、それはそれで気に入っているんですけど、“doyu”と同じく気分をアゲてもらいたかったんです。だから、作品を通して聴いた時に後半2曲のテンションの違いにみんな驚くかもしれないですけど、誰にも会わず、家に籠もって、ふつふつとしていたら、バーンと弾けたくなるという気持ちもわかってもらえるかなって。まぁ、これがいまの私ということで、自分のなかで納得しているんですけどね」。

 分断や孤立を前提とすることから始まる新たな時代の新たなうた。昨年9月と12月にはライヴ配信を行うなど、リアルタイムで変化を続ける音楽の躍動感を届けるべく試行錯誤を続けてきたiriだが、本作『はじまりの日』を携え、4月からいよいよ全国8か所を回る〈iri Spring Tour 2021〉が始まる。

 「まだ、はっきりとは言えないんですけど、昨年末の〈Five Zepp Tour〉とは違ったアプローチのライヴになりそうです。作品にも同じことが言えるんですけど、ライヴもその時々の自分がやりたいことをやれるようにするにはどうすればいいか。現状に満足せず、というか満足することはないんですけど、引き続き模索していけたらいいなと思ってます」。

『はじまりの日』に参加したアーティストの関連作品。
左から、YOSA & TAARの2019年作『MODERN DISCO TOURS』(OMAKE CLUB/PARK/bpm tokyo)、ペトロールズの2020年のライヴ盤『SUPER EXCITED』(ENNDISC)、クラムボンの2015年作『triology』(コロムビア)、パット・ロックの2019年作『Corazon』(Kitsune)

 

iriの作品。
左から、2016年作『Groove it』、2018年作『Juice』、2019年作『Shade』、2020年作『Sparkle』(すべてColourful)