卓越したギター・プレイとヴォーカルの魅力で知られる、シンガー・ソングライター/ギタリストのReiさん。彼女が〈今これしか聴いてない!〉というイチオシの音楽を月ごとに紹介する連載が、この〈Rei’s REPEAT REPEAT!〉です。

第4回となる当記事でReiさんが紹介するのは、米カルフォルニア出身のシンガー・ソングライター、スティーヴン・ビショップ(Stephen Bishop)が76年にリリースしたデビュー・アルバム『Careless』です。そのメロウで心地よいサウンドからしばしばAORの名盤としても語られる『Careless』の、何度聴いても飽きが来ない魅力の源泉をミュージシャンならではの細やかな視点で紐解いてくれています!

あなたもこれを読んで『Careless』を聴き、この夏に溜まった疲れを癒してはいかがでしょう? *Mikiki編集部

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Prod. by Sunny Sunny Club

今月はこれしか聴いていない。わたしは音楽も、映画も、食べ物も、一度ハマると狂ったようにそれをリピートする癖があるようだ。みなさんも現実が息苦しい時ほど、すがるような気持ちで音楽を繰り返し聴く経験が少なからずあるのではなかろうか。

シンガー・ソングライター/ギタリストのReiです。当連載〈Rei’s REPEAT REPEAT!〉ではわたしがついつい繰り返し聴いてしまう、個人的バズり盤を紹介していこうと思います。

今月はスティーヴン・ビショップのアルバム『Careless』しか聴いていない。

わたしが勝手にスッティーと呼んでいるこのスティーヴン・ビショップは、70年代に活躍した伝説的なシンガー・ソングライター。御年69歳になる。カルフォルニア生まれのソフト・ロックの代名詞的な存在であるスッティーは、幼い頃に「エド・サリヴァン・ショー」で見たビートルズに憧れ音楽を始めた。デビューを夢見て、LAに移り住んだが、なかなか契約にたどり着けない日々の中で、あのアート・ガーファンクルにデモテープを聴いてもらったことをきっかけにソロ・アーティストとして日の目をみた。その時のファースト・アルバムがこの『Careless』。彼にとってヒットも含んだ華々しいデビュー・アルバムになったのと同時に、彼のキャリアの代表作となった。その後はエリック・クラプトン、デヴィッド・クロスビーなどにも曲提供。ソングライターとしても功績を残している。

『Careless』収録曲“Careless”
 

とにかく、この人はいかにも育ちがいい感じがする。〈いいとこの子〉という表現があるが、まさにそんな感じ。濃縮還元ではない、モノホンのピュアネス100%なのだ。

サウンド作りにおいては、アコースティック・ギターの音ひとつとっても、スッティーの繊細さがにじみ出ている。”Never Letting Go”と“Careless”は両方アコースティック・ギターから始まる楽曲。前者は〈君との思い出をどんなことがあっても離さない〉という静かでやさしい決意の曲。後者は〈無神経な僕はなぜ君を傷つけてしまうんだろう〉という後悔と反省の曲。それぞれの歌詞や、後から重なってくる楽器編成に見合った音作りだとわたしは感じた。同じ楽器でも音の棲み分けが丁寧にされていると、プレイヤーとしてはぐっときてしまう。

さらにコーラスではアート・ガーファンクルやチャカ・カーンも参加。アルバム全曲を通して、素晴らしいコーラス・ワークと、アートの影響もあってかサイモン&ガーファンクルを彷彿とさせるアレンジが散りばめられているのも聴きどころのひとつだ。

『Careless』収録曲“Save It For A Rainy Day”
 

“Save It For A Rainy Day” の忙しないハイハットにちょこっと笑ってしまうわたしを許してほしい。かわいらしさとユーモアも兼ね備えたこの曲は、スッティーの代表曲となったアルバムのヒット・チューン。管楽器が歌の存在感を凌駕していない完璧なミックス、〈俺様感〉半端ないギター・ソロはエリック・クラプトン。このアルバムはエリック始め、とんでもないメンツのそろった制作陣なので、フィジカルで買ってぜひクレジットも楽しんでほしい。

何よりもすごいのが、濃い味メンツの強力なバンドやスタッフを背負ってもなお、スティーヴン・ビショップの音楽はスティーヴン・ビショップを叫んでいることなのである。彼の慈愛に満ちた、やさしい声と言葉。弱さも傷ついた姿も素直に表現できてしまう器の大きさと、きっとおいしい果物をたくさん食べて来たんだろうな、と思わせるジューシーなメロディーセンス。自然とみんなから愛されている姿が目に浮かぶ。

〈Rei’s REPEAT REPEAT〉第4回、いかがだっただろうか。一生聴くであろうすばらしいアルバムである。いい音楽は廃れない、を体現する傑作だ。

Prod. by Sunny Sunny Club

わたしReiも普遍的な音楽作りを目指している。この機会に最新の弾き語り動画を目撃してほしい。

Reiの2020年作『HONEY』収録曲“What Do You Want?”のプレイヤーズ・カット映像
 

 


LIVE INFORMATION
Reiny Friday -Rei & Friends- Vol.12

2021年10月15日(金)東京・有楽町 ヒューリックホール東京
2021年10月22日(金)大阪・梅田 CLUB QUATTRO

■チケット
料金:5,500円
一般発売:2021年8月28日(土)
販売窓口:https://eplus.jp/rei/

■出演
Rei
ゲスト:藤原さくら

■公演に関する問合せ先
東京公演: HOT STUFF PROMOTION(TEL: 03-5720-9999)
大阪公演:サウンドクリエーター(メール:https://www.sound-c.co.jp/contact/

 


PROFILE: Rei

卓越したギター・プレイとヴォーカルをもつ、シンガー・ソングライター/ギタリスト。幼少期をNYで過ごし、4歳よりクラシック・ギターをはじめ、5歳でブルーズに出会い、ジャンルを超えた独自の音楽を作り始める。
2015年2月、長岡亮介(ペトロールズ)を共同プロデュースに迎え、ファースト・ミニ・アルバム『BLU』でCDデビュー。
〈FUJI ROCK FESTIVAL〉〈SUMMER SONIC〉〈RISING SUN ROCK FESTIVAL〉〈SXSW Music Festival〉〈JAVA JAZZ Festival〉〈Les Eurockeennes〉〈Heineken Jazzaldia〉などの国内外のフェスに多数出演。2017年秋、日本人ミュージシャンでは初となる〈TED NYC〉でライブ・パフォーマンスを行った。
2021年2月26日、初の海外デビュー盤となる『REI』をアメリカNYに本拠地を置くVerve Forecastよりリリース。