カメラマン/音楽ライターとしてロック・ヒストリーにその名を残すクボケンこと久保憲司さんの連載〈クボケンの配信動画 千夜一夜〉。Netflixなど動画配信サーヴィスが普及した現在、寝る間を惜しんで映画やドラマを楽しんでいるというクボケンさんが、オススメ作品を解説してくれます。

今回採り上げるのは、Netflixのドキュメンタリー「This Is Pop:ポップスの進化」。オートチューンやブリットポップ、フェスティバルなどポップ・ミュージックを取り巻くさまざまな事象をテーマに音楽カルチャーを掘り下げる全8回のシリーズです。クボケンさんが各エピソードを通じて考えたこと、教えられたことを綴ってくれました。 *Mikiki編集部

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Netflixオリジナル・シリーズ「This Is Pop:ポップスの進化」独占配信中
 

BTSも元を辿ればボーイズIIメン?

〈This Is Pop〉と言えばXTCの名曲を思い出す久保憲司です。

XTCの曲には?マークがついていましたが、このドキュメンタリーも〈ポップ・ミュージックとは何なのか?〉と検証していきます。

第1話が「ボーイズIIメン・ブーム」だったので、Netflixには珍しく甘めの感じでいくのかなと思ったのですが、切り口はめちゃくちゃ鋭かったです。ボーイズIIメンが甘いコーラスだけのグループじゃなく、どれだけ革新的だったかを思い出しました。当時は全然好きじゃなかったんですけど。

これを観て、彼らの偉大さはフィラデルフィア・ソウルとモータウンを合体させたことだったんだと気づかされました。〈フィラデルフィア・ソウルとモータウンを一緒にしたらいいんや、最高のポップスが出来るで〉と口に出すのは簡単ですけど、そんなに上手くやれないですよね。BTSとかを聴いてたら、いろんなものをブレンドしていて流石だなと思いますが、その元を辿ればボーイズIIメンだったんだなとシミジミ思ってしまいました。

第2話は「オートチューン」です。〈音楽を殺した〉とまで言われるオートチューンですが、本当にそうなのかを検証していきます。

オートチューンをポップスのスタイルとして確立したのはT・ペインなんですけど、彼がなぜここまで批判されるのか、僕にはまったくわかりません。彼はオートチューンを使って、切なくて新しいヴォーカルを考えた人だと思うのです。みんな、いまはもうオートチューンなんかを使わず、Wavesとかもっと進化したプラグインを使っていると思うんですけど、T・ペインのように新しいスタイルを作った人はいない。これからまた新しいプラグインで画期的なことをする人が出てきたらいいですね。

 

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カントリーを揺るがしたリル・ナズ・Xの衝撃

第3話は第1話ともリンクしていくんですけど、「ストックホルム症候群」と題してスウェーデン産のポップスを採り上げています。アバのブレイクに始まり、同国出身のマックス・マーティンがプロデュースしたブリトニー・スピアーズの曲が全米1位になるなど、勢いが止まらないスウェーデンの音楽ですが、いったいあの国で何が起こってたのか。その謎がこれでわかります。

K-Popと同じことが起こっていたんですね。日本はなぜ彼らと同じことをできなかったのか、悔しいです。でもこれからでも遅くないですね。

この回のオチでは、スウェーデン・ポップの重鎮が〈次はデンマークかオランダかもしれないぜ〉と言ってましたから、日本がそうなる可能性もまだまだあるのでしょう。スウェーデン・ポップが成功した理由のひとつに、スウェーデン人の謙虚で勤勉な性格があるみたいなんですが、この気質って日本人そのものですもんね。

第4話は「カントリーがポップスに出会う時」。リル・ナズ・Xの“Old Town Road”(2019年)の偉大さが、これを観て染み渡りました。というか、僕はリル・ナズ・Xがゲイだと知らなかったんです。ゲイの人がカウボーイの格好をしてあの歌を歌う、しかも黒人という重さ、複雑さにいまあらためて衝撃を受けてます。

当初はカントリー界も〈あの曲はカントリーじゃない〉と言ってたのですが、カントリーの大物、ビリー・レイ・サイラスが彼をサポートし、リミックスではヴォーカリストとしてフィーチャーされました。テイラー・スウィフトもいますし、カントリー界も変わってきています。この回は、カントリーとポップの関係を考えさせられました。日本のカントリーと言えば演歌だと思うんですが、カントリーをポップ・ミュージックのルーツに持つアメリカが羨ましいです。

 

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フェスティバル文化がアメリカではなく欧州で発展した理由

第5話の「ブリットポップがやって来た!」では、オアシス対ブラー戦争を中心にブリットポップを振り返ります。アメリカ制作なんでブリティッシュ音楽のファンからはツッコミが弱いと思ってしまう部分もあるかもしれませんが、懐かしいなと感傷に浸れるとは思います。ブラーのベース、アレックス・ジェームスがチーズ職人になってたのはびっくりしました。グルメだったのは知ってたのですが、そこまで極めていたとは。

第6話は「フェスティバルの夜明け」。いまや若者の通過儀礼になったフェスティバルを考察しています。アメリカとヨーロッパのフェスの違いに切り込んでくれていたのが嬉しかったです。アメリカから始まったフェスが、なぜ本場アメリカでは上手くいかず、グラストンベリーを筆頭にヨーロッパで独自の発展を続けたのか――理由はアメリカのフェスが金儲けに走ったからなんですが、そういう歴史をちゃんと解説してくれています。フェス好きは基礎教養として観ておくべきでしょうね。現在のアメリカでは過去の反省から、コーチェラなどお客さんの目線に立った良いフェスがたくさん生まれています。

 

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ポップはたえず変化し、進化するんだろうな

第7話は、僕にとっていちばん興味のある回でした。「歌の力」というテーマで、音楽で世界は変わるのか、いや音楽で世界は変わったのか、を考えます。パブリック・エネミーのチャック・Dらに話を訊きながら、過去の社会運動や、現在のブラック・ライヴズ・マター、#MeTooムーヴメントなどとポップ・ミュージックがどう影響しあってきたかのか、そうした関係がいかに途切れることなく脈々と続いてきたかについてを説明していて、感動させられます。日本のポップスにもこうした歴史があったらいいのになと思います。

そして最後は「ブリル・ビルディング4曲の物語」。ビートルズが登場するまでポップ・ミュージックの中心点だったブリル・ビルディングについてのストーリーです。商業音楽だけど、それを超えてしまうポップスの魅力、不思議さについての回です。僕もブリル・ビルディングで作られた音楽がいちばん好きなんです。ルー・リードなんかもブリル・ビルディングのなかの狭い部屋で、曲を作っていたんですよね。

ストリーミング時代になって、ほとんどのポップが同じような曲になってしまった現代、もうポップスは死んでしまったのかと嘆いているんですけど、このシリーズを観たら、〈ポップスはウイルスのようにたえず変化し、進化するんだろうな〉という気持ちになりました。絶対にまた大きな変化が起こると思います。若者がいるかぎり、ポップは絶対に死なないのです。

早く次のシーズンが観たい!