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Arooj Aftab “Last Night”

天野「3曲目はアルージ・アフターブの“Last Night”。アルージ・アフターブはパキスタン生まれ、ブルックリンを拠点に活動しているアーティストで、ネオ・クラシカル/インディー・クラシカルの代表的なレーベル、ニュー・アムステルダムから作品をリリースしています。2018年のセカンド・アルバム『Siren Islands』では幻惑的な音楽世界を作り出し、エクスペリメンタル系のリスナーから高く評価されました。ヴィジエイ・アイヤーやカッサ・オーバーオールらのバンド、サムズ・アップ(Thums Up)にも参加しているようですね」

田中「『Siren Islands』はビートレスのアンビエントでしたし、ジュリアナ・バーウィックをほうふつとさせる実験的な作品という印象が強かったのですが、今回の“Last Night”はなんとレゲエ。ウルドゥー語の歌、地を這うようなベースと裏打ちのリズム、ダビーな音の処理が耳に残ります」

天野この曲の前に発表された“Mohabbat”はフォークトロニカ的なヴォーカル・ナンバーでした。4月23日(金)にリリースされる新作『Vulture Prince』は、〈歌〉にフォーカスした作品なのかもしれませんね。アフターブは新作について、〈私のものだと呼んでいた場所を再訪することについての作品〉と綴っています」

 

Big Scarr feat. Gucci Mane, Pooh Shiesty & Foogiano “SoIcyBoyz 3”

天野「続いては、ビッグ・スカーがグッチ・メイン、プー・シーエスティ、フージアーノの“SoIcyBoyz 3”。ビッグ・スカーはグッチ・メインのレーベル、1017から現れたニューカマー。プー・シーエスティとフージアーノも1017のメンバーなので、ポッセ・カットと言えそうですね」

田中「メンフィスのラッパーであるビッグ・スカーは2020年にデビュー。グッチ・メインが仕切ったコンピレーション『So Icy Summer』『So Icy Gang, Vol. 1』(いずれも2020年)にフィーチャーされていました。この曲は、タイトルどおり〈SoIcyBoyz〉シリーズの3曲目。メンフィスの売れっ子プロデューサー、テイ・キース(Tay Keith)が手がけた削ぎ落されたトラップ・ビートがヘヴィーでドープです」

天野「言葉を詰め込むグッチ・メインのライミングと太く低い声でラップするビッグ・スカーのフロウが印象的。ビッグ・スカーの〈お前の魂を奪っても後悔はしない グリム・リーパーが俺の信仰〉というおそろしいラインにしびれました。ビッグ・スカー、注目のラッパーだと思います」

 

Doss “Look”

天野「次はドースの“Look”。ドースはNYのプロデューサーで、2014年にエセファル(Acéphale)からリリースしたファーストEP『Doss』が話題となったんですよね。その後は目立った活動をしていなかったのですが、7年を経て今年3月に新曲“Puppy”を突如リリース。この“Look”は、それに続くシングルです」

田中「改めて『Doss』を聴くと、早すぎたトランス/レイヴ・リヴァイヴァルという趣を感じます。“Puppy”も“Look”もその方向性を継承しつつ、今回の“Look”は2006~2008年くらいのダンス・ミュージックっぽいなと思いました。エレクトロ・ディスコが一段落して、ハーヴやスイッチがブリーピーなブレイクビーツ・ハウス――フィジェット・ハウスを牽引していた頃のサウンドというか。実際、ドースは制作時に〈この曲が鳴らされるべき場所〉としてクラブを想像していたそうなので、彼女の若き頃のパーティー体験が落とし込まれた曲なのかもしれませんね」