ジャズピアニストでありながらメタルファンとしても知られる西山瞳さんによる連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。今回は、〈過去にメタルを演奏していた〉プロのジャズミュージシャンに、メタルとの関わり方を訊くインタビューシリーズ第2弾。メタルの名曲をジャズで演奏する西山さんのプロジェクト、NHORHMのメンバーでもあり、ジャズベーシストとして活躍する織原良次さんに、西山さん自身がメタルとジャズの関係性を訊いていきます。 *Mikiki編集部

★西山瞳の“鋼鉄のジャズ女”記事一覧

 


今月は、メタルを通ってプロのジャズ奏者になったプレイヤーへのインタビュー、第2弾です。

今回は、フレットレスベース奏者の織原良次にインタビューしました。ジャズでベースといえばコントラバスを使用するのが大半ですが、エレキベース専業、しかもその中でもフレットレスベース専業というニッチを極める彼は、偉大なるジャズベース奏者ジャコ・パストリアスの研究家としても知られており、今日本のジャズ界に織原君の代わりは全くいないという、唯一無二の存在となっています。

そして、彼は私が2015年に始めたヘヴィメタルの名曲をジャズピアノトリオで演奏するプロジェクトNHORHMのメンバーでもあります。彼と私は同じ学年で、大体同じような高校時代を経験し、似たような共通の時代体験があることは分かっていたので、このプロジェクトのベースは彼一択でした。プロジェクトが始まった時に初めて「最初のアイドルは、ビリー・シーンだった」と聞き、ああやっぱりと思ったんですね。

ということで、ビリー・シーンからジャコ・パストリアスと出会い、ジャズベーシストになるまでの道のりを訊いてみました。

 

〈ジャズベーシスト 織原良次 編〉
織原良次オフィシャルサイト https://www.ryojiorihara.com/

織原によるジャコパス・メドレー
 

――ベースを始めたのは?

「15歳、高校1年生です。僕自身は全く音楽教育とかを受けておらず、ステレオさえない家で育って、かといって運動もしたくなくて、中学は吹奏楽部に入ったんですよ。本当はドラムスかサックスをやりたかったんですけど、86人のクラブで男の子が僕一人で、おのずとチューバになって。全然音楽のことを知らないのに部長もやることになって、僕も断らないし満更でもない感じで得意気にやってて。

その後、所沢高校に進学して、そこでも吹奏楽部でチューバを吹こうと思ってたんですよ。ところが、自分のチューバを持ってる男の子が入ってきた。その彼がめっちゃ上手くて、楽器も持ってるし敵わないなって思って、誰にも言わず一人静かに挫折して、帰宅部になったんです。

そんな時、同級生に上手いギタリストがいたんですよ。今もビジュアル系のバンドをやってたり、プロデュースとか作曲もしてたりと活躍しているJUDY隼(ジュディじゅん/現在はバンド、逆しまな歯車を仮面が嗤う。 のギタリスト)君なんですけど、彼がその時、町一番のギタリストって感じの存在だったんですね。

当時からヴァン・ヘイレン、ポール・ギルバート、ヌーノ・ベッテンコートなどが好きで、僕も西山さんも79年度の学年だから分かると思うんですけど、ミスター・ビッグ、エクストリームの3枚目が出た時ぐらいかな。メガデスも緻密なメタルで人気があって、みんなでドリーム・シアターのビデオを観てた頃。で、そんな彼から〈ベースやらない?〉って言われて、僕、チューバをやっていたおかげで、ヘ音記号が読めたんですよ! それでベースを弾き始めて、最初にコピーしたのが、ヴァン・ヘイレンの“You Really Got Me”だったんです」

ヴァン・ヘイレンの78年作『炎の導火線』収録曲“You Really Got Me”
 

「リフがとても簡単で、そのリフが時々上昇するだけ。だからすぐ弾けた気がしました。だけど、ギタリストは前で膝をついてギューンとかやってるのに、ベースって簡単に弾けちゃうし、めっちゃつまんないなって思ったんですよ。で、そのギタリストのお兄さんが劇団員でシンガー、お母さんがピアノの先生で、24時間音を出せる地下室があって、そこでミスター・ビッグのコピーをやり始めるんです。そこでビリー・シーンを知って、夢中になるんですよね」

――ビリー・シーンの何が良かったの?

「派手だったんですよね。他のベーシストを聴いても何とも思わなかったんだけど、なんかもう〈これじゃん! ベースやるならこれでしょ!〉みたいに思えて。そのギタリストの友達の家に、社会人のバンドをやっている人たちも遊びに来てたんですが、その中にスティーヴ・ヴァイ(ギター)やスティーヴ・モーズ(ギター)が好きな人がいて、デヴィッド・リー・ロス・バンドの、スティーヴ・ヴァイとビリー・シーンが在籍していた頃の海賊版のビデオを持ってきてくれたんです。このビデオのビリー・シーンがとにかく超カッコよかった。

それで、ビリー・シーンの教則ビデオを買って、そのビデオの中にタラス(Talas)の頃のビリーのソロパフォーマンスが入ってて、それがまた超カッコよくって。今観てもよだれが出るぐらいカッコいい。最高です」

教則ビデオに映っていた、タラスのビリー・シーンのソロ
 

「スティーヴ・ヴァイとビリー・シーンの組み合わせっていうのは、背が高くて、ステージを走り回る感じが本当にカッコいい。今でもデヴィッド・リー・ロス・バンドの頃のビリー・シーンが一番好きです」

――ビリー・シーンが好きになった頃って、周りはどんな感じだった?

「身の回りの社会人の人とか年上の人とかは、モータウンが好きだって人が結構いたんですけど、そっちは何が良いのかわからなかったんです。高校3年の時、同級生で音楽に詳しい人がまた別にいて、彼がマーカス・ミラーを教えてくれたんですよ。当時ちょうど『Live & More』(97年)っていうライブ盤が出て、それを貸してくれた。それをいっぱい聴いたんですけど、僕はビリー・シーンの方がカッコいいなって思って、マーカスのことは何とも思わなかった。で、その友達に〈マーカスを聴いて分らないんだったら、ジャコを聴いてみれば〉って言われて」

――来た!

「そんな時に、ジョン・ミュング(ベース)とビリー・シーンが表紙の中古の〈Player〉誌を買ったら、レジェンドを紹介するページがあって、そこに載ってたのが偶然ジャコだったんですよ。〈ああ、これがみんなの言ってる人か〉って思って見てみたら、見た目が格好いいじゃないですか。それで、カッコいいから聴いてみようかなって思って。

ジャコは87年に亡くなってるんですけど、当時『Birthday Concert』(81年録音・95年リリース)ってアルバムが発売されてて、それも買ったんですよ。僕のジャコの思い出の中で一番ドキドキしたのは、このアルバムのジャケットなんです。どんな音楽なんだろう?と思って聴いてみたら……やっぱり何とも思わなかったんですよね」

――ええっ!? そうなの?

「その頃、『ジャコ・パストリアスの肖像』(ビル・ミルコウスキーが記した書籍)を読んで、みんなジャコの演奏する“Donna Lee”を聴いて〈雷に打たれたような衝撃があった〉とか〈何の楽器か分からなかった〉とか言ってるから、それも聴いたんですけど、僕にはその衝撃が訪れなかった。何回聴いても分からない。俺、才能ないのかなって。ショックだったんですよ。なんかポコポコ言ってて、コンガとエレベで、ポコポコ、ドゥーンってやってて。よく分かんないな、ビリー・シーンの方がずっといいやって思ってたんです」

ジャコの代表曲“Donna Lee”(76年作『ジャコ・パストリアスの肖像』収録)
 

――ビリー・シーンって色んなバンドやってたけど、ナイアシンみたいに難解な方面のビリー・シーンも聴いてた?

「ナイアシンはブルーノート公演も観に行ったけど、よく分からなかったですね。ビリー・シーンはやっぱりポール・ギルバートとスティーヴ・ヴァイのどちらかとユニゾンして、パキパキにタッピングとかしてる方がカッコいいなって」

――その頃バンドはやっていた? 演奏することが楽しいって感覚は?

「友達と楽しんではいたし、たまにライブはあったけど、ギターの友人の家で適当に“Johnny B. Goode”とか適当にセッションしている方が楽しかったですね。洋楽を聴いていると、その頃までのハードロックの人たちって紫色やショッキングピンクのパンツに、腰巻とかしてたじゃないですか。当時、あれがカッコ悪いとか、ハードロックがダサいとか言われてて、ブルーハーツをやる人とかハイスタを聴く人とかはいたし、むしろ周りはそっちの方が多かったですよね。うちの高校は当時、ハイスタを好きな人たちが校歌をアレンジしてパンク風に歌うのが流行ってました。それが超カッコよくて、僕らみたいに〈BURRN!〉とか読んでるのは暗いな!みたいな感じ。ハードロックとかメタル好きな人って、パリピ系ではなくて、物語的な文系って感じでしたね。

僕も〈ハードロックはアメリカじゃないと〉とか思ってたし、今考えるとちょっと嫌な感じだったかも。でも、日本のLOUDNESSも聴いてたし、他にもドイツのハロウィンとかも含めて、広く洋楽のロックを聴いていたけど、やっぱりビリー・シーンにハマったんですよね」

――バンドじゃなくて、アーティスト個人にハマるんだね。

「そうなんですよ。音楽史の中でどういう立ち位置か、とかそういうことより先に、個人や奏法が気になる。あと、グッズを集めるのも好きで、90年代に出た『Ultimate BILLY SHEEHAN(アルティメイト・ビリー・シーン)』っていう本は、生い立ちとか昔の写真、持ってるベースとか、譜面の全てにタブ譜が大量に載っていて、それを見るのがとても楽しかったですね。

僕にとって大事なのが、ロックとかベースを始めるまで、そこまでオタク的にハマったことは一つもなかったんです。それまで何にもハマったことがなかったから、普通すぎて嫌だったんですよ。そして大学に入っていよいよジャコにハマるんですけど、〈俺、何かに夢中になれるんだ〉みたいなのはすごく嬉しかったです」

――ジャコに辿り着くところまではどんな流れで?

「ミスター・ビッグのツアーで初めて日本武道館に行って、感動的だったんですけど、〈Player〉誌で見たジャコのことが気になっていたんです。ポコポコ鳴ってるのが謎で、引っかかっていました。で、大学に入ったら、ロック研に入ろうと思っていたんですけど、その高校の友達のギタリストのお母さんが〈ジャズ研に入ったらいいわよ。みんな上手いし、ロックみたいなこともできるし、何でもできるよ〉って言ったんですね。

だから、入学してすぐジャズ研に行ったんですが、その時に〈誰か好きなベーシストいるんですか?〉って訊かれて、調子こいて、何も知らないし好きでもないのに〈ジャコっすね〉って言っちゃったんです。全然知らないのに、どうやらみんなが衝撃を受けたらしいだから、ジャコとか言っとけばいいのかなと思って。

〈じゃあ何かやろうよ〉って言われて“The Chiken”(ジャコ・パストリアスの愛奏曲)とかをやることになっちゃって、それでコピーしようとしたら、全然弾けないわけですよ。ワケがわからないし、難しいし。で、その難しさにハマったんです。弾けないじゃん!って思って。ビリー・シーンも弾けなかったんですけど、あちらは気合いで弾くみたいなところあるじゃないですか。ジャコは〈ムッチャ賢い人がやる音楽じゃん、弾けないじゃん!〉みたいな。“Teen Town”(ウェザー・リポート)ってあるでしょ。何この難しい曲!?って、弾けないことで燃えた」

ウェザー・リポートの77年作『Heavy Weather』収録曲“Teen Town”(作曲はジャコ・パストリアス)
 

「他にも、ジョニ・ミッチェルの“Shadows And Light”のライブとかを観て、この人めっちゃカッコいいじゃん!って。それからジャコにハマって、今まで22~3年、ずっと変わってないっすね。

さっきも言った『Ultimate BILLY SHEEHAN』っていう本にジェフ・バーリン(ビル・ブルーフォードやアラン・ホールズワースとの共演でも知られるベーシスト)、ティム・ボガート(ベック・ボガート&アピスのベーシスト)、ジャコ・パストリアス、ビリー・シーン。この4人のベーシストが一緒に写った写真が載っていて、この人たちはどういう縁なんだろうなと思ってました。ジャコは1951年生まれで、スタンリー・クラーク、アルフォンソ・ジョンソン、マーク・イーガン、小原礼(いずれもベーシスト)などと同い年なんですよ。ちなみにフェンダーが初めてエレキベースを発売したのが1951年で、1951年はベースの年なんです。

1953年生まれのビリー・シーンがウェザー・リポートの“Birdland”をナイアシンで演奏してたこともあり、何の繋がりでやってるんだろうと思ってたけど、〈ジャコのことは好きだ〉〈あいつはすごい〉みたいなことを言ってるインタビューがあって、そのうち徐々にジャコにハマってって感じですね。

とにかく僕にとってショックだったことは、ジャコを最初に聴いた時に感動しなかったってことなんです。みんなが涙が出たとか雷に打たれたような衝撃を受けたとか言ってるものが、ポコポコにしか聴こえなくて、よく分からなかった。ショックだったんですよ」

――音質の問題ってなかった? 私も今になったら思うけど、昔ハマらなかったものって音質の問題も相当あったと思うのよね。後に補完して聴けるようになると、めっちゃいい!って思うこともあるし。

「高校生の時にウェザー・リポート聴きました?」

――聴いてますけど、ハマらなかった。

「あれ、当時はいい音だと思ったことが一度もなかったんですよ。僕も最初CDで聴いた時は〈何か重要な楽器が入ってないんじゃない? ヤバいでしょ〉とか思ったけど、後々ジャズ喫茶でLPを聴いたら全然違うって思った。特に『Night Passage』(80年)は良いシステムのLPで聴くとジャズなんだって分かったんです」

――インプロビゼーションに興味持ったきっかけはジャコなの? それまで聴いていたビリー・シーンにはインプロ要素は結構あったの?

「大学でジャズ研に入る時のきっかけとして、セッションに参加したいから興味を持ったところがあって、ジャコきっかけというより、ジャズというものに参加している人がカッコよく見えて。

ビリー・シーンでも、バッキングはライブによって結構違うじゃんって思うことはありました。当時リッチー・コッツェン(ギター)、T.M.スティーブンス(ベース)とかも聴いていたし、あと、ジョー・サトリアーニ(ギター)とエリック・ジョンソン(ギター)。あの辺を聴いて、インスト側に寄ってったんですよね。ヴァイのアルバム『Fire Garden』(96年)にスチュアート・ハム(ベース)が入ってたことがあったでしょ。スチュアート・ハムがフュージョン系のインストをやってるアルバムも買ったりして、そっちにも興味あったんですよね。

セッションでブルースするっていうのはロックの人たちにもあることじゃないですか。97年にNHKで〈モントリオールジャズフェス〉の中継があって、レジェンズっていうセッションバンドが出てたんですよ。デヴィッド・サンボーン、ジョー・サンプル、マーカス・ミラー、スティーヴ・ガット、そこにエリック・クラプトンが入っていて」

当時のレジェンズの動画
 

「高校の時にクラプトンにも結構ハマってて、ヤードバーズとかクリームとかデレク・アンド・ザ・ドミノスとか時系列で聴く勉強はしてたんですが、そのレジェンズの映像で、クラプトンが金色のストラトで超渋いアドリブをしてたんですよ。

その高校のギタリストの友達のお母さんがピアノ教室をやってる人で、〈こういう人たちはね、こういうところに入ってもできるのよ〉みたいなこと言ってて」

――そのお母様、素晴らしいね。本当に音楽が好きな方だったのね。

「そのお母さんは芸大に行くような子の指導もするけど、ジャズも通っている人で、フレディ・マーキュリーの大ファンで〈クイーンの曲やりましょう!〉とか〈サンタナを聴いた方がいいよ〉とか言うんです。

その方が少し前に亡くなって、久しぶりにその頃の仲間と会ったんですけど、実はお父さんもドラマーで、ドラマーの友人に〈ドラムはレギュラーグリップがいい。レギュラーグリップだったら何でもできるから〉とか、音楽のことをいろいろ教えてくれたんですよ。その縁があって、スラップを初めて見たのもそこで観たサンタナのビデオだったし、ジャコのモントリオールでやってる82年のライブのレーザーディスクもあって、見せてもらったりしてました」

――いいご縁があったのね、出会わなかったらどうなってたか分からなかったね。

「そうなんですよ。チューバを静かに挫折して帰宅部で終わってたかもしれない。よかったですよ」

――さて、ここからはみんなに訊いてる質問なんだけど、織原君の視点で、ジャズファンがメタルを聴いてみる時に、入り口としておすすめするメタル系の音楽って何?

「デイブ・リー・ロス・バンドの『Eat ’Em And Smile』(86年)ですね。これは個人的にも好きだから聴いてほしいと思います」

デイヴィッド・リー・ロス・バンドの86年作『Eat ’Em And Smile』収録曲“Shyboy”
 

「あとはやっぱりスティーヴ・ヴァイ。90年代のインストで『Alien Love Secrets』(95年)とか『Fire Garden』(96年)とか。この辺はフュージョンとロックとスタジオワークっぽくてジャズとの共通点があって、聴きやすいと思います」

スティーヴ・ヴァイの95年作『Alien Love Secrets』収録曲“Bad Horsie”
 

「最近のでは、ビヨンド・クリエイション(Beyond Creation)っていうバンドがいいと思う。一番ヤバいなと思った曲が、6弦フレットレスベースでメタルをバキバキに弾く曲。ベーシストの人で、フュージョンとかジャズ系でフレットレスを弾きたいって人は潜在的に結構いると思うんですけど、フュージョンやジャズしか聴かないって人でも、あれは間違いなく楽しいと思う」

ビヨンド・クリエイションの2011年作『The Aura』収録曲“Omnipresent Perception”
 

「僕、いつもフレットレスの情報をゲットするために〈#(ハッシュタグ)フレットレス〉でSNSを検索してるんですよ。そうするとやっぱり最近は、テクデス(テクニカルデスメタル)のフレットレス6弦が増えてますね。日本のバンドでも結構いるんですよ、テクデス・フレットレス、キてます」

――フレットレスでそれをやるメリットとか、効果って何?

「とりあえず気持ち悪い。不気味さがいいんですよ。ドラムスはガツガツ鳴ってたら、普通だったらベースも一緒にズクズクやりますよね。そこをフレットレスベースで、ヌメヌメヌメ、ビヨーン、ベロベロベロって不気味にやる。メタルを弾くフレットレスは、パンチは出ないんですけど、ストーリー性とかえぐみが出るっていうか。

でも、ロック系では昔から使われてたわけですよ。トニー・フランクリン(ベーシスト)は〈FretlessMonster〉ってアカウント名でTwitterもYouTubeもやってるけど、例えばジョン・サイクス(ギター/ホワイトスネイク)とやってたバンド、ブルー・マーダーがある。あと、ジャパンのベーシストのミック・カーンはヤバいですよ。ヴィジュアル系の走りみたいな人で。それから、プライマスっていうバンドのレス・クレイプールっていうシンガーでフレットレスのベーシスト。スラップしたりタッピングしたり、超ハイレベルなことをやりながら歌う人です。

これらのバンドは、ジャズ系から見てもめっちゃ楽しめると思います。メタルっていうよりロックだけど、フレットレス目線で。変な話〈テクい〉ってやつですね」

――逆に、メタル好きの人に入り口として聴きやすいジャズをお勧めするなら?

「ジャズとは言えないかもしれないけど、さっき言ったレジェンズ。あれはすごく好き。クラプトンが良いんですよ。クラプトンの音色の中で一番渋くて好き。

あと、ギターヒーローの曲を聴いて欲しいですね。カート・ローゼンウィンケルとかヒーロー感があると思うんですよ。『Caipi』(2017年)とかだと、つまんないかなあ?」

――『The Remedy: Live At The Village Vanguard』(2006年作・ライブ盤)とか?

「それ! その前まで、少しインテリっぽい感じだったじゃないですか。『The Remedy』は、普通に6/8とかストレートな拍子しかやってないし超ギターヒーロー感がある。素っ裸って感じで、スタジオ盤よりヒーロー感がすごいですよね」

カート・ローゼンウィンケルの2006年作『The Remedy: Live At The Village Vanguard』収録曲“Chords”
 

「ベース視点では、アドリアン・フェローですかね。多分ベースやる人だったら誰が観てもすごさがわかる。『Born In The 80’s』(2016年)ってアルバムがあって、それが歌もので、すごくポップ。これはお勧めです。あとはジャコ。ジョニ・ミッチェルとやってるもの。あれは最高に分かりやすいですよね。ジャコのソロとか音色とか。そしてとにかく見た目がカッコいい」

アドリアン・フェローの2016年作『Born In The 80’s』収録曲“Born In The 80’s (Feat. Ronald Bruner Jr, Jim Grancamp, Michael Lecoq, Eddy Brown, Leddie Garcia, Damien Schmitt, Leon Silva, Sean Eric, Kevin Williams, Mike Eyia, Shaz Sheferd & Amy Keys)”
 
ジョニ・ミッチェルの80年作『Shadows And Light』収録曲“In France They Kiss On Main Street”
 

――見た目がカッコいいって大事よね。

「カッコいいっていうのは大事だし、どっちかっていうと僕、ベースの内容よりもそっちのインパクトの方が強かった。明らかに普通じゃないですよね。『Shadows And Light』は入りやすいし、マストだと思いますね。それで(チャールズ・)ミンガスの曲とかもやってるから」

――メタル/ハードロック系の演奏を経験して、今の自分のジャズのプレイに何か活かされてることはある?

「音楽的にはあるとは思えないですけど、実は奏法的にあって。ビリー・シーンって、123って人差し指、中指、薬指ってピッキングするんですよ。16分音符でもこれでピッキングできるように練習しろっていうんですよ。ポリリズムです。だから、高校の時に机の上でそればっかり練習してて。2000年以降、親指を入れた4フィンガーの速いピッキングが流行り始めるんですけど、これって意外とビリー・シーンの奏法なんですよ。

昔僕は蕎麦屋でバイトしてて、中指を蕎麦屋のネギの微塵切り機に入れて切っちゃったことがあって、半年弾けなかったことがあるんですよ。それが、中指に包帯をしていても、これを練習してたおかげで、弾けてたんですよ! 半年弾けなかったけど、人差し指と薬指っていうイレギュラーなピッキングを覚えて、実は今でも半分はこれなんです、僕。

それで、たまに〈今のそれなんですか? なんで薬指使ってるんですか?〉って言われる。これはビリー・シーンのピッキングをやっていて、怪我したときにこれが残ったって答えてる。こういう人は結構レアでいないですね」

――NHORHMの活動の中で、改めて発見したことはあった?

「発見の方が多いですね。昔聴いてたものが新しく聴こえたり、バンド名は知ってるけどこれは聴いてなかったなーっていう発見があったり。それから、聴きに来てくれたメタルファンから声をかけられる時、出てくる名前が違いますね。トニー・フランクリンとか、トニー・レヴィンとか、パーシー・ジョーンズとか、プログレ系の話になることが多い。ジャコっていう文脈をあまり知らない人が、フレットレスの演奏を聴いてくれるいい機会になってると思います」

――あれだけジャコのフレーズとか曲の引用をねじ込んでるのに、なんとなく伝わってない感じが面白いよね。

「不毛なねじ込みをしてますからね。オタクは静かに、主張しないで素材を置くだけです。今メタルが好きだろうが、昔好きだろうが、ジャズ好きだろうが、共通する時代の温度感があって、そういう話ができるのが楽しいし好きですね。

僕だったら90年代の後半だったから、その時の〈Player〉誌の話とか、伊藤政則のコラムの話とか、みんな黒い格好してるとか、ショッキングピンクの何かとか、ああいうことを話せるのが音楽の話以上に好き。あらゆる世代にきっとそういう話題があるはずじゃないですか。

うちらの世代だから共有している文化観には、ミスター・ビッグとか、エクストリームとか、ドリーム・シアターっていうのが、無茶苦茶大きい存在だったんじゃないかなって実感します。それを今でも話せるのが、とても楽しいし好きですね。うまく言えないけど」

 


LIVE INFORMATION: 西山瞳

2021年11月23日(火・祝・昼)兵庫・神戸gallery Zing(電話078-413-4888)
デュオ:西山瞳(ピアノ)、かみむら泰一(テナーサックス)

2021年11月26日(金)東京・小岩COCHI(電話03-3671-1288)
デュオ:西山瞳(ピアノ)、馬場孝喜(ギター)

2021年12月17日(金)東京・池袋Apple Jump(電話03-5950-0689)
西山瞳トリオ:西山瞳(ピアノ)、西嶋徹(ベース)、則武諒(ドラムス)

★各ライブに関する詳細はこちら

 

RELEASE INFORMATION

西山瞳トリオ、7年ぶりスタジオアルバム『コーリング』発売中!

西山瞳トリオ 『コーリング』 MEANTONE RECORDS(2021)

リリース日 :2021年9月15日(水)
価格:2,970円(税込)
レーベル:Meantone Records
西山瞳(ピアノ)、佐藤“ハチ”恭彦(ベース)、池長一美(ドラムス)

TRACKLIST
1. “Indication”
2. “Calling”
3. “Reminiscence”
4. “Lingering In The Flow”
5. “Etude”
6. “Loudvik”
7. “Drowsy Spring”
8. “Folds of Paints”

 


PROFILE:西山瞳

 

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシックピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I’m Missing You』を発表。ヨーロッパジャズファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、横濱ジャズ・プロムナード・ジャズ・コンペティションにおいて、自己のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice Of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めてストックホルム・ジャズ・フェスティバルに招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。

以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、インターナショナル・ソングライティング・コンペティション(アメリカ)で、全世界約15,000エントリーの中から自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコード・ジャズ総合チャート1位、HMV総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自己のレギュラー・トリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『シフト』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカバーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、YOUNG GUITAR誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズ両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。

自己のプロジェクトの他に、東かおる(ボーカル)とのボーカルプロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグバンドへの作品提供など、幅広く活動。横濱ジャズ・プロムナードをはじめ、全国のジャズ・フェスティヴァルやイヴェント、ライヴハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさの共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。