2021年7月9日から開催中のタワーレコードの〈SUMMER BREEZE ’21キャンペーン〉。同キャンペーンの一環として、シティ・ポップのコンピレーション・アルバム『SUMMER BREEZE -CITY POP- PRIME JAPANESE GROOVE』に続き、AOR編の『SUMMER BREEZE -AOR- EVERYTIME BEST SONGS』がリリースされた。
70~2000年代に世に出た名曲を横断的にセレクトした2枚組の本作は、全盛期の空気感を伝えながらもAORの新たな魅力を伝える作品だ。こういったコンピにしては珍しく貴重な歌詞対訳が付属しており、さらに福田直木(ブルー・ペパーズ)による読み応え十分な解説が読めるなど、入門者も中上級者も必携のアルバムになっている。
今回はこの夏を彩る爽やかな本作について、ソウルや〈タワレコ新宿シティ・ポップ〉を担当しているバイヤーのTANAKAHMANNが、〈ロック〉〈ヒップホップ〉〈レコード屋〉といった視点から綴ってくれた。 *Mikiki編集部
VARIOUS ARTISTS 『SUMMER BREEZE -AOR- EVERYTIME BEST SONGS(タワーレコード限定)』 TOWER RECORDS UNIVERSAL COLLECTION(2021)
〈ダサかっこいい〉も含めてAORが定着した現在
AOR=アダルト・オリエンテッド・ロック、つまり大人向けのロックという和製英語らしい。誰が言い出したかは知らないが、70年代後半ぐらいから日本の音楽業界で使われ始め、近年海外では同義語として〈ヨット・ロック〉と称される。〈ヨットに乗ってるようなヤッピーが聴く音楽〉として、ある意味侮蔑的な意味も含まれていたが、2000年代を過ぎたあたりから当時を知らない若い世代を中心にその音楽性や世界観が再発見され動画サイトを中心に拡散。いまでは〈ダサかっこいい〉部分も含めて〈チル〉や〈メロウ〉といったワードが主流となっている現行ポップスやR&B、ダンス・ミュージックを中心にインフルエンス・ソースや直接的なサンプリングねたとして定着している(シティ・ポップもまた然り)。
ロックの呪縛とクロスオーヴァー
ロックに影響されたジャズが8ビートを取り入れジャズ・ロックとなりフュージョンへと発展。そのフュージョンに影響されたソウル・ミュージックがコンテンポラリー化してモダン・ソウルやR&Bとなった。そしてそれらフュ-ジョンやR&Bに影響されたロックがブルーアイド・ソウルやAORと呼ばれるようになった。そこにディスコやらレゲエやらブラジル音楽なんかのエッセンスがモロモロ導入されて出来上がった音楽の総称がAOR。少々乱暴ですがつまりはこういう事でしょうか。
ロックに関して言うと、原始的なロックンロールがPA環境やレコーディング設備・録音技術の進歩、社会環境の変化や何よりミュージシャンの意識変革(サイケデリックってこと)を経てハードまたはプログレ化した激動の60年代後半から、内省的なシンガー・ソングライターの台頭を経て音楽的なクロスオーヴァーを重ねていった結果としてAORと呼ばれるものになった。
また面白いのは、そのAOR化したロックへのアンチテーゼとして70年代半ばから始まったパンク、ニューウェイヴが結局は同じような道程を辿っているという事。このコンピレーションで取り上げられたスタイル・カウンシルやスウィング・アウト・シスターはまさに〈ロックでなければなんでもいい〉、さらには〈激しくなかったらなおさらいい〉という逆説的なパンク精神の発露だろう。
音楽的な成熟とはまた別に、いつの時代もロック・ミュージシャンは〈ロックは激しくなければいけない〉という呪縛から逃避したがるものなのだろうか。
いまAORを語るなら一番重要なのはヒップホップ
そしていまAORを語るなら一番重要なのはヒップホップだ。ジャズ・ミュージシャンが叩く8ビートのタイム感、このループの気持ち良さを最初に発見し最大限に〈パクった〉のがヒップホップである。現在、我々が気持いいと感じるグルーヴやBPMはすべてヒップホップ(やR&B)が基準となっている。
実際、今回のコンピレーションに収められた楽曲のいくつかはサンプリングねたやヒップホップDJたちのクラシックスになっている。ヒップホップの重要な要素であるレコード・ディギングやサンプリングといった行為が、図らずもこれら過去のレガシーをリサイクルし、後世に伝えた功績はあまりにも大きい。
いまでもレコ屋は面白い!
さて最後は個人的な話を。冒頭、ネット経由で若い世代にその良さが発見されていると述べましたが、筆者の時代にそれを担っていたのはレコード屋でした。店頭のストア・プレイやPOP、購入したミックステープやディスクガイドからお気に入りの一曲を探す。ジャケ買い、おまかせ買いなんてのもありました。そして何より店員さんからのクチコミは最大の情報源でした。
いまのネット世代と同じように、自分も最初は音だけで好き嫌いを判断していました。その頃、ヒップホップの先輩や職場(タワレコね)の先輩からドヤ顔で〈知らねーの?〉と教わった曲たちがこのコンピレーションに何曲も入ってます。
当たり前ですがレコード屋の店員は音楽が好きです。そしてオススメしたいと思って店頭に立っています。もし気の合う店員さんを見つけたら、貴方の音楽ライフがいまより確実に充実するコト間違いなしです。AORだってシティ・ポップだってヒップホップだって、ロックもジャズもソウルも何でもかんでも、もっともっとオススメしたいイイ音楽が山ほどあるのです。
もしこのCDを手に取って頂いたなら、さらにその先を探しに店頭へ是非足を運んでください。
いまでもレコード屋は面白いですよ!
RELEASE INFORMATION
VARIOUS ARTISTS 『SUMMER BREEZE -AOR- EVERYTIME BEST SONGS(タワーレコード限定)』 TOWER RECORDS UNIVERSAL COLLECTION(2021)
リリース日 :2021年7月21日(水)
品番:PROI-1133/4
仕様:SHM-CD 2枚組
解説:福田直木
価格:2,640円(税込)
制作・発売:ユニバーサルミュージック合同会社
企画・販売:タワーレコード株式会社
全32曲収録/最新マスタリング/解説・歌詞・対訳付き
TRACKLIST
DISC 1
1. Rupert Holmes “Him”
2. Gino Vannelli “I Just Wanna Stop”
3. Jerry Corbetta “Sensitive Soul”
4. 10cc “I’m Not In Love”
5. Alessi “Love To Have Your Love”
6. Paul Davis “Cool Night”
7. KISS “Shandi”
8. Player “Every Which Way”
9. Rhythm Heritage “Had To Fall In Love”
10. Atlanta Rhythm Section “Spooky”
11. Skylark “Wildflower”
12. Jess Roden “Prime Time Love”
13. Randy Goodrum “Savin’ It Up”
14. Brenda Russell “Rainbow”
15. Homi & Jarvis “I’m In Love Again”
16. The Style Council “Walking The Night”
DISC 2
1. Marty Balin “Hearts”
2. Little River Band “Reminiscing”
3. Natalie Cole & Peabo Bryson “What You Won't Do For Love”
4. Nolen And Crossley “Nice To Have You Back”
5. Player “Baby Come Back”
6. Rita Coolidge “We’re All Alone”
7. Stephen Bishop “Save It For A Rainy Day”
8. The Ozark Mountain Daredevils “You Know Like I Know”
9. Pages “Come On Home”
10. Faragher Brothers “Never Felt Love Before”
11. Melissa Manchester “Looking For The Perfect Ahh”
12. Brooklyn Dreams “Make It Last”
13. Swing Out Sister “Fooled By A Smile”
14. The Style Council “Luck”
15. Michael McDonald “For Once In My Life”
16. Donny Osmond “After The Love Has Gone”