『LOVEBEAT』『POINT』『red curb』――タイムレスがキーワードだった2001年

――制作当時のことをお訊きします。『LOVEBEAT』は電気グルーヴを辞めてから初めて出したアルバムですね。

「それまでのソロは、バンドがあるからバンドとの対比というか、バンドはこうだから自分はこう、みたいに考えますよね。それがまったくないところでいきなり作らなきゃいけないわけですから、いままでのとはちょっと違う、ということを考えたのを覚えています。自由といえば自由なんだけど、やりやすいかどうかはわからないな……と」

――それまで積み上げてきたソロとしての実績もあるわけですよね。そこでこのアルバムを作るときに意識していたことはなんですか。

「時代の移り変わりもありますよね。2000年から2001年ぐらいにわりと大きな区切りがありましたから、それに影響されて人びとの考え方も急激に変わっていく可能性があると思ってました。自分もそういうのはあったかもしれないですね。ここはスパッといままでのことを全部切り捨てていくほうがいいかも、と思ったことは覚えています。

90年代の音楽シーンはかなりいい雰囲気だったと思うんですよ。CDの売り上げもピークだったし、活発だったし盛り上がってたし、みんな楽しかったと思うんです。だけど、その楽観的な感じで今後ずっとやっていけるかといえば、それは絶対にないだろうなと。だからそこは切り捨てて、もうちょっと違う価値観やスタンスでやろうというのはありましたね」

2001年作『LOVEBEAT』 オリジナル版
 

――Corneliusの『FANTASMA』が97年で、砂原さんの『TAKE OFF AND LANDING』が98年。この2作はまさにそういう音楽シーンがよかった時代のまっただなかにリリースされたアルバムで。それぞれの次作の『POINT』と『LOVEBEAT』が同じ2001年のリリース。その変化の仕方は呼応しているように思えます。

「実際に小山田くんとよく会って話もしてましたから(笑)」

――情報万能主義みたいなものへの懐疑というか。

「はいはいはい。『LOVEBEAT』と『POINT』はまさにそうですね」

Corneliusの2001年作『POINT』収録曲“Point Of View Point”
 

――当時の砂原さんのインタビューでも、音楽をたくさん聴いていて詳しい人にしかわからないようなものは作りたくない、と言ってます。その結果が『LOVEBEAT』だと。

「それは本当にそうだと思います。たとえば何かの引用のおもしろさみたいなことを90年代は大事にしていた。ここでビートルズみたいなギターを入れて、一部の音楽マニアを喜ばせるみたいな、そういうおもしろさはもういらない。情報をたくさん持っている人が偉い、みたいな価値観じゃなく、もっと素に帰って単純に楽しめるものを作りたいと思ってましたね。幼い子供でも楽しめるようなものを」

『LOVEBEAT』表題曲オリジナル版
 

――『LOVEBEAT』は、サウンド自体もすごく音数が少なくなってます。過剰に情報を詰め込む方向性から脱したいという思いがあったわけですか?

「ありましたね。なんでも反発みたいなものは起きますよね。派手なのが流行れば、そのあとシンプルなのが流行ったり、太いズボンが流行ったあとは細いズボンが流行ったり。だから前作からの反動は絶対にあったと思うし、それが90年代から2000年代への時代の移り変わりとかそれに伴う価値観の転換みたいなものと、密接に結び付いていたんだと思います」

――前作『TAKE OFF AND LANDING』は〈空港〉という明快なテーマとコンセプトがあったけど、『LOVEBEAT』はタイトルも抽象的になっています。自分の音楽への向かい方も変わってきた?

「そうですね、一回整理しようって感じだったと思います。いまは〈断捨離〉みたいな言葉がありますけど、それに近いことをやったという。内面的にも、フィジカルな部分でも」

――音楽を時代性みたいなものから解き放って、もっと普遍的でタイムレスなものにしたいという思いも?

「はい、それはあったと思います。ただその〈タイムレスにしよう〉という考えが、この界隈の、そのときの時代感になっちゃったんですよ(笑)」

――タイムレスにしようという流行(笑)。

「そういうことです(笑)。小山田くんと僕、あとはrei harakamiくんみたいな人も出てきて、もっと独自な、流行に左右されないことをやりはじめた。この年ってハラカミくんの『red curb』、小山田くんの『POINT』、そして『LOVEBEAT』なんですよ」

rei harakamiの2001年作『red curb』収録曲“the backstroke”
 

――おお、なるほど……。

「その3つがあったことで、〈タイムレスの流行〉みたいなことが起きたんですよ(笑)」

――タイムレスをめざしながらも、その時代の刻印みたいなものは確実にある。

「あったと思います。いま聴くとあると思いますね」

――それは何ですか。

「それはねえ……その時代に作ってると、そうなっちゃうってことなんですよね、結局。逃れられないものがあるよなって」

――今回の〈最適化〉作業をやっていて、どこにそれを感じました?

「なんだろうなあ……自分ではちょっとわかんない。わかんないけど、でもなんかありますね。音と音のタイミングの取り方とかエフェクトのかけ方とか抽象的な表現になっちゃうんだけど……」