©Itaru Hirama

コロナ禍だからこそ時空を超えて繋がった、秩父とブラジルの仲間たち

 秩父を創作の場とし、我が道を進むギタリストである笹久保伸の新作『CHICHIBU』は30作目のアルバムだ。そして、これはあっと驚かされる特別な内容を持つ。

「もともとペルーの音楽(過去4年間同地で学び、現地でも13作アルバムを出している)をやってきましたが、アンデスの演奏家とかフォルクローレの演奏家とか思われるのが癪だったんですよ。それで、即興とかいろんなことをやってきて、アルバムを出しているんですけど、今回は30枚めにあたり違うものを出したいなという思いがありました」

笹久保伸 『CHICHIBU』 CHICHIBU(2021)

 新作は、全6曲収録。それらは、アントニオ・ロウレイロ、ジョアナ・ケイロス、フレデリコ・エリオドロというブラジルの新ミナス派の精鋭やサンパウロ在住の逸材歌手であるモニカ・サルマーゾ、ノンサッチ発の音響作『Satin Dall』他で評判の高い米国人サックス奏者のサム・ゲンデル(彼が参加した曲は、なんと18分強の尺だ)、感覚派シンガー・ソングライターここに極まれりと言いたくなる日本人のmarucoporoporoらと、1曲ずつ協調したトラックが収められている。

 「相手の土俵でやるのはやめようと思いました。彼らの流儀に乗るといい音楽にはなると思うんですが、それはちょっとダサいと思った。それで、あえてアルバム表題も『CHICHIBU』にしたんですけど、思いはそれだけ。彼らを秩父に引き込み、自分の土俵でやりたかったんです」

 具体的な作業は、楽曲を添付し該当アーティストに共演依頼をまずメールすることから始まった。するとすぐに、みんな快諾してきたという。

 「コロナ禍であったのは大きいです。コロナ禍にならないと、こんなにブラジル人たちとやろうという気は起きなかったかもしれない。やっぱり、ギャラ払ったりするのも大変じゃないですか。でも、コロナ禍だからみんな家にいて暇で、チャンスだと思いました」

 アルバムに収められた曲は協調者たちから帰ってきた音そのままのもので、手を加えたりはしていない。だが、そこにはリアルな即興と、絶妙な起承転結が存在していて驚かされる。

 「ほんと、みんなスキルがすごい」と笹久保は協調者を讃えるが、それを引き出したのは紛れもなく独自のパッションと美意識と技が高い次元で折り合う笹久保の楽曲/ガット・ギター演奏である。

 「クラシックや現代音楽や秩父やアンデスやいろいろな影響が僕の中でミクスチャーされたものが、『CHICHIBU』でもあります。これまで転機はいろいろあったんですが、今回のアルバムは一つの転機といえば、転機かもしれないです」

 


LIVE INFORMATION

笹久保伸 Live & Talk 会場ライヴ/生配信
2021年7月10日(土)東京・代官山 晴れたら空に豆まいて
開場/開演:17:00/18:00
http://haremame.com/