カメラマン/音楽ライターとしてロック・ヒストリーにその名を残すクボケンこと久保憲司さんの連載〈クボケンの配信動画 千夜一夜〉。Netflixなど動画配信サーヴィスが普及した現在、寝る間を惜しんで映画やドラマを楽しんでいるというクボケンさんが、オススメ作品を解説してくれます。

今回は、Netflixオリジナルの連続ドラマ「Lupin/ルパン」を紹介。モーリス・ルブランが作った稀代の怪盗、アルセーヌ・ルパンに着想を得たクライム・サスペンスです。舞台を原作の20世紀前半から現代のフランスに置き換え、セネガル系移民の黒人という設定のルパンを主人公に据えた同作。クボケンさんは新たなルパンのどんなところに魅了されたのでしょうか? *Mikiki編集部

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Netflixオリジナルシリーズ「Lupin/ルパン」独占配信中 
 

多文化な街の新しいルパン

イギリスの音楽が大好きなので、〈パリよりロンドンのほうが好きなんでしょ〉と思われているかもしれませんが、死ぬときはパリで死にたいと思っている久保憲司です。

ベネディクト・カンバーバッチ、マーティ・フリードマンの傑作「SHERLOCK(シャーロック)」に対抗して「Lupin/ルパン」かと思ったのですが、これがいいんです。

ロンドンよりパリのほうがなぜか魅力的です。なぜなんでしょう。黒人のルパンというのも、奇をてらっているようでいて、自然に入り込めました。

パリという街は、白人の街のようで、実はマイノリティーの人がとっても多いのです。でもアメリカやイギリスと比べて、外から見るとその存在がまだ埋もれがちです。そんな状況が新しいルパン像を楽しませてくれています。日本のルパンは女性に弱いですが、新しいパリのルパンは家族想いというのもいいのです。

そういうサブテキストをバックに、父を騙し刑務所での自殺に追い込んだ大富豪に復讐する物語。そして後半は大富豪の手先がルパンの家族に忍び寄っていく。王道な展開なんですが、古臭く感じさせません。

 

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パリに住みたいな

今回の新しいルパンは黒人だったからよかったのか、それともやはり「最強のふたり」などで見事な演技を見せたオマール・シーがいいんですかね。そうなんです! 彼がいいんです。彼は英語圏の映画だとまだ脇役でしか登場していないのですが、コメディアンもやってるからか、彼が出てくると場が和みます。

彼がコメディアンでもあったということは、このコラムを書くために調べて知ったのですが、彼のコメディーをこれから観てみようと思いました。どんなお笑いなんでしょうね。彼の演技を観ていて、日本でもお笑いの人から、ハリウッドで成功する人が出てくるかもしれないと想像しました。昔、関根勤さん、とんねるずの貴さんがちょい役で抜擢されていたんですけど、松田聖子さんより爪痕を残していたと思うんですけどね。

オマール・シーの演技にやられているんですけど、「トランスポーター」「グランド・イリュージョン」(こちらけっこうおもしろいですよ)のルイ・レテリエが半数のエピソードを監督してるのもいいのかもしれません。どこかウィットにとんでいるんですよね。この辺もフランス作品の良さですね。あとネトフリものだと「ファミリー・ビジネス: マリファナ・カフェへようこそ」もおもしろいですよ。フランス制作じゃないですが、パリものだと「エミリー、パリへ行く」もいいです。パリジャンからは〈パリジャン、ディスってんのか〉と大不評みたいですがパリに住みたいなという気持ちにさせてくれます。

 

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愛嬌のあるオマール・シーに期待

子供の時は僕はシャーロック派で、ルパンはレベル低くないか?と思ってたんですが、このドラマを観て僕の考えは間違っていたのかな、もう一度小説を読み直してみようかなと思っています。

イギリス人にとってシャーロックが大事なように、フランス人もルパンを大事にしてるんだなという意地を、今回まざまざと見せつけられました。日本も明智小五郎か金田一耕助をストリーミングで蘇らせてほしいものです。

小説みたいなルパン対シャーロックの対決は絶対ないと思うのですが、アベンジャーズとX-MENに出ているような2人ですから、ビッグ企画が生まれたらいいですよね。無理か!? でもオマール・シーはもっとハリウッドでも成功しそうなんですよね。イギリスから登場し、ハリウッドでも大成功した黒人俳優ジョン・ボイエガが〈スター・ウォーズ〉以降は停滞気味なので、僕はボビー・オロゴン(奥さんと裁判中で大変そうですが)のように愛嬌のあるオマール・シーに期待しております。

※ベネディクト・カンバーバッチはドクター・ストレンジ役でマーベル・シネマティック・ユニバースに、オマール・シーはビショップ役でX-MENの映画に出演している