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――さて、ここからはみんなに訊いてる質問なんだけど、織原君の視点で、ジャズファンがメタルを聴いてみる時に、入り口としておすすめするメタル系の音楽って何?

「デイブ・リー・ロス・バンドの『Eat ’Em And Smile』(86年)ですね。これは個人的にも好きだから聴いてほしいと思います」

デイヴィッド・リー・ロス・バンドの86年作『Eat ’Em And Smile』収録曲“Shyboy”
 

「あとはやっぱりスティーヴ・ヴァイ。90年代のインストで『Alien Love Secrets』(95年)とか『Fire Garden』(96年)とか。この辺はフュージョンとロックとスタジオワークっぽくてジャズとの共通点があって、聴きやすいと思います」

スティーヴ・ヴァイの95年作『Alien Love Secrets』収録曲“Bad Horsie”
 

「最近のでは、ビヨンド・クリエイション(Beyond Creation)っていうバンドがいいと思う。一番ヤバいなと思った曲が、6弦フレットレスベースでメタルをバキバキに弾く曲。ベーシストの人で、フュージョンとかジャズ系でフレットレスを弾きたいって人は潜在的に結構いると思うんですけど、フュージョンやジャズしか聴かないって人でも、あれは間違いなく楽しいと思う」

ビヨンド・クリエイションの2011年作『The Aura』収録曲“Omnipresent Perception”
 

「僕、いつもフレットレスの情報をゲットするために〈#(ハッシュタグ)フレットレス〉でSNSを検索してるんですよ。そうするとやっぱり最近は、テクデス(テクニカルデスメタル)のフレットレス6弦が増えてますね。日本のバンドでも結構いるんですよ、テクデス・フレットレス、キてます」

――フレットレスでそれをやるメリットとか、効果って何?

「とりあえず気持ち悪い。不気味さがいいんですよ。ドラムスはガツガツ鳴ってたら、普通だったらベースも一緒にズクズクやりますよね。そこをフレットレスベースで、ヌメヌメヌメ、ビヨーン、ベロベロベロって不気味にやる。メタルを弾くフレットレスは、パンチは出ないんですけど、ストーリー性とかえぐみが出るっていうか。

でも、ロック系では昔から使われてたわけですよ。トニー・フランクリン(ベーシスト)は〈FretlessMonster〉ってアカウント名でTwitterもYouTubeもやってるけど、例えばジョン・サイクス(ギター/ホワイトスネイク)とやってたバンド、ブルー・マーダーがある。あと、ジャパンのベーシストのミック・カーンはヤバいですよ。ヴィジュアル系の走りみたいな人で。それから、プライマスっていうバンドのレス・クレイプールっていうシンガーでフレットレスのベーシスト。スラップしたりタッピングしたり、超ハイレベルなことをやりながら歌う人です。

これらのバンドは、ジャズ系から見てもめっちゃ楽しめると思います。メタルっていうよりロックだけど、フレットレス目線で。変な話〈テクい〉ってやつですね」

――逆に、メタル好きの人に入り口として聴きやすいジャズをお勧めするなら?

「ジャズとは言えないかもしれないけど、さっき言ったレジェンズ。あれはすごく好き。クラプトンが良いんですよ。クラプトンの音色の中で一番渋くて好き。

あと、ギターヒーローの曲を聴いて欲しいですね。カート・ローゼンウィンケルとかヒーロー感があると思うんですよ。『Caipi』(2017年)とかだと、つまんないかなあ?」

――『The Remedy: Live At The Village Vanguard』(2006年作・ライブ盤)とか?

「それ! その前まで、少しインテリっぽい感じだったじゃないですか。『The Remedy』は、普通に6/8とかストレートな拍子しかやってないし超ギターヒーロー感がある。素っ裸って感じで、スタジオ盤よりヒーロー感がすごいですよね」

カート・ローゼンウィンケルの2006年作『The Remedy: Live At The Village Vanguard』収録曲“Chords”
 

「ベース視点では、アドリアン・フェローですかね。多分ベースやる人だったら誰が観てもすごさがわかる。『Born In The 80’s』(2016年)ってアルバムがあって、それが歌もので、すごくポップ。これはお勧めです。あとはジャコ。ジョニ・ミッチェルとやってるもの。あれは最高に分かりやすいですよね。ジャコのソロとか音色とか。そしてとにかく見た目がカッコいい」

アドリアン・フェローの2016年作『Born In The 80’s』収録曲“Born In The 80’s (Feat. Ronald Bruner Jr, Jim Grancamp, Michael Lecoq, Eddy Brown, Leddie Garcia, Damien Schmitt, Leon Silva, Sean Eric, Kevin Williams, Mike Eyia, Shaz Sheferd & Amy Keys)”
 
ジョニ・ミッチェルの80年作『Shadows And Light』収録曲“In France They Kiss On Main Street”
 

――見た目がカッコいいって大事よね。

「カッコいいっていうのは大事だし、どっちかっていうと僕、ベースの内容よりもそっちのインパクトの方が強かった。明らかに普通じゃないですよね。『Shadows And Light』は入りやすいし、マストだと思いますね。それで(チャールズ・)ミンガスの曲とかもやってるから」

――メタル/ハードロック系の演奏を経験して、今の自分のジャズのプレイに何か活かされてることはある?

「音楽的にはあるとは思えないですけど、実は奏法的にあって。ビリー・シーンって、123って人差し指、中指、薬指ってピッキングするんですよ。16分音符でもこれでピッキングできるように練習しろっていうんですよ。ポリリズムです。だから、高校の時に机の上でそればっかり練習してて。2000年以降、親指を入れた4フィンガーの速いピッキングが流行り始めるんですけど、これって意外とビリー・シーンの奏法なんですよ。

昔僕は蕎麦屋でバイトしてて、中指を蕎麦屋のネギの微塵切り機に入れて切っちゃったことがあって、半年弾けなかったことがあるんですよ。それが、中指に包帯をしていても、これを練習してたおかげで、弾けてたんですよ! 半年弾けなかったけど、人差し指と薬指っていうイレギュラーなピッキングを覚えて、実は今でも半分はこれなんです、僕。

それで、たまに〈今のそれなんですか? なんで薬指使ってるんですか?〉って言われる。これはビリー・シーンのピッキングをやっていて、怪我したときにこれが残ったって答えてる。こういう人は結構レアでいないですね」

――NHORHMの活動の中で、改めて発見したことはあった?

「発見の方が多いですね。昔聴いてたものが新しく聴こえたり、バンド名は知ってるけどこれは聴いてなかったなーっていう発見があったり。それから、聴きに来てくれたメタルファンから声をかけられる時、出てくる名前が違いますね。トニー・フランクリンとか、トニー・レヴィンとか、パーシー・ジョーンズとか、プログレ系の話になることが多い。ジャコっていう文脈をあまり知らない人が、フレットレスの演奏を聴いてくれるいい機会になってると思います」

――あれだけジャコのフレーズとか曲の引用をねじ込んでるのに、なんとなく伝わってない感じが面白いよね。

「不毛なねじ込みをしてますからね。オタクは静かに、主張しないで素材を置くだけです。今メタルが好きだろうが、昔好きだろうが、ジャズ好きだろうが、共通する時代の温度感があって、そういう話ができるのが楽しいし好きですね。

僕だったら90年代の後半だったから、その時の〈Player〉誌の話とか、伊藤政則のコラムの話とか、みんな黒い格好してるとか、ショッキングピンクの何かとか、ああいうことを話せるのが音楽の話以上に好き。あらゆる世代にきっとそういう話題があるはずじゃないですか。

うちらの世代だから共有している文化観には、ミスター・ビッグとか、エクストリームとか、ドリーム・シアターっていうのが、無茶苦茶大きい存在だったんじゃないかなって実感します。それを今でも話せるのが、とても楽しいし好きですね。うまく言えないけど」

 


LIVE INFORMATION: 西山瞳

2021年11月23日(火・祝・昼)兵庫・神戸gallery Zing(電話078-413-4888)
デュオ:西山瞳(ピアノ)、かみむら泰一(テナーサックス)

2021年11月26日(金)東京・小岩COCHI(電話03-3671-1288)
デュオ:西山瞳(ピアノ)、馬場孝喜(ギター)

2021年12月17日(金)東京・池袋Apple Jump(電話03-5950-0689)
西山瞳トリオ:西山瞳(ピアノ)、西嶋徹(ベース)、則武諒(ドラムス)

★各ライブに関する詳細はこちら

 

RELEASE INFORMATION

西山瞳トリオ、7年ぶりスタジオアルバム『コーリング』発売中!

西山瞳トリオ 『コーリング』 MEANTONE RECORDS(2021)

リリース日 :2021年9月15日(水)
価格:2,970円(税込)
レーベル:Meantone Records
西山瞳(ピアノ)、佐藤“ハチ”恭彦(ベース)、池長一美(ドラムス)

TRACKLIST
1. “Indication”
2. “Calling”
3. “Reminiscence”
4. “Lingering In The Flow”
5. “Etude”
6. “Loudvik”
7. “Drowsy Spring”
8. “Folds of Paints”

 


PROFILE:西山瞳

 

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシックピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I’m Missing You』を発表。ヨーロッパジャズファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、横濱ジャズ・プロムナード・ジャズ・コンペティションにおいて、自己のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice Of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めてストックホルム・ジャズ・フェスティバルに招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。

以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、インターナショナル・ソングライティング・コンペティション(アメリカ)で、全世界約15,000エントリーの中から自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコード・ジャズ総合チャート1位、HMV総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自己のレギュラー・トリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『シフト』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカバーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、YOUNG GUITAR誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズ両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。

自己のプロジェクトの他に、東かおる(ボーカル)とのボーカルプロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグバンドへの作品提供など、幅広く活動。横濱ジャズ・プロムナードをはじめ、全国のジャズ・フェスティヴァルやイヴェント、ライヴハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさの共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。