ジャズピアニストとして、そして熱きメタラーとして知られる西山瞳さんによるメタル連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。2022年最後の更新になる第59回は、年末の特別企画として、連載で未紹介だったものの印象的だった作品について。ついに封印が解かれ、1年2か月ぶりに連載に登場するあのユニットのことも……。西山さん、今年も1年間、本当にありがとうございました! *Mikiki編集部
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2022年も終わりに近づき、各所で年間ベストが発表される時期になりました。
今年も沢山音楽を聴きました。
毎年、この一年で良かった3枚ぐらいなら挙げることができるのですが、最近聴いたものが一番良かったりする優柔不断なので、今回は今年聴いて印象に残ったけれど記事で触れてこなかった作品を挙げてみます。
Ozzy Osbourne『Patient Number 9』
前作はコロナ禍に入ったぐらいの時期にリリースされましたが、こちらの連載でもレビューを書きました。
いやー、またもや傑作です。
全曲シングルカットしていいレベルで、各曲が濃い。全部がハイライトみたいな状態です。
聴いていて思い出したことですが、あるジャズの大先輩が、以前参加していたバンドについて、「1時間のステージを3曲で構成するんだけど、いつも曲の並びが全部〈肉、肉、肉〉なんだよね。リーダーの体調が良くない時だけ、〈肉、チキン、肉〉なんだよ。」とおっしゃっていたのですが、このオジーのアルバムは、最後のエンディング的な一曲を除いて、全部肉です。野菜どころかチキンも入らない。
今作はジェフ・ベック、エリック・クラプトン、ザック・ワイルド、トニー・アイオミと、ゲストの豪華さが目を引きますが、前作に引き続き、メタルの元祖でありながら全く古くならず、オジーらしさ全開なのに現代的。オジーがやっていることは基本的に昔からそんなに変わっていないと思うのですが、プロデューサーとの相性がとても良いのでしょうか、現代的な音使いとのミックスが本当にセンス良く、〈ぶれないけれど、頑なでもない〉を実現し、サウンドを前進させています。
どこかトリックスター的な、凡人には想像できない自由さと滑稽さ、そして人懐っこさ。いつまでもオジーに翻弄されるのが気持ち良いですね。
好きな曲が聴くたびに変わるので、挙げるのも難しいですが、今は“Parasite”かな。
The Smile『A Light For Attracting Attention』
メタルではないのですが、トム・ヨーク、ジョニー・グリーンウッド、トム・スキナーによるバンド、ザ・スマイルは、ちょっとした事件でした。
そのデビュー盤『A Light For Attracting Attention』は、世界の音楽ファンが注目したでしょう。
私自身は、90年代の高校生メタラーだった時期、辛気臭いレディオヘッドは嫌いでした。でもなぜか『OK Computer』(97年)は持っていました。
その後、現代最高峰ジャズピアニストのブラッド・メルドーがレディオヘッドの楽曲を取り上げていたりして、その演奏が素晴らしかったので、曲として多少興味を持ったことはあります。
それでもレディオヘッドは全く好きじゃなかったんですが、昨年末に映画「パワー・オブ・ザ・ドッグ」を観て、ジョニー・グリーンウッドの音楽があまりにも素晴らしかったので、今年ジョニー・グリーンウッドに着目して、参加作、劇伴と、レディオヘッドを全部聴き直したんです。
そうすると、あら不思議、2周回ったら好きになっちゃった。昔好きじゃなかった、モヤモヤしている感じが心地よい。まなざしがちょっと違うところを向いているのが良い。長く聴いていると、好みがひっくり返ったりするのも楽しいですね。
ということで、ザ・スマイル『A Light For Attracting Attention』は、非常に楽しみました。
揺らぎと肌触りが本当に気持ちよい。決して正解を出そうとしていないというか、流れに身を任せる心地よさがあります。ドラマーがジャズ系なので、聴きやすいのもあると思います。
12月14日には今年7月に開催された〈モントルー・ジャズ・フェスティバル〉でのライブ盤『The Smile (Live At Montreux Jazz Festival, July 2022)』が配信リリースになり、ライブ映像もYouTubeで2日間限定で公開され、私も観ましたが、一番印象に残った曲“Bending Hectic”が、配信アルバムに入っていない。これはいつか、リリースがあります、よね……?