ジャズピアニストでありながらメタルファンとしても知られる西山瞳さんによる連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。今回は、〈過去にメタルを演奏していた〉プロのジャズミュージシャンに、メタルとの関わり方を訊くインタビューシリーズ第2弾。メタルの名曲をジャズで演奏する西山さんのプロジェクト、NHORHMのメンバーでもあり、ジャズベーシストとして活躍する織原良次さんに、西山さん自身がメタルとジャズの関係性を訊いていきます。 *Mikiki編集部

★西山瞳の“鋼鉄のジャズ女”記事一覧

 


今月は、メタルを通ってプロのジャズ奏者になったプレイヤーへのインタビュー、第2弾です。

今回は、フレットレスベース奏者の織原良次にインタビューしました。ジャズでベースといえばコントラバスを使用するのが大半ですが、エレキベース専業、しかもその中でもフレットレスベース専業というニッチを極める彼は、偉大なるジャズベース奏者ジャコ・パストリアスの研究家としても知られており、今日本のジャズ界に織原君の代わりは全くいないという、唯一無二の存在となっています。

そして、彼は私が2015年に始めたヘヴィメタルの名曲をジャズピアノトリオで演奏するプロジェクトNHORHMのメンバーでもあります。彼と私は同じ学年で、大体同じような高校時代を経験し、似たような共通の時代体験があることは分かっていたので、このプロジェクトのベースは彼一択でした。プロジェクトが始まった時に初めて「最初のアイドルは、ビリー・シーンだった」と聞き、ああやっぱりと思ったんですね。

ということで、ビリー・シーンからジャコ・パストリアスと出会い、ジャズベーシストになるまでの道のりを訊いてみました。

 

〈ジャズベーシスト 織原良次 編〉
織原良次オフィシャルサイト https://www.ryojiorihara.com/

織原によるジャコパス・メドレー
 

――ベースを始めたのは?

「15歳、高校1年生です。僕自身は全く音楽教育とかを受けておらず、ステレオさえない家で育って、かといって運動もしたくなくて、中学は吹奏楽部に入ったんですよ。本当はドラムスかサックスをやりたかったんですけど、86人のクラブで男の子が僕一人で、おのずとチューバになって。全然音楽のことを知らないのに部長もやることになって、僕も断らないし満更でもない感じで得意気にやってて。

その後、所沢高校に進学して、そこでも吹奏楽部でチューバを吹こうと思ってたんですよ。ところが、自分のチューバを持ってる男の子が入ってきた。その彼がめっちゃ上手くて、楽器も持ってるし敵わないなって思って、誰にも言わず一人静かに挫折して、帰宅部になったんです。

そんな時、同級生に上手いギタリストがいたんですよ。今もビジュアル系のバンドをやってたり、プロデュースとか作曲もしてたりと活躍しているJUDY隼(ジュディじゅん/現在はバンド、逆しまな歯車を仮面が嗤う。 のギタリスト)君なんですけど、彼がその時、町一番のギタリストって感じの存在だったんですね。

当時からヴァン・ヘイレン、ポール・ギルバート、ヌーノ・ベッテンコートなどが好きで、僕も西山さんも79年度の学年だから分かると思うんですけど、ミスター・ビッグ、エクストリームの3枚目が出た時ぐらいかな。メガデスも緻密なメタルで人気があって、みんなでドリーム・シアターのビデオを観てた頃。で、そんな彼から〈ベースやらない?〉って言われて、僕、チューバをやっていたおかげで、ヘ音記号が読めたんですよ! それでベースを弾き始めて、最初にコピーしたのが、ヴァン・ヘイレンの“You Really Got Me”だったんです」

ヴァン・ヘイレンの78年作『炎の導火線』収録曲“You Really Got Me”
 

「リフがとても簡単で、そのリフが時々上昇するだけ。だからすぐ弾けた気がしました。だけど、ギタリストは前で膝をついてギューンとかやってるのに、ベースって簡単に弾けちゃうし、めっちゃつまんないなって思ったんですよ。で、そのギタリストのお兄さんが劇団員でシンガー、お母さんがピアノの先生で、24時間音を出せる地下室があって、そこでミスター・ビッグのコピーをやり始めるんです。そこでビリー・シーンを知って、夢中になるんですよね」

――ビリー・シーンの何が良かったの?

「派手だったんですよね。他のベーシストを聴いても何とも思わなかったんだけど、なんかもう〈これじゃん! ベースやるならこれでしょ!〉みたいに思えて。そのギタリストの友達の家に、社会人のバンドをやっている人たちも遊びに来てたんですが、その中にスティーヴ・ヴァイ(ギター)やスティーヴ・モーズ(ギター)が好きな人がいて、デヴィッド・リー・ロス・バンドの、スティーヴ・ヴァイとビリー・シーンが在籍していた頃の海賊版のビデオを持ってきてくれたんです。このビデオのビリー・シーンがとにかく超カッコよかった。

それで、ビリー・シーンの教則ビデオを買って、そのビデオの中にタラス(Talas)の頃のビリーのソロパフォーマンスが入ってて、それがまた超カッコよくって。今観てもよだれが出るぐらいカッコいい。最高です」

教則ビデオに映っていた、タラスのビリー・シーンのソロ
 

「スティーヴ・ヴァイとビリー・シーンの組み合わせっていうのは、背が高くて、ステージを走り回る感じが本当にカッコいい。今でもデヴィッド・リー・ロス・バンドの頃のビリー・シーンが一番好きです」