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シンプルでありながらカッコいい音楽を作ろうと奮起した

――今回、清水さんが発表なさる新作『Aspire』は、峰さんのバンドのリズムセクションでもある清水絵理子トリオによるレコーディングですが、制作のきっかけはどのようなことだったのでしょうか?

「2020年1月に新宿PIT INNでライブをやった時に、Days of Delightのオーナープロデューサーである平野暁臣さんが聴きに来てくださったのがきっかけです。その時のライブはもともと、今お話しした峰厚介カルテットの出演予定だったのですが、峰さんの体調不良で、急遽リズムセクションだけでステージに上がることになりました。

もちろんスタンダードを演奏するという手もあったけれど、その日はもともと峰カルテットが出演する予定だったわけですから、峰バンドでやっている峰さんのオリジナルだけをトリオバージョンで演奏したんです。そうしたところ、日頃から峰カルテットを聴いている平野さんがこのトリオに新たなものを感じられたらしく、その場でレコーディングのオファーをいただきました」

『Aspire』トレーラー映像
 

――全曲オリジナルですよね?

「そうです。それがその時のオファーでしたから。全曲オリジナル、しかも書き下ろしで、というリクエストでした」

――それを聞いて最初にどう思われましたか?

「気合いが入りました(笑)。トリオになった時のインタープレイも面白いという実感もありましたし、奮起してオリジナル曲を揃えようとお受けしました」

――曲作りは順調に進んだのでしょうか?

「曲作りは順調でした。ひとつには、自分の想いをシンプルに曲の中に込められるようになったからかもしれません。それからもうひとつは、このトリオを想定した作曲が楽しかったということ。ベースの須川(崇志)くんとドラムの(竹村)一哲くんの顔を思い浮かべ、この曲は音を出したら……と想像しながら書き進めていくのは本当に楽しかった。曲作りの時間も十分に頂けて、自分の納得がいくまで掘り下げることもできました」

――作曲で大切にしたことは?

「自分のオリジナル曲だから、ありきたりの曲にはしたくないというのが、最初に思ったことでした。でも、だからといって、奇を衒いたくないという思いもありました。音楽の一番自然な姿というものがあると思うんです。私自身、奇を衒ったものには感動しませんので。シンプルでありながらカッコいい音楽を作ろうと。それと、この時代を生きる者の想いが詰まっている曲を作りたいと思いました」

 

〈阿吽の呼吸〉ではない緊張状態の中からこそ生まれる音

――確かに、アルバム全体から、清水さんのおっしゃるような真っすぐなジャズスピリットが強烈に伝わってきました。ジャズの源のひとつであるゴスペルのフィーリングが濃厚に立ち上るソロピアノのイントロの後に、急速なリズムが生み出すダークな空間の中をノンシャランなメロディーが疾走し始める“Easy Evolution”や、内省的な響きを持つ“Invisible Arrow”など、それぞれの楽曲に主張があるのがとても印象的です。

「“Easy Evolution”の冒頭のソロピアノにゴスペルフィーリングを感じていただけたのはとても嬉しいですね。私が最初にジャズを聴き始めた頃にハマったのがアフリカンアメリカンたちのゴスペルミュージック。NYに行った時、あちこちのジャズクラブでジャズを聴いたり、ジャムセッションに加わったりもしましたが、一番強烈な印象だったのは、ハーレムで聴いた教会のゴスペルミュージックだったんです。魂の叫びのぶつけあいに、鳥肌で立ちすくみました。そういうプレイに影響されていた時もあったので、それが自然に出たんだろうと思います」

『Aspire』収録曲“Easy Evolution”の録音風景
 

――須川崇志さんと竹村一哲さんのお名前が出ましたが、このおふたりと演奏する楽しさというと?

「それぞれ違うフィールを持っているところです。語弊があるかもしれませんが、このトリオの楽しさって、すごくグルーヴが合うとか、目指すサウンドの方向が一緒とか、そういうことじゃないんです。ジャズって自由な音楽だから、いろいろなやり方があると思うんです。たとえば、趣向が同じ人とグループを作って演奏すると、自分が思う心地よいグルーヴ感や合いの手が入ることで相乗効果が生まれ、良い演奏につながることも多い。たしかにそれもひとつのやり方だけど、私は〈阿吽の呼吸〉ではない、ある種の緊張状態の中で生まれてくる音、その中でしか出せない音というものがあると思うんです。それがこのトリオの魅力でもあります」

――最後に今後の御予定や計画をお聞かせください。

「直近の予定としては、2月と4月にアルバム『Aspire』のリリース記念ツアーを行ないます。それが落ち着いたら、また新たなチャレンジをしてみたい。今回のアルバム制作の中で曲作りもとても楽しかった実感がありますので、ジャズの世界に入ってからあまりやってこなかった作曲もどんどんやっていきたいです」

 


RELEASE INFORMATION

清水絵理子 『Aspire』 Days of Delight(2022)

リリース日:2022年1月26日(水)
品番:DOD-021
価格:2,750円(税込)

TRACKLIST
1. Easy Evolution
2. Caveat
3. Invisible Arrow
4. Reminiscence
5. Unknown Blues
6. Pongee
7. Pearls before Swine
8. Aspire
9. Epilogue
(2021年8月2日、3日東京にて録音)

 

LIVE INFORMATION
清水絵理子『Aspire』発売記念ライブ

2022年2月10日(木)東京・新宿 PIT INN
2022年2月11日(金)新潟 Jazz Flash
2022年2月12日(土)群馬・榛東村 主音求Ⅱ(スイングセカンド)
2022年2月13日(日)埼玉・熊谷 Space1497
2022年4月21日(木)大阪 Mr.Kelly’s
2022年4月22日(金)石川・金沢 松雲寺クラウド
2022年4月23日(土)愛知・名古屋 jazz inn LOVELY
2022年4月24日(日)静岡 DOTCOOL