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海外への発信を意識したインターナショナルな雰囲気

「今回Wind MusicはカナダのSmall World Musicと組んでやったらしいんですね。だからカナダ拠点のバンドも2組、パフォーマンスが披露されました。

他にも、台湾拠点のバンドからもインターナショナルな雰囲気を感じましたね。バンドGroove Stationのドラマーはブラジル出身のアドリアーノ・モレイラ(Adriano Moreira)という人なんですけど、台湾でいま引っ張りだこです。ボーカルがコロンビア、ギターがブラジルの出身で、ピアノとベースは台湾人。このような台湾人と外国人のミックスバンドもあり、もちろん台湾人だけのバンドもあるし、という風にグラデーションがすごいですよね」

Groove Station

理咲「台湾に住んでいる外国人ミュージシャンは多いのですか?」

「僕の肌感ですけど、音楽活動をしている外国の方は結構多いですね。台湾は最近〈TaiwanPlus〉という、英語圏の人たちに向けて台湾の文化を知ってもらうためのプラットフォームを作るなど、海外への発信に力を入れてるようです。2030年までに台湾をマンダリンと英語のバイリンガル国家にするという計画もありますし。今回のWMFはそういう動きと足並みがそろってる感じがしましたね。司会者も英語とマンダリンを織り交ぜて話していたり、アーティストも結構英語で話してましたよね」

正和「今回スキッフルのような音楽をやっていた泥灘地浪人(The Muddy Basin Ramblers)、彼らもアメリカ、イギリスとか、いろんな国の人が一緒にやってましたね」

泥灘地浪人

「彼らは主に台湾のエクスパットによって結成されたバンドなんですけど、面白いですよね」

正和「ボーカルが台湾の人で英語がすごく達者だった」

泥灘地浪人の2018年作『Hold That Tiger』収録曲“Zen Beat Rag”のライブ映像

 

台湾音楽シーンにおいて高まる原住民の存在感

理咲「客家(ハッカ)のアーティストも多いですよね」

正和「今回もラテン音楽のアーティストがいましたよね、客家の」

「“Son Montuno en Hakka” feat Titoですね」

“Son Montuno en Hakka” feat Tito

理咲「原住民と客家の方たちは、現在の台湾のワールドミュージックを担っている印象がありますね」

正和「基本的に台湾の音楽のメインストリームはマンダリンのポップな音楽だと思うんですけど、WMFではかなりオルタナティブな人が選ばれたのかなという気がしました」

「WMFのコンセプトは〈台湾のユニークな音楽を世界にプレゼンテーションし、台湾のパフォーマーを世界にプロモートしつつ、世界のユニークな音楽も台湾に紹介する〉っていうものなんですよね。ここでは〈民族音楽〉とか〈伝統音楽〉とか使っていなくて、〈音楽〉となっている。それが表れていましたよね。さまざまなジャンルのアーティストが出演していて、クロスオーバーって意味でもロックやラテンがあったり」

理咲「たとえば台青蕉樂團(Youth Banana)、この人たちはちょっとコミカルな感じですよね」

台青蕉樂團

おきらく台湾研究所さんっていう台湾情報を発信してるブロガーの方が、リアルタイムで彼らをすごい推してましたね。彼らは高雄のバナナの生産で有名なエリア出身のバンドらしいんです。〈農業とロック〉みたいなものをコンセプトに掲げていて、ちょっと土着的な感じなんですけど、ポップでとっつきやすい」

台青蕉樂團の2019年作『種下青春』収録曲“唱予媽媽”のライブ映像

理咲「農業をテーマにした音楽といえば思い出すのが“台灣米”をうたった詠能さん。2019年に台南のライブでお会いしたときは月琴の普及にも熱心でした」

正和「厳詠能。蔡(英文)総統とも交流のあった台湾南部出身の金曲奨シンガーソングライターです。2020年に急逝されたのが残念です。そういうローカルな持ち味のアーティストも今後もっと知られていくといいですよね」

2009年のコンピレーションアルバム『大員一家農出來』収録曲 厳詠能“只要大家攏吃台灣米(Taiwan Rice)”

「そうですね。シティポップのような音楽もおしゃれでかっこいいんですけど、台湾の音楽の魅力ってやっぱり、いろんなジャンルの音楽がひしめき合ってるところなんじゃないかなという気がします」

正和「台湾は民族構成が複雑なので、音楽にも多様性がありますよね」

理咲「原住民の文化のことが気になっていろいろ調べているうちに、彼らが実は縄文系の人たちとDNAが近いとか、あるいは太平洋の島々やアフリカや中南米とも近い文化を持っているっていう説もあるらしく……。桑布伊と話をしたときも、そういうことを感じました」

正和「特に原住民の場合は、海路を通じてマレー系の人たちとの繋がりがはっきりありますよね。マレー系の人たちも世界中に散らばっているから、非常に幅広い繋がりがあるんだと思います。

あとは近代になって中国からたくさんの漢民族が入ってきたときに、男中心でやってきていた彼らが、原住民の女の人と結婚して……とか。台湾でも南部には原住民の血が入っている人が多いっていうのは、結構みんな自分でも言ってますね。蔡総統もその血が入ってるっていうのを公言していますし。だから、原住民文化を手厚くサポートしていますよね」

「台湾ではいま、原住民が全人口に占める割合はおよそ2%みたいですね。もちろん昔からいるんですけど、存在感は高まっていますよね。

今年の金曲奨でも開会式で、阿爆(ABAO)っていう原住民シンガーがパフォーマンスをしたんです。そして式終盤の〈年間ベストアルバム〉の発表でも、今回の東京オリンピックに参加した原住民出身の選手たちと一緒に彼女が出てきて、桑布伊の名前が叫ばれるっていう。最初と最後で原住民がフィーチャーされていて、印象に残りました」

第32回金曲奨の開会式での阿爆のパフォーマンス

理咲「その授賞式にもいた重量挙げの金メダリスト郭婞淳は、いまや『Vogue Taiwan』の表紙を飾るようになっちゃいましたね。桑布伊は早々にFacebookで彼女のことを応援してました」