メタラーのジャズピアニスト・西山瞳さんによるメタル連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。第76回は、観客の振る舞いがSNSでもたびたび話題になる、ライブの楽しみ方について。メタルとジャズ、両方の現場をよく知る西山さん流のライブの満喫方法を、2つのジャンルを比較しながら教えてくれました。 *Mikiki編集部

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今年も大阪の大規模ジャズフェスティバル〈高槻ジャズストリート〉に出演してきました。

しばらくNHORHM(ヘヴィメタル楽曲をカバーするピアノトリオ)で出演していたこともあり、今年もメタルバンド黒Tシャツ着用のメタラーの皆さんにも、沢山来て頂きました。

開場時間前に並び、開場後即座に小走りにやってきて、最前列をキープする。

楽屋のテントからその様子を見ていましたが、メタルの現場じゃないので、そんなに頑張らなくても大丈夫ですよ! ここはジャズの現場ですよ!

と思いつつ、気持ちはわかるし、嬉しい! ジャンルの違うフェスで、ジャンルの違う音楽ファンが集う喜びを感じておりました。

私はメタルとジャズのどちらもライブに行きますが、両方のライブ文化の違いは本当に面白いですね。

どちらが良いとかそういう話ではなく、これは単に文化の違いなので、郷に入りては郷に従えじゃないですけど、いつも両方楽しんでいます。

高槻での〈小走り、最前確保〉で、他にどんな違いがあるかな、私はどうやって楽しみ方を変えているのかなと、改めて考えてみました。

 

チケット販売開始〜当日まで

メタルは、チケット販売開始日に確保

だって整理番号とかあるし、売り切れちゃう公演もあるし、とにかく早く行動がマストです。そして、確保したことはSNSでつぶやく。そうすると、〈私も押さえた〉という同志が現れて、期待のワクワク感を共有できますし、〈自分もチケットとろう!〉という人も出てくるし、仲間が増えていく喜びがある。早めにソールドアウトになればアーティストは気持ちいいですし、ひいてはアーティストの応援になりますしね。

そして、販売グッズの発表を待ちます。最近は発表と同時に、事前に通販してくれるバンドも増えました。コロナ禍で列を作って密集することを避けるために、この事前販売の形がとられることが多くなったのですが、これはアーティストもリスナーも両方ハッピーな素晴らしいことだと思います。当日着ていくTシャツも先に購入できますし。

Tシャツは、そのバンドのものを着ていく人が増えましたが、こういう事前販売があると、着用率はさらに上がりますよね。以前はもっと、違うバンドのTシャツを着ている人が多かったように思います。

私はというと、大概の現場には「ヘドバン」Tシャツを着ていきます。天邪鬼なもので、あまり現場で一体化しすぎたくないということもありますが、でも黒Tシャツで同一化したいし、メタルという音楽への忠誠は表明したい。そんな時に大変便利でして、以前雑誌「ヘドバン」で作っていたTシャツの出番が一番多いです。

そして、予習&復習ですよ。アルバムを聴き込んで、聴き漏らしていたアルバムもちゃんと聴いて、しっかり予習&復習。メタルの場合、これも含めてライブ体験だと思っています。ライブを機会に、改めてしっかり向き合う時間をくれる、という感じですね。

 

ジャズの場合、ホール公演を除いて、チケットの必要な公演というものがほとんどないので、公演を知ってからの初動は、のんびりしたもんです。行こうと思った公演は、メールか電話でお店に予約するんですけど、混雑が予想される公演で、整理番号が発行されることが時々あるぐらいですね。自分自身でライブをしていても、ライブハウスの場合はライブ当日の1週間前ぐらいから予約が入ってくることが多くて、初動が遅いです。

事前に音源を聴いて準備することも、ほぼありません。よっぽどのレコ発とかでない限り、ジャズミュージシャンはライブ内容は当日決めることが多いですし、即興演奏なので同じ曲でも日によって変わりますから、そのアーティストのCDを聴き込んでいても、ライブ演奏は絶対違うものになります。むしろ、全く知らないものが聴けるのではないか、想像していたのと違うことが起こるんじゃないか、と期待して行くところがあるので、ちょっと博打みたいな気分で出かけます。面白いことに、博打は大体当たります。人がその場で生み出す行為、生命力は、出てきた音がどんな音であれ、心動かされるものです。(たとえ博打に外れても、演奏が悪いのではなくて、私の当日の気分に一致しなかっただけ、と思っていますよ。)

ジャズの場合、持っていないCDは、当日まで買わずに我慢して、当日購入して本人のサインをもらう、という方が一挙両得で良いです。