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2020年

2017~2020年
ダンス・ミュージック作『30』、だけどヒントはグレイトフル・デッド?

──それに対して、新作アルバム『30』はドラムのアプローチがオーソドックスですが、ベースが饒舌で、アルバムを通じて、ダンス・ミュージック的なグルーヴが一貫して流れていますよね。

栗原「まさしくダンス・ミュージック寄りだと思うんですよね。今回の制作では、どんな方向性が面白いかを珍しく話し合ったりもしたんですけど、全ての曲を同じテンポで揃えるというアイデアが出てきたんです。つまり、それはDJの手法というか、テクノとかガラージ・ハウスの発想に近いもので、実際に青柳が作ってきた曲はテンポが揃っていたりするんですけど、そういう意味において、今回のアルバムはダンス・ミュージックの発想で統一されているように思いますね」

LITTLE CREATURES 『30』 CHORDIARY/Pヴァイン(2021)

──そのダンス・ミュージック的な発想はどこから生まれたんでしょうか?

青柳「一つのキーワードとして、ここ数年、何度目かの〈グレイトフル・デッド期〉があって、めちゃくちゃ聴き込んでいた時期があったんですよ。それで、Amazon Prime Videoで『グレイトフル・デッドの長く奇妙な旅』(2017年)というドキュメンタリーを観たんですけど、あのバンドはカルチャー的なことを差し置いても、音楽的にやっぱりおもしろいなと改めて思ったんですよね。

デッドって、リーダーのジェリー・ガルシアがみんなを引っ張っていくイメージがあると思うんですけど、ライブを観ると、バンドの全員が同時にソロをやっていて、誰がメインということもなく、各人が織りなす音のタペストリーになっているところに現代性を感じたというか、今の時代の空気にフィットするように思ったし、この『30』でも〈3人のサウンド〉をイメージしましたね」

「グレイトフル・デッドの長く奇妙な旅」予告編

──ライブにおけるグレイトフル・デッドのジャムはダンス・ミュージックそのものですもんね。

青柳「しかも、このアルバムのリズムは、オーソドックスなことをやっているようで、よく聴くと、ハットが抜けていたり、キックの位置が変だったりとか、実は普通じゃなかったりする。聴いた感じは普通にのんびりノれるというか、楽にノれるんだけど、よく聴くと様相がおかしいっていうのは、現代的な感じがするし、リスナーとしての自分もそういうポイントを見つけるのが楽しいんですよ。

だから、アレンジにおいては、聴いて人がその仕掛けや変化が捉えやすいものであったらいいな、と。〈このフレーズがなくなって、別のフレーズが出てきた〉とか、〈この音とこの音がユニゾンしている〉とか、聴いていて分かるところが音楽の醍醐味だったりするじゃないですか。それがこの3人だと如実に形に出来るし、さらにライブにおいても体感してもらえる状態を作れることが演者として楽しみなんですよね」

──さらには、DAWのクオンタイズされたリズムが全盛の現代において、コロナ禍で音楽からフィジカルな要素が損なわれている時期だからこそ、このアルバムではそこからはみ出し、広がっていくような音楽のフィジカルな魅力を時代のカウンターとして提示しているというか。

青柳「そうですね。こういう時期だからこそ、家のなかで聴いてくださるみなさんが窮屈にならないように、密室で作ったような作品にはにしたくはなかったんです。ライブがなかなかできない状況ではありますけど、音楽におけるライブの重要性が高まっている時代だからこそ、ライブでの演奏を念頭に置いた作品作りは考えますよね」

 

音楽の細分化と画一化

──今回の作品では、3人全員が手掛けた歌詞においても〈踊る〉描写がそれぞれに盛り込まれていたり、青柳さんが書いた“速報音楽”では、(タイの)モーラムやアフロ・ミュージック、レゲエといったローカルな音楽をラジオというプリミティヴなメディアを通じてダイレクトにキャッチする様が歌われていますよね。

青柳「昔からそうだと思うんですけど、音楽って、知らない土地のことを知るのにいいツールじゃないですか。しかも、今は移動ができない時期だから、音楽を聴くと、その土地のことを想像したり、旅情を掻きたてられたりするんですよね。

今は音楽の細分化が起こっている一方で、音楽の配信サイトでは、一番推されているメジャーなものが聴かれているというか、みんなが同じものを聴いている感覚が自分のなかにはあって、ひねったら、色んな音楽がかかるようなラジオ、土地土地の音楽がかかるラジオがあったらいいなって思ったんですよね」

『30』収録曲“速報音楽”のライブ映像

――個人的には、この歌詞からグローバリズムとローカリズムについて考えたりもしたんですけど、今の不穏な空気を大づかみで捉えた“大きな河”しかり、その歌詞世界は理路整然と声高に歌ったものではなく、もっと直感的に描写的に描かれていますよね。

青柳「僕は〈今の世の中がこうなっている〉みたいなことを解説するのが苦手だし、興味はあっても知識がなかなか入ってこない体質だったりもするので、歌詞においては、頭で確認しながら言葉にするというより、皮膚の下で感じていることをワーッと一気に書き終える感じなんですよ」

栗原「そうそう。青柳は(曲を書くのが)早かったよね」