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インタビュー

砂原良徳が語る『LOVEBEAT』とその時代、リマスター盤〈Optimized Re-Master〉で何を変えたか

砂原良徳『LOVEBEAT 2021 Optimized Re-Master』

Photo by Miyu Terasawa
 

砂原良徳のソロ・アルバム『LOVEBEAT』(2001年)は、今年でリリース20周年を迎えた。それを記念して砂原自身がリミックス&リマスターを手がけた『LOVEBEAT 2021 Optimized Re-Master』がリリースされる。

21世紀の開幕とともに、それまでの90年代的なマナーから決別した砂原の新しいモードを提示した『LOVEBEAT』は、その簡潔かつ優美なエレクトロニック・サウンドで、現在に至るまで極めて高い評価を得ている作品だ。その〈完璧〉とも思えた名盤が、2021年という時代を迎え、いかに〈最適化(Optimized)〉されたか、そもそもオリジナル版はどんな意図をもって作られ、時代の流れのなかでどんな位置づけにあったのか。筆者は20年前のオリジナル・リリース時にも砂原にインタビューを行っているが、そのときの内容もふまえ、あらためて本作の持つ意味について訊いてみた。

ちなみに〈Optimized Re-Master〉の音質は、〈一聴してすぐわかるぐらいの大きな変化〉だったことを記しておく。

砂原良徳 『LOVEBEAT 2021 Optimized Re-Master』 Sony Music Direct(2021)

『LOVEBEAT』はアナログとデジタルの端境期に生まれた

――自分の作品でマスタリングまで全部やったのは、今回のリマスター盤が初めてということになるんですか?

「コラボ作品とか劇伴とかでは自分でやってるのもありますね。自分単独の作品で全部自分がやったのは初めてです」

――常々自分で全部やると客観性がなくなるから、マスタリングは人に委ねるようにしている、とおっしゃってましたよね。そこらへんの心境の変化はあったんでしょうか。

「いえいえ、『LOVEBEAT』については、時間がたったので客観的になれるだろう、という考えだったんです。でも実際のところ、そんなに客観的にはなれなかったですねえ(笑)。結局ハマって中に入り込んでしまって。客観性を持つのは20年たっても難しいんだなっていう」

――前にベスト盤『WORKS '95-'05』(2007年)を出したときに『LOVEBEAT』の収録曲の一部がクリス・ゲーリンジャーの手でリマスターされましたよね。

「はいはい。あのとき、マスタリングだけではどうにもならない部分があるなって、正直ちょっと思ってしまったんですよね」

――それはどういう?

「えーと……『LOVEBEAT』を出したときって、ちょうどアナログとデジタルの端境期だったんですよ。コンピューターがレコーダー代わりに使えるようになったから、みんな商業スタジオをやめて自分の作業場を作ったりしはじめて。CDもちょっとずつなくなっていくんだろうなって感じになった。そういう移り変わりのタイミングだったし、確か『LOVEBEAT』の何か月後かにiPodが発売されるんですよ(2001年11月17日、『LOVEBEAT』は同年5月23日発売)。

その頃、僕もコンピューターをレコーダーとして使うようになりつつ、『LOVEBEAT』の制作は自分のなかで迷いがあったんです。デジタルの大きな波が来てそれに飲み込まれちゃって、アナログのセオリーとデジタルのセオリーがどっちつかずになった部分がちょっとあった」

――5年前に砂原さんにインタビューしたとき、〈当時は音に納得していなくて、デジタルで作ったものを一度アナログ・テープに録音して、音をなじませたものをマスターにしましたね〉とおっしゃってました。

「そうなんです(笑)。まさにそのエピソードが象徴的なんですけど、そのときはデジタルの音にイヤな癖があったので、それを隠すためにアナログ・テープに録ったんです。アナログ・テープを通すと良い部分もあるし、ダメな部分もある。ダメな部分は、やっぱり甘くなるし、音がドン!と止まったときにちゃんと止まった感じがしない。けど、デジタルのトゲトゲしすぎな部分が少し曖昧に、丸くなって聴きやすくなるということもある。

でも、いまはデジタルの音も良くなったから、アナログ・テープに録るなんて、よっぽどのことがないかぎり思わなくなりました。音が曖昧になりますからね。そういう意図があるならいいですけど、完全にコントロールしたいと思ったらデジタルのほうがコントロールしやすい。アナログって自然のランダムに任せるというか運に任せるようなところもあるので」

――なるほど。

「あと、音像の作り方にも流行がある。その頃はまだ低音のコンプレックスが強かったんです。低音がちゃんと出てないとダメで、歪まずにいっぱい低音を出せているヤツがいちばんケンカが強い、みたいな風潮があった。カーレースで言えば、スピードマックスでコーナーに突っ込んでうまくすり抜けることがレーサーとして優れている、みたいな。でもそれで事故る=歪んだら意味がない。コーナーが遅くても要はレースに勝てばいいわけで、そこは若さ……みたいなものもが出てしまったかな……」

――つまりいまの耳で聴くと低いところが出過ぎていると?

「そうですね。ちょっと無理がある」

――それは、単にマスタリングをやり直すだけでは解決できない?

「できないです。今回やってみて、できないと思いました。自分の作品のなかでも、マスタリングをやり直せばOK、というものと、それだけではOKにならないアルバムがありますね。『THE SOUND OF ’70s』(98年)はリマスターだけでいいけど、『TAKE OFF AND LANDING』(98年)を再発するなら、ミックスもやり直さないとダメでしょうね。あれも低音がいっぱい入ってて、歪まないで入れることにこだわりすぎていた。しかもそれが上手くいくものだから調子に乗ってるっていうきらいがありますね」

98年作『TAKE OFF AND LANDING』
 

――たとえば一時、ビリー・アイリッシュのファースト・アルバム『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO』(2019年)みたいにサブ・ベースで低音をすごく強調することが流行ったでしょ。あれとはまた違うんですか。

「ああ、それでも良かったと思うんですけど、当時の技術では、自分はそれをできなかった。だから、量を盛ることでそう見せるというか。いまのスーパー・ローみたいなものって、プラグインとかエフェクターの処理のアルゴリズムに依存してるところが多いと思うんですけど、当時はそこまで優れてなかったから、自分の手でやるしかなかったんです。だけど、それがうまくできてるかっていうとできてない。いまは、かければなんとなくできちゃったりする」

――機材面の進歩が大きい。

「相当大きいですね」

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