生粋のロマンティックなバラディアーとして、ジェントルな姿勢を貫くピーボ・ブライソン。ともすれば先鋭とは対極にある存在として捉えられがちな人だが……それがどうした? ジャム&ルイスと組んだ新作を機に、恐るべきソウル・スタイリストの本質を探ってみよう!

PEABO BRYSON Stand For Love Perspective/Caroline/HOSTESS(2018)

 ジャム&ルイスのプロデュースで11年ぶりとなる新作『Stand For Love』を新生パースペクティヴから発表したピーボ・ブライソン。クラシックなR&Bの復権を謳った同作でピーボが聴かせるのは、今回もその歌ぢからにフォーカスした直球のR&Bだ。が、彼のキャリアを振り返る時、まず言及されるのは、“Beauty And The Beast”(91年)をセリーヌ・ディオンと、“A Whole New World”(92年)をレジーナ・ベルとそれぞれデュエットし、「美女と野獣」や「アラジン」というディズニー映画の主題歌を担当した経歴だろう。そもそもピーボがこうした場面で重用されてきたのは、過去にナタリー・コールやロバータ・フラックといった歌姫たちとの共演が成果を上げたからで、とりわけロバータ・フラックとの“Tonight I Celebrate My Love”(83年)は愛のロマンスを歌うバラディアーとしての地位を揺るぎないものとした。

 では、なぜピーボがロバータのデュエット・パートナーとなったのか。それはピーボのヴォーカルがロバータの相棒であったダニー・ハサウェイを彷彿させるから……だとされる。ダニーの急逝(79年1月)を受けてロバータのライヴに参加したピーボは、そのライヴ音源を収めたロバータとの共同名義作『Live & More』を80年に発表。もともとサム・クックやマーヴィン・ゲイに憧れていたピーボがダニーを意識していたかどうかはともかく、深みを湛えながら天に駆け上がっていくような力強く伸びやかなテナー・ヴォイスは、これぞソウルフルと呼びたくなるもので、そのスキルはR&B界屈指と言っていい。

 本名ロバート・ピーボ・ブライソン。サウスキャロライナ州グリーンヴィルにて1951年に生まれたピーボは、14歳だった65年に地元のグループ、アル・フリーマン&ジ・アップセッターズの一員として活動を始めた。68年からは同郷の名匠モーゼス・ディラードが率いるザ・テックス・タウン・ディスプレイのシンガーに抜擢されているのだが、つまりピーボは10代の頃からプロとして活躍していたのだ。初のソロ・シングルは75年にシャウトから出した“Disco Queen”というディスコ・ソングで、ほぼ同じタイミングでマイケル・ゼイガー&ザ・ムーン・バンドの“Do It With Feeling”(75年)にもリード・ヴォーカリストとして参加。これがアトランタのバングから出されていたこともあり、76年にはその傍系であるバレットからシングルとデビュー・アルバム『Peabo』を発表する。LA、アトランタ、マッスル・ショールズの名リズム・セクションに加えてルーサー・ヴァンドロスをバック・ヴォーカルに従えたデビュー作では、同年生まれのルーサーよりも早くソロ活動を謳歌していたのだ。そんなピーボをキャピトルに招き入れたのが、後にCBSのA&Rとしてルーサーとソロ契約を結ぶラーキン・アーノルドだったというのだからおもしろい。

 キャピトルでは、リチャード・エヴァンスをブレーンに迎えてシカゴで録音した77年作『Reaching For The Sky』の表題曲が初めてR&Bチャート10位内に入り、後にテディ・ペンダーグラスがステファニー・ミルズと歌う“Feel The Fire”もヒットして、その名は全米に知れ渡る。続く78年作『Crosswinds』ではジョニー・ペイトと組み、ここからは情熱的なスロウの“I'm So Into You”がR&Bチャート2位を記録。親しみやすくもマチュアなこれらの曲はすべてピーボの自作で、鍵盤などを操る彼のマルチ・クリエイターぶりも初期の頃から発揮されていた。

 その後、キャピトルではナタリー・コールやロバータ・フラックとの共演盤も含めて80年代前半まで作品をリリース。80年代中~後期のエレクトラ時代には、ロバータとの共演の流れでマイケル・マッサーと組んだ“If Ever You're In My Arms Again”がポップ・チャートでも人気を集めるが、そこでもR&Bとしての濃密さが失われることはなかった。アル・ウィルソンのカヴァー“Show And Tell”が初のR&Bチャート1位を記録したキャピトル復帰作『All My Love』(89年)では音色こそ当時らしい打ち込みながらニュー・ジャック・スウィング(NJS)のブームには乗らず、クワイエット・ストーム路線を貫いたこともいま思えば正しい選択だった。コロムビアから91年に放った『Can You Stop The Rain』の表題曲もド直球のバラードで、NJS全盛期にこの曲がR&Bチャート1位に輝いたことには改めて自信を深めたに違いない。一連のディズニー曲はこの直後のことで、以降ピーボはクラシックやジャズなどにも活躍の場を広げていくが、ソロ作ではバリー・イーストモンドやヘヴィーウェイツらと組んだ2007年作『Missing You』まで正統派のR&Bを歌うことに徹してきた。

 そんなキャリアを踏まえ、ジャム&ルイスが一派のジョン・ジャクソンを従えて手掛けたのが、今回の新作『Stand For Love』となる。ジャム&ルイスお得意の手法でディズニー主題歌など過去曲を匂わせるアプローチがあったり、小柳ゆきとデュエットしていたバラードのセルフ・カヴァーも含むなか、ブギー系ダンサー“All She Wants To Do Is Me”や90s風のスロウ“Love Like Yours And Mine”はこれぞR&Bといったスタイルで、リトル・アンソニー&ジ・インペリアルズの曲を引用したアップの表題曲ではジャヒームのような勇ましい歌を聴かせる。他にもシャーデーへのオマージュやゲイリー・クラークJr参加の実直なバラードが登場し、最後には70~80年代のヒット・メドレーとなる2018年のライヴ音源(シャンテ・ムーアとのデュエットを含む)を収録。それらをオリジナルと聴き比べてみれば、ヴォーカルが当時のままの艶を保っていることに気づくだろう。ずっと絶頂のまま突き進んできたピーボには〈黄金期〉というものが存在しない。いまこの時が彼にとってのベストなのだ。

ピーボ・ブライソンの参加作を一部紹介。

 

関連盤を紹介。

 

日本勢との縁が深いピーボの存在感

 先だってもアリアナ・グランデ&ジョン・レジェンドが歌った“Beauty And The Beast”など、ディズニー歌曲を通じてのピーボの人気が世代も国境も越えるのは言うまでもないが、日本のある世代にとっては往年の小柳ルミ子と大澄賢也が歌い踊った曲として“Tonight, I Celebrate My Love”も馴染みがあったかもしれない。気恥ずかしいほどベタな甘さを極めた同曲のイメージは、ロマンティックなピーボのわかりやすさを浸透させたことだろう。

 そんなこんなで(?)ピーボは日本のアーティストとも積極的に絡んできた。ディズニー特需前の91年に杏里と“Voice Of My Heart”で共演しているのは例外的だが、中西圭三との“What I Do For LOVE”(97年)をはじめ、倖田來未とはかの“A Whole New World”(2006年)を披露、ライヴ音源となるKの“Bridge Over Troubled Water”(2007年)、石井竜也の“WALKING”(2010年)、小柳ゆきの“Here For You”(2014年)など、日本作品への登場はかなり多いほうだろう。また、久保田利伸の英詞カヴァー集で“夜に抱かれて”を歌ったり、宇多田ヒカルのトリビュート盤ではジャム&ルイスと組んで“Sanctuary”を披露してもいる。何やら無節操のようではあるが、それが新作の取っ掛かりになっていたり、同作では“Here For You”をセルフ・リメイクしてもいるから流石なのである。 *出嶌孝次

関連盤を紹介。

 

ESSENTIALS
ピーボ・ブライソンの定盤

MOSES DILLARD,THE TEX-TOWN DISPLAY Now! Tex-Town/ヴィヴィド(1969)

まだ10代だったピーボの貴重な記録。サザン・ソウルの名匠でギタリストでもある同郷のモーゼス・ディラード率いるバンドがカートム移籍前に出したこのアルバムで、ピーボは2曲を歌っていた。アレサ・フランクリン版で知られる“Cry Like A Baby”での力強いテナー、バラードの“Bring Your Dreams To Me”でのエモーショナルな歌声は青くも深みに溢れている。 *林

 

PEABO BRYSON Ballads Capitol(2013)

キャピトル移籍後の1~2作目『Reaching For The Sky』(77年)と『Crosswinds』(78年)および、キャピトル復帰作『All My Love』(89年)は現在入手困難なので、初期の代表的なヒット“Feel The Fire”や“I'm So Into You”、初めてR&Bチャートを制した“Show & Tell”などはこの編集盤で。歌声が成熟へ向かう過程と、完成されて洗練を極めていく姿という両方の魅力が味わえる。 *出嶌

 

NATALIE COLE Icon: Natalie Cole Capitol(2013)

ピーボがロバータ・フラックのパートナーに抜擢された理由は、ナタリー・コールとのデュエット作品『We're The Best Of Friends』(79年)の成功による部分も大きいかもしれない。ピーボの裏方としての手腕も示した同作から、このナタリーのベストには“What You Won't Do For Love”を収録。ボビー・コールドウェルの原曲をリッチに響かせたアレンジャーとしての有能ぶりたるや。 *出嶌

 

PEABO BRYSON Paradise Capitol(1980)

デュエットに力を入れていた時期のソロ作。ジョニー・ペイトとの共同プロデュースで、冒頭から安定のテナー・ヴォイスを聴かせる。とりわけ“I Love The Way You Love”や“I Believe In You”といったラヴ・バラードにおけるスケールの大きい歌い込みは流石。ドゥービー・ブラザーズの“Minute By Minute”を歌うAORシンガー然とした佇まいにも違和感はない。 *林

 

ROBERTA FLACK,PEABO BRYSON Live & More Atlantic(1980)

ダニー・ハサウェイの急逝後、ロバータ・フラックのデュエット相手を務めたピーボ。ライヴ音源とスタジオ録音曲から成る本作での彼は、ロバータ&ダニーの名曲再演のほか、“Feel The Fire”や“Reaching For The Sky”といったソロ曲も披露。バラードの“Make The World Stand Still”など、ふたりの共作による新曲でもダニーに匹敵する歌唱で情熱的に迫る。   *林

 

PEABO BRYSON I Am Love Capitol(1981)

この時期の童顔ぶりを見ているとケンドリック・ラマーを思い出してしまうのはさておき、本作からは劇的な後半の盛り上がりがたまらないバラード“Let The Feeling Flow”がヒット。当然のようにスロウの占める割合は多いものの、ゴスペル仕立ての“Impossible”などその意匠は多彩だ。陽気なグルーヴに乗る“Love Is On The Rise”など数少ないアップ・ナンバーも印象的に響く。 *出嶌

 

PEABO BRYSON Don't Play With Fire Capitol/PTG(1982)

ピアノの前でポーズをとるジャケットが示すように、ソングライティング/プロデュースのほか、リズム&管弦アレンジや鍵盤演奏も自身で行い、マルチぶりを発揮した一枚。むろん歌の濃度はいつもと変わらず、“Give Me Your Love”のようなスロウをじっくりと歌い込む。ジョーンズ・ガールズのブレンダがバックで歌う滑らかなアップの表題曲も快演だ。 *林

 

PEABO BRYSON,ROBERTA FLACK Born To Love Capitol(1983)

ピーボがロバータを招く形になってのデュエット作第2弾。バート・バカラック&キャロル・ベイヤー・セイガー、ボブ・クルー&ボブ・ゴーディオらポピュラー界の名匠たちが揃った豪勢な一枚で、マイケル・マッサー&ジェリー・ゴフィン作の“Tonight, I Celebrate My Love”はピーボの包容力に満ちた歌声を印象づける世界的なヒットに。80年代きってのデュエット盤だ。 *出嶌

 

PEABO BRYSON Quiet Storm Elektra(1986)

80年代中期のムード満開なタイトル通りのクワイエット・ストーム盤。盟友ドゥワイト・ワトキンスを共同プロデューサーに迎え、ロビー・ブキャナンとダイアン・ウォーレンが書いた“Somebody In Your Life”などのアップも挿みつつ、情熱的にして抑制の利いたヴォーカルを聴かせる。自身のペンによる傑作ミディアム“Catch 22”での快活な表情もたまらない。 *林

 

PEABO BRYSON Positive Elektra/Wouded Bird(1988)

アニタ・ベイカーの『Rapture』(86年)よろしくマイケルJ・パウエルやサー・ガントを制作/演奏に招いたアーバン・ソウル集。マンハッタンズ版に匹敵する“Hurt”やギャリー・グレンがペンを交えたアップ“Crazy Love”がとにかく素晴らしい。ビル・コスビー主演映画「Leonard Part 6」の挿入歌となったレジーナ・ベルとの“Without You”はディズニー映画曲の前ぶれか。 *林

 

ANGELA BOFILL Intuition Capitol(1988)

アンジェラ・ボフィル唯一のキャピトル盤となる本作に、同社と再契約したばかりのピーボがデュエット相手として参加。ノーマン・コナーズが手掛けたうちの一曲“For You And I”はピーボの歌が際立つアダルトなラヴ・バラードで、これもディズニー曲の前哨戦と言える仕上がりだ。淑やかに寄り添うアンジェラも好演。後に池田聡の日本語カヴァーも登場している。 *林

 

PEABO BRYSON Love & Rapture: The Best Of Peabo Bryson Columbia(2004)

初のR&B首位に輝いた『Can You Stop The Rain』(91年)とディズニー・ヒットも含む『Through The Fire』(94年)という、太く短いコロムビア時代の2窄から選曲したベスト盤。ウォルター・アファナシエフやデヴィッド・フォスターらに音作りを委ねて歌い手に徹した曲が多く、安定感は抜群。チャカ・カーンのカヴァー“Through The Fire”なども聴きモノだ。 *出嶌

 

FOURPLAY Elixir Warner Bros.(1995)

R&Bシーンの様相が切り替わった90年代以降、フュージョン~スムース・ジャズ方面にも活躍の場を広げていったピーボ。ケニーGとのコラボあたりの甘さも印象的だが、注目は今作でパティ・オースティンと共に披露した“The Closer I Get To You”だろう。かつてロバータ・フラックとダニー・ハサウェイが歌った名曲を、久々にダニーに成り代わって渋く歌い込んでいる。 *出嶌

 

残暑へ向けてのリイシュー

THE WHISPERS One For The Money/Open Up Your Love/Headlights Robinsongs(2018)

THE WHISPERS Whisper In Your Ear/The Whispers/Imagination Robinsongs(2018)

 1か月休んだのでいろいろ出てはいますが、そこまでスペースがないのはいつも通りです。まずは、3in2で復刻の続くソーラー音源から、ウィスパーズが76~78年に残した3タイトルのセット『One For The Money/Open Up Your Love/Headlights』(Robinsongs)を普通に推薦。“One For The Money”“Make It With You”のヒットが生まれたこの時期がソウル・トレイン~初期ソーラーのまとめだとしたら、79~80年の3作をコンパイルしたもう1セット『Whisper In Your Ear/The Whispers/Imagination』(Robinsongs)は天才リオン・シルヴァーズ3世との化学反応を楽しみたい名曲集でしょう。グループ初のNo.1ヒットとなった“And The Beat Goes On”(80年)をはじめ、黄金期を迎えつつあったソーラーの日の出の勢いを追体験できます。

THE O'JAYS Serious EMI America/Expansion(1989)

 続いてはこちらもグループもので、最初のCDリリースから復刻がなかったと思われるオージェイズの89年作『Serious』(EMI America/Expansion)をオススメ。当時すでに大ヴェテランだった彼らですが、ニュー・ジャック・スウィングに挑んでR&Bチャート首位を奪取した“Have You Had Your Love Today”(ビッグ・ジャズがラップで客演)など、エディ・リヴァートの熱唱はまだバリバリの頃。息子のジェラルド・リヴァートらの援護によって若返った楽曲が揃っています。

CAROL WILLIAMS Reflections Of Carol Williams Quality/BBE(2018)

 最後はいきなりディスコ方面で……サルソウルで活躍したキャロル・ウィリアムズがトニー・ヴェイラーを後ろ盾に放った2作目『Reflections Of Carol Williams』(Quality/BBE)の26年ぶりだというCD化。快い軽さがイマっぽい一枚です。 *出嶌孝次