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「隔たる世界の2人」ジョーイ・バッドアス主演のタイム・ループ映画は、黒人の絶望を映し出す(クボケンの配信動画 千夜一夜:第7回)

カメラマン/音楽ライターとしてロック・ヒストリーにその名を残すクボケンこと久保憲司さんの連載〈クボケンの配信動画 千夜一夜〉。Netflixなど動画配信サーヴィスが普及した現在、寝る間を惜しんで映画やドラマを楽しんでいるというクボケンさんが、オススメ作品を解説してくれます。

今回はNetflix制作の短編映画「隔たる世界の2人」を紹介。人気ラッパーのジョーイ・バッドアスが主演を務めていることでも話題のSF作品で、 〈第93回アカデミー賞〉の短編実写映画賞を受賞するなど高く評価されています。タイム・ループ――主人公が同じ時間を繰り返す――設定のこの映画を、クボケンさんは黒人の置かれている絶望的な状況を反映した作品だと捉えたそう。その理由を解説してもらいました。 *Mikiki編集部

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トランプ支持者の連邦議会への乱入に思うこと

トランプ支持者たちが今年の1月に〈今回の大統領選挙は不正だ。民主主義を取り戻すぞ〉と連邦議会に乱入したことは、今世紀いちばんの珍事じゃないかなと思っている久保憲司です。

この人たちは完全に頭がイカれていたわけですが、なぜイカれたかということはこの連載の第2回〈「監視資本主義:デジタル社会がもたらす光と影」SNSの怖さ、知ってるつもり?!〉を読んでもらえばわかると思います。

簡単に書くと、SNSのアルゴリズムによって、自分にとって都合のいい情報ばかり流されて洗脳された人たちがホワイトハウス前に集合したということです。当時の現職大統領から〈ホワイトハウスにゴー〉みたいな言葉をいただいていたんですから、仕方がないかもしれませんが、でも一言で言うとアホとしか言いようがないですよね。

この背景には、白人の持つ〈自分たちがマイノリティーになる〉という恐怖があります。でも、〈別にマイノリティーになってもいいじゃん、多様性がアメリカを偉大な国にしてきたんだから〉と思えばすむはずなんですけどね。

日本でもこのトランプ支持者の馬鹿げた考え方に何か真実があるのじゃないかと陰謀論にハマった人たちがたくさんいました。自分たちがこのままだと中国の属国になる、という恐怖がそうさせているんでしょう。今までアメリカの属国だったんだからいいじゃんと思うんですけど、中国人には支配されたくないという差別意識がそんな気持ちにさせるんでしょうね。トランプ支持者と根底では一緒です。

 

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黒人の閉塞感をタイム・ループで表現

長々と前振りを書きましたが、こんな今の空気をたった30分くらいの短編映画に詰め込んだのが「隔たる世界の2人」です。

物語はジョーイ・バッドアス扮する黒人の青年がワン・ナイト・スタンド(一夜限りの恋)をして、NYのオシャレな部屋で起きる所から始まります。スパイク・リーの名作「シーズ・ガッタ・ハヴ・イット」(86年)もそんなシーンから始まるんですが、黒人映画の名作はそういうシーンからよく始まるなと思っていると、どうやらこれはタイム・ループものだということが分かります。

そして、黒人が白人警官に絞め殺される。あーこれはアメリカの大問題をメタファーにしたSFだなと。どんなオチをつけるんだろうと思いながら観ていると、このタイム・ループという設定はどんだけあがいても抜け出せないアメリカの黒人の状況を表しているんだなと、感心します。

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これって海外に住んだことのない日本人には分からない感覚かもしれません。何世代にもわたって生まれた国に住んでいるのに、そこの人間じゃないと思わせてしまう感覚。日本だと在日の人やアイヌ、沖縄の人たちがこの感覚を味わっているわけです。この疎外感がいい音楽や芸術を生んだりしてるわけです。黒人の例で言うと、誰も助けてくれないから宇宙に救いを求めたPファンクやサン・ラーですかね。僕の友達で、デトロイト・テクノの中心的な存在であるデリック・メイも〈俺がなんで日本を好きかわかるか? 普通でいられるからだよ、アメリカにいると俺みたいな派手な格好をしてると、何回も警官に止められるんだ〉と言ってました。

この作品はまさにこうした閉塞感を寓話にしています。で、オチなんですけど、とんでもないですよ。最後までゆっくり観て下さい、色んな気持ちが込み上げてきます。

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